下・君の明日と雪の華
3話上がったー!
みんな!メリークリスマスですよ!
【12月19日】side此花
瀬名とアドレスを交換して二日、灯弥は毎日メールを送り、少しでも瀬名を元気づけようとしていた。
『おはよう』『おやすみ』といった些細な挨拶から、今日あった出来事や、楽しいこと。
手術が近づく瀬名を想って、明るい内容のメールを書くのに時間をかけていた。
そして今週は高校の三者面談期間で授業は午前中で終わる。
昨日の放課後に面談を終えていた灯弥は、今日の放課後にまた病院に見舞いに行くことを決め、夜のうちに瀬名にメールをしておいた。
瀬名からは『待ってます!』ととても嬉しそうな返事が直ぐに返ってきて、それを見た灯弥がまたベッドで悶えたことはそれを覗いていた灯弥の母親にバレているのだが、それを灯弥が知るのはずっと先のことである。
その約束を楽しみに、HRが終わって直ぐに荷物をまとめて帰ろうとする灯弥の前を、誰かが立ち塞がって止めた。
灯弥がゆっくりと顔を上げると、そこに居たのはクラスのムードメーカーの久橋 輝也とその取り巻きだった。
久橋はいつも明るく、クラスのまとめ役として人気だが、それは彼に目を付けられることがクラス内での孤立を意味することを、灯弥も知らないわけでは無かった。
久橋は何かを企んでいるような怪しい笑顔を貼り付け、口を開く。
「やぁ此花君、早いじゃないか。」
「別に、いつも通りだ」
「しかも先週は二度、病院に通っていたらしいじゃないか」
(そこまで掴んでいるのか)
動揺を顔には出さず、灯弥は考える。
ただ病院に行くのを見られたくらいでここまで絡むような奴では無かった。
しかし道を塞いでまで灯弥を狙って来ているのが分かる。
すなわち…………そこまでを理解した灯弥は真っ直ぐに久橋を見つめ、問いかける。
「いつから俺が狙われてたのかと、その理由だけ教えてくれないか?」
当たりだ、久橋の顔を見た灯弥は確信する。
久橋の顔が卑しく歪む。
灯弥の質問から、この後「いじめないで下さい」と懇願するとでも思ったのだろう。
ニヤニヤしながら説明を始めた。
「いやぁ、いつも本ばかり読んで、クラスの雰囲気を乱す陰キャ君に注意してあげようと思ったんだ。」
「残念だな。分かってもらえないなんて……」
灯弥は心底残念そうな顔を浮かべる。
半分は縁起だが、もう半分は素で出た顔だった。
「分かってもらえない?何がだい?」
「俺は自分がこういう集団に向かないのをわかった上で、敢えて孤立することで雰囲気を保っていたんだよ…」
これも実を言うと半分事実である。
「へ、へぇ、そうなのか……気づかなかったよ…」
流石の久橋も、こう返されるのは予想外の事らしく、それ以上は何も言えなかった。
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【12月19日】side瀬名
まもなく此花が病室に着く頃だと思い、雪華はドアの当たりを見つめる。
と、ドアが静かに開かれ、此花が顔を見せた。
「よ、来たぜ」
「いらっしゃい!いつも本当にありがとう」
雪華は満面の笑顔で出迎える。
此花がいる間は、体中の痛みも薄まるような気がしていた。
それくらい此花の存在が救いになっていることを本人が知らないのは幸運だっただろう。
知っていたらきっと恥ずかしさでどうかしている。
そんなことを考え、微笑む雪華に、此花は悲しそうに告げる。
「瀬名、すまん、クラスの久橋に目を付けられた。もしかしたら来れる回数が減るかもしれない」
雪華はそれを聞いて少し黙り込む。
何かを言うべきか悩むようなその態度に、此花がきょとんとした顔をする。
雪華はしばらくうーん、と悩むと、何かを諦めたように口を開いた。
「私も明日からは手術に向けて検査とかが沢山あるから、来てくれても会えなかったかもしれないし、大丈夫だよ」
この検査がある、というのは本当のことなのだが、会えなくても大丈夫、というのは雪華の小さな強がりだった。
雪華自身、此花の来訪を心待ちにして、毎日を過ごすようになっていた。
そうすることで生きることを諦めずにいることが出来た。
「分かった……手術、頑張れよな」
「頑張るのはお医者さんだよ。でも頑張るね」
この二人がまだ付き合っていないと聞いて誰が信じるだろうか…
そんな甘い空気が、病室に充満していたのだった。
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【12月25日】side瀬名
「瀬名さん、手術は明日です。残念なことですが
腫瘍の摘出は難しい手術で、成功率はどう足掻いても七割程度です。心の準備をしておいて下さいね」
「はい」
担当医の言葉に雪華は頷く。
難度の高い手術をするため、国立の大学病院に移る雪華は、二ヶ月ぶりに外に出て、空を見上げた。
雲がかかって暗い空は、今にも雨が降り出しそうで、今朝のニュースでは、「大雪の可能性」と示されており、道路も混み合うことが予想された。
そのため、朝早くから車に乗り込み、瀬名は移動を始める。
そのとき、スマホがメールの通知音を鳴らす。
誰からのメッセージが想像がついた雪華は、笑みを零しながらスマホを開いた。
『頑張れよな。俺は瀬名を信じてるぞ』
短い言葉、その中に此花の想いを感じた雪華は、短く一言返した。
『いってきます!』
この言葉こそが、雪華に生まれた大きな変化だった。
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【12月25日】side此花
『いってきます!』
瀬名からの返信を見て、灯弥はほっとする。
「……しかし、クリスマスかぁ。
瀬名が元気だったら、俺は誘えたのかな…」
自らの問いに、しばし苦悩する灯弥。
しかし、その答えが浮かぶことは無く、特に変わったことも無いまま、クリスマスは過ぎていくのだった…
「瀬名にプレゼントでも用意しとくか…」
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【12月26日】side瀬名
26日に差し掛かった午前二時頃、雪華は自らの異変を自覚する。
(い、息が……)
息が吸えない、咳き込んで空気を入れようとするが、ヒューヒューと言うかすれた音がなるばかりで、酸素は入ってこなかった。
肺で成長していた腫瘍が、ついに呼吸器の動きを妨げるまでになったのだった。
目を見開き、枕元のドクターコールスイッチを繰り返し押す。
廊下に響くブザーの音を聴きながら、雪華の胸の動きは徐々に小さくなり、意識は闇に沈んでいった。
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【12月26日】side此花
瀬名の容態が急変した同時刻、そんなこととは知らない灯弥は、24日、25日とバツの付いたカレンダーに目を向けた。
「今年も何も無かったな…クリスマス。」
瀬名との距離が縮まったことで、もしかしたら、と希望を持っていたのだが、今日瀬名は大事な手術。
灯弥の都合でずらすことなどできる訳もなく、普通に一日が過ぎた。
久橋からの呼び出しという不安要素は出来たものの、
灯弥は瀬名が心配で眠れ無かった。
「手術が終わったら、一緒に出かけたり出来るといいなぁ」
瀬名の現状から、きちんと告白が出来ずにいた灯弥。
手術が終わったその時は、想いを伝えようと決めていた。
そんな時だった。
部屋の勉強机の上、充電器に繋いでいたスマホの画面に、『瀬名 雪華』からの着信が表示されたのは…
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同刻、side瀬名
静かになった雪華の病室に一人の看護師がやって来た。
雪華は事前に大学病院に移動していたことで、緊急時の今回も直ぐに対処することが出来たのだった。
緊急時の手術、家族の立ち会いがあるべきだったが、
雪華の家族は年末で実家に帰っており、戻るまでに少なくとも一日はかかるとのこと。
それを聞いた看護師は元々雪華がいた病院にある問い合わせをした。
『彼女が親しくしている人は誰か周辺に居ないのか』と。
すると電話越しにいた相手が呟いたのは『此花君』という名前だった。
雪華が想いを寄せる異性であることを確認した看護師は、一人病室にやって来たのだった。
(こんな手術のなか、家族すら近くに居ないなんて心に負担が大きすぎるわ。せめて彼氏さんだけでも…)
本来、患者のプライバシーである携帯電話に触れることは有り得ない。
それでも瀬名さんのため、と自分に言い聞かせ、看護師は雪華のスマホを開くと(幸運にもパスワードはかかっていなかった)ほとんど連絡先の載っていない電話帳から『此花 灯弥君』の文字を見つけ、コールボタンを押したのだった……
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同刻、side此花
灯弥は全力で自転車のペダルを踏む。
時刻は午前二時半、人通りなんてほぼない道を全力で駆け抜けていく。
瀬名からの電話に出た灯弥は、看護師から事情を聞くなり家を飛び出したのだった。
瀬名は今大学病院。
以前居た病院とは違い、灯弥の家からは可也離れていたのだが、灯弥にそれを考える余裕は無かった。
ひたすらに漕ぐ、間に合うと信じて。
瀬名が目を覚ました時に一人だなんて許せなかった。
彼女を置いて実家に帰った瀬名の両親にすら怒りを覚えた。
そんな感情を全てペダルに乗せる。
だが……
「君、随分と若いよね?ちょっと止まって」
午前二時といえば高校生はまず出歩かない時間。
見つかれば声をかけられるのは当たり前だった。
灯弥は思考を巡らせると、警察官の男性に縋りついた。
「大事な人の容態が急変した!お願いします!大学病院まで連れて行ってください!このままじゃ……」
それを聞いた警察官は無線機を取り出す。
万事休すか、そう思う灯弥の耳に、警察官の声が入ってくる。
「こちら里中、里中。
パトロール中に病院へ向かう青年を発見。
声をかけた所、緊急だと言う。
自転車は危険と判断、パトカーの使用を要請する。」
『………こちら………警察署、了解した、そちらにパトカーを手配する、車内で事情聴取を忘れないように……』
ハッ……と顔を上げる灯弥に警察官は微笑む。
「別に誰でも捕まえるって訳じゃないさ。
事情があるんだろ?納得出来る理由さえあれば大丈夫だ。」
「ありがとう…………ございます」
深々と頭を下げる灯弥の肩に手を置くと、警察官は一言付け足す。
「ただし、もうこんな時間に一人で出歩くんじゃあねぇぞ?次は捕まえるからな」
「はい………」
その後、十数分でやって来たパトカーに乗り込んだ灯弥は、自転車より遥かに早く、瀬名の元に辿り着くのだった。
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同刻、side瀬名
緊急で手術が開始される。
気道を確保、機械を使って酸素を供給すると、呼吸も落ち着き、突然の発作による死は免れた。
そのまま手術室に運ばれ、麻酔をかけて手術は始まった。
手術を担当した夜勤の医者は驚愕を露わにする。
「この子は……なんでこれで平気な顔を…」
腫瘍は予想を遥かに上回る成長具合で、既に消化器官にまで及ぼうとしていた。
「先生、これでは……」
看護師は黙り込んで顔を伏せる。
「あぁ、手術が終わっても内臓が完治するまでは入院が必要だろうな」
幸い腫瘍が大きくわかりやすいため、摘出自体は十数分で済んだ。
薬物治療で進行を抑えていた転移腫瘍もいくつか摘出でき、その後の内臓の保護の方に時間を費やした手術になった。
腫瘍が出来ていた左の肺はしばらくの間機能しないだろうと思われた。
内臓の傷つき方から見ても、まともな食事、運動は不可能なレベル。
手術は成功したが、彼女にとって幸せな結果なのか、医者と看護師達は沈黙した。
その時だった。
病院のロビーから連絡が入る。
『先生!瀬名さんのか、彼氏さんが警察に連れられてやって来ました!通してよろしいですか!!!』
その声を聞いていた一人の看護師は安堵のため息を付いた。
此花に電話をかけた彼女である。
「先生」
「あぁ、通してくれ。今の彼女には、人の温もりが何よりの薬だろう……」
医者が答えるが早いか、病室のドアが開かれた。
そこには息を切らせた此花 灯弥の姿があったのだった。
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sidelink瀬名&此花
「瀬名は!無事ですか!?」
病室に駆け込むやいなや、医者と思わしき人物に灯弥は問い詰める。
すると医者は申し訳なさそうな顔をした。
「腫瘍自体は取り除けたんだ………しかし、内臓に傷が……」
「そんなことは聞いてない!瀬名は………雪華は、これからも生きて行けるのか!?」
その問いに対して、医者は大きく頷いた。
「あぁ、彼女は、瀬名さんは強かった。我々の予想を超えて成長した腫瘍を、一人で抱え込んで耐えていたほどだよ…彼女なら、きっと乗り越えて生き延びるだろう」
それを聞いた灯弥は崩れ落ちる。
悲しみではなく、安堵のあまり足の力が抜けた故の結果だった。
「……………灯弥……くん………」
眠る雪華が寝言を呟く。
それは今までのような苗字呼びではなく、彼女がいつも心の中に秘めていた、名前呼びだった。
それを聞いて、灯弥の目から涙が溢れ出した。
「雪華、ここに居るよ…俺はここに居る…」
そう言って雪華の手を握った灯弥は、疲れていたのか、雪華に寄り添うようにしてベッドに寄りかかり、寝息をたて始めた。
医者達はそれを微笑ましく見つめると、黙って病室から出て行ったのだった。
その夜、街に初雪が降った…
翌朝、目を覚ました雪華はふと横を見て絶句する。
続いて顔が真っ赤に染まって行った。
「と、此花君!?」
自分の袖を掴んで爆睡している灯弥の姿があったからである。
(ど、どどど、どうしたら………)
真っ赤になってあわあわしていると、灯弥が「うぅ…」と身をよじらせる。
頭の向きを変えた灯弥の寝息が体にかかり、雪華は恥ずかしさに耐えられなくなった。
「こ、此花君!起きて!此花君ったら!」
「う、おはよ……って雪華?…」
その声は雪華の心にクリティカルヒットする。
ぽやーっとした寝起きの声に続き、無意識の名前呼び。
「……っ!?瀬名!?お、おはよ!」
徐々に意識を取り戻し、雪華と目が合って驚く灯弥に反応する余裕なんて無かった。
「雪華…………今、雪華って呼んだぁ……」
「あ…すまん?」
うわ言のように「雪華って、雪華って」とボヤく雪華に思わず謝る灯弥。
「え?いや、怒ってはないんだよ!?」
「じゃあなんで」
「だって嬉しかったんだ………聞かないでよ…」
恥ずかしそうに答える雪華に灯弥も赤面する。
互いが黙ってしまい、静かな時間が過ぎて行く。
と、雪華が窓の外の異変に気づく。
「あ、雪……」
「ほんとだ」
遅れて気づいた灯弥は、何かを思い出したのか、「ぁ、やべ」
と呟いた。
そのまま腰のポーチに手をつっこみ、何かを取り出した。
「どうしたの?」
不思議そうな顔をする雪華に、灯弥はそれを手渡す。
「その、昨日クリスマスだったろ?あの………これ……プレゼント」
「え?え?」
突然渡されたプレゼントに困惑する雪華。
あまり人と騒ぐタイプではない雪華にとって、これは友人から貰う初めてのプレゼントだった。
そのまま灯弥は続ける。
「手術、成功したって昨日医者の人が言ってたよ。」
「そっか…なら良かった」
何故か他人事のように言う雪華に、灯弥は首をかしげる。
「瀬名?どうしたんだ?」
「生きてられるってことは、また『雪華』って呼んでもらえるってことだよね…?」
「!?」
今度は灯弥がクリティカルヒットを貰う番だった。
また二人とも赤面し、静かになる。
先に口を開いたのは灯弥だった。
「プレゼントさ、開けてみてくれよ」
「え?う、うん」
いわれるがままに紙袋を開く雪華。
出てきたのは、雪の結晶をモチーフにした髪留めだった。
窓から射し込む朝日の光に反射してキラキラと輝くそれを、雪華は顔の前に持ち上げて眺める。
「綺麗……」
「………の方が……」
「何?」
灯弥が何かを言ったが聞き取れず、雪華は思わず聞き返す。
「瀬名の方が綺麗だって言ったんだ。」
「あ、ありがと……」
照れて窓に視線を戻す雪華。
雪が積もった街は、助かった雪華を祝福するように、輝いていた。
「あの、此、灯弥君!」
「は、はい」
その輝きに惹き込まれ、流れるように想いが溢れる。
赤面しながらも、しっかりと灯弥を見つめて雪華はその言葉を口にする。
「ずっと、ずっと好きでした…わたしと一緒に、いて貰えませんか?」
灯弥が目を見開いて、そしてしばらく考え込むと、ムスッとした顔になる。
なにか悪いことを言ったかと心配になる雪華に灯弥は言う。
「分かってないなぁ。好きでもないやつの見舞いに俺は行かないし、わざわざ深夜に駆けつけたりしねぇよ…俺も好きだよ、瀬名」
「雪華……」
「わ、わかった!好きだよ、雪華」
そう言うと二人は顔を見合わせ、笑い出す。
雪華はまだしばらくの間入院、二人がずっと一緒に居られるのは