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010.王様のオーラが凄い

今回は短いです。

 第三王子と、ちょっとした空の旅をした後、会場に戻ってすぐ、私はお父様に促されてお城の中の一室にやって来ていた。

 怒られたりするだろうな、と構えていたのに意外だったけれど、何でも王様が私を呼んでいるとのこと。

 納得はしたけど、逆に嫌な予感が増した。絶対見られたとかでしょ。そうじゃなきゃ、何でわざわざ呼ばれることになるんだ。

 ビクビクする私に、お父様は優しくフォローしてくれたけど、そうそう緊張が解ける訳もなく、私はドナドナされる子牛の如く、王様の前に連行された。


「ほう。お前が、イゴールの娘か。もっと良く顔を見せてみろ」

「かしこまりました」


 王様……アヴァロン・リレン・アスルヴェリア王は、ゲームでモブ扱いだったのが理解出来ないくらい、若々しくて男らしい人だった。

 豪奢な椅子に腰かけて、それこそふんぞり返っていても、何の違和感も無い。圧倒的カリスマ感。彼を目の前にすると、誰に言われなくても、自然と頭を下げたくなってしまう。

 そんな人が、頭を下げていた私のところまで、ズンズンと歩いて来て、顔を上げるように言う。

 その指示通りにすると、ガッと私の顎を掴まれ、上を向かされた。

 そして、王様は興味深そうに私の顔をしげしげと観察する。


「ふむ……なるほどな。レーラに良く似ている」


 レーラとは、私のお母様、ヴァレリア・サンチェスターの愛称である。

 お母様は王様の実妹らしいけど、こうして見てみると、あまり似ていないような気がした。

 王様は、王子3人とカラーリングが一緒で、王家の血の濃さを感じさせる。銀色の髪、赤い目、意志の強そうな面差し。

 私のお母様は、どちらかと言えば私よりも悪役令嬢が似合いそうな、高慢そうな顔をしている。金色の髪、青い目、衰えを知らない美しさ。

 やっぱり、似ていない。気が強そう、というくくりなら確かに似ているかもしれないけれど。


「だが、そのエメラルドの瞳は父親か」


 私の髪は金色で、目はエメラルド。言われてみれば、髪はお母様で、目はお父様からの遺伝だ。

 あまり意識したことがなかったけれど、王様にかけられた言葉で、不思議と家族の繋がりみたいなものが感じられて、少し誇らしく思った。


「なかなか美しい娘になりそうじゃないか、イゴール。自慢の子だろう?」

「ええ。世界中の名立たる姫君よりも、ずっと美しくなると考えております」

「あの地獄生まれのイゴールと呼ばれた程の男が、変わるものだな」


 王様にも、何人もの女のお子様が居る。ともすれば、王家に弓引くような調子に乗ったお父様の発言を、王様は笑って流す。知らなかったけど、この様子を見る限り、二人の仲は良いのだろう。ちょっとホッとした。

 胸を撫で下ろす私の顔をもう一度だけ見ると、王様は満足げに笑って、ようやく顎から手を離してくれた。これには凄くホッとした。


 ……て言うか、「地獄生まれのイゴール」って……。

 お父様の二つ名、不穏過ぎません?


「さて、エカテリーナ嬢。そう硬くならずとも大丈夫だ。この場は公的なものではない。気を楽に、自由に話してもらって構わんよ」

「お心遣い、感謝申し上げます。陛下」

「……硬いなぁ」


 王様は、私の返事に不服そうだけど、無理ですから。楽になんて。

 実際、通された場所はお城の中では小さめの部屋だから、私的な顔合わせだと言うのは分かるけど、何人もの使用人の方々が、左右にズラーッと並んでいるし、扉の周りには騎士の人たちで固められているし、気を抜けるはずがない。

 監視の意味を含んでいる……のかどうかは分からないけど、普通に緊張するよ。心は小市民なんだから。


「ふむ……アイツらを下げさせるか」

「いいえ、陛下。それはなりません。お分かりでしょう?」

「冗談の通じん男だ。つまらん」


 お父様の注意を受けて、つまらなそうに息を吐く王様は、少し幼い印象だ。

 肘をついて、今度はお父様から私へと視線を戻す。

 自然と背が伸びた。


「まぁ、良い。元々会う予定ではいたが、わざわざ呼びつけたのは聞きたいことがあったからだ」

「…………」


 王様直々に、聞きたいこと。私はグッと唾を飲み込んだ。

 公的な場ではない、と言われても、不安が増して来る。

 何か、不躾なことをしてしまっただろうか。言ってしまっただろうか。

 第三王子を迎えに来る為に、お城の壁に穴を空けてしまったのは、確かに私が遠因かもしれないですけど、弁償はまだ出来ませんよ! 子どもなんで!


「エカテリーナ嬢。君は、我が息子たち3人全員と話をしたそうだな?」

「ええ。とても貴重な時間を過ごさせて頂きました」

「それは結構なことだ。そこで、問うが……君は、あれらをどう思った?」

「どう……とても素晴らしい方々だと思いましたわ」


 ウソではない。本当でもないかもしれないが。

 今までの反省を生かして、私は当たり障りのないことを答えた。

 それは、間違ってはいないと思うのだけれど、王様は不満そうに眉をひそめた。


「エカテリーナ嬢。俺は、君のそんな優等生のような答えを聞きたい訳ではない」

「…………?」

「どんな答えが返って来ようと、俺はその内容について怒ることはしない」


 だから、正直に言えと。

 ……そ、そう言われましてもー……。

 私は、すっかり困惑してしまって、思わず隣に座るお父様を見た。

 お父様は私を安心させるように、軽く背中を撫でてくれる。

 ……あ、これ、言わなきゃダメな奴ですか。


「そ、それでは、もしかすると不敬になってしまうやもしれませんが……」

「うん、構わん。言ってみなさい」


 もう一度だけ躊躇う。今この瞬間に殺される、ということはないだろうけど、何しろ私は、一歩毎に死亡判定がかけられているのではないかと疑われるくらいのレベルですぐ死んでしまう、あのエカテリーナなのだ。

 現実となったからこそ、ルカに助けられるという、ゲームでは有り得なかった解決方法で今まで生き延びられたに過ぎないのだ。

 ……そんな私が、想定していない言動を取ればどうなるのか。その影響は、計り知れない。このひと言で、死亡エンドに分岐するかもしれない。

 その不安がつきまとって、どうにも唇が重く感じる。

 でも、言わない方が今の場合殺されそうだし、言おう。


「お3方とも、個性的で、とても……魅力的な方たちだな、と」

「魅力的、か? あれらが?」


 何故か、王様が驚いたように目を見開いた。

 あれ、私殺されちゃう? 不敬? 不敬だった?

 滅茶苦茶焦るけど、ここまで言っちゃえばどうせ同じだ。私は、勢いのままに言葉を続けた。


「はい。皆様、私の考えてもみなかったようなことをなさったり、仰ったりするので、何度も驚きました。それは、未知の領域で、恐ろしくもありましたが、その一方で……心躍るものがございました」


 想定外は、とても怖い。死んでしまうかもしれないから。

 だけど、その問題を取り除いてしまえば、彼らは大好きだったゲームの登場人物たちでしかない。

 ゲーム画面を通して見ていた彼らよりも幼いけれど、やっぱり彼らは彼らで、私の好きな人たちだった。出来れば、その隣には主人公である神子様が居てくれれば尚良いけど、それは別の話だろう。

 話が逸れた。つまり私は、彼らと話をするのが何だかんだ言って、楽しかったのだ。……からかわれるのは、ごめんですけどね。


「あれらが、君の知らない世界を見せてくれる、と」

「はい。三者三様の世界でございました」

「……そうか」


 王様は、すっと目を細める。

 どんな感情なのかは分からないけど、興味深く思っている、とかだろうか。それとも、息子たち知らない間に成長してたなー、とか感慨深く思っている、とかだろうか。

 いやいや、高貴な方のお考えは、私には分かりませんね。


「分かった。なかなか興味深い感想だった。……もう、下がって良いぞ」

「はい」


 どうやら、退室の許可が下りたようだ。

 私は、ホッと溜息をつきかけて、慌てて飲み込む。

 最後の最後で下手打てないよね。


「イゴール。お前は少し残れ。エカテリーナ嬢は、付き人が居るから平気だな?」


 お父様に用事? 何だろう? ……私の居ないところで、駄目出しかな。

 凄くあり得る。不安に思ってお父様を見ると、お父様は少し考えるように眉を寄せ、一呼吸置いてから部屋の隅へ視線をやった。


「……ルカ。カチューシャのことを頼む」

「かしこまりました」


 お父様の指示を受けて、端っこで待機していたルカが、私のところまでやって来る。そして、私とルカはお父様を置いて退室した。


「お父様、大丈夫かな?」


 部屋を出ると、メイドさんが別室を案内してくれた。

 お茶会はもう終わっている時間らしく、会場には戻れないし、お父様も一緒じゃないと家には帰れないから、王様とのお話が終わるまでは待機になるようだ。

 その部屋には、私とルカしかいなかったから、私は正直に気持ちを呟いた。

 ルカは、相変わらずの隙の無い笑顔で私にお茶を出すと、静かに頷いた。


「ええ。他ならぬ、お嬢様のお父様ではありませんか」

「そう、だよね」


 他に、何を話すような気にもなれなくて、私はお茶を飲みながら、じっと外を見つめて過ごした。

 この世界に生まれ変わってから5年で、一番長い時間だったように思う。


 ……それから、しばらくしてお父様が戻って来て、一緒に家路についた。

 その間もずーっと無言で、それは考えてみれば割といつものことなんだけど、お父様無口なタイプだし。でも、妙に気持ちがザワザワした。


(うーん……お茶会イベント、これで大丈夫だったのかな?)


 思い返してみれば、不安要素しかない。

 これじゃあ、グレイさんからふがいないって怒られてしまうかもしれない。

 いや、怒られることが問題じゃないけどね。文字通り命かかってるんだけどね。


(……王様、モブだからって侮りがたし……)


 つくづく、あのゲームは訳が分からない。

 あんなにキャラが濃い人がモブ扱いって、おかしいでしょ。

 もう少し……せめて、立ち絵の一つでも用意しておいてくれれば、もう少し心構えが出来たのに。


 なんて、文句を言っていても仕方が無い。

 とにかく、帰ったらすぐにグレイさんと反省会を開こう。

 それで、今後の方針を練り直さないと。


 馬車に揺られながら空を見ると、もう赤く染まり始めていた。


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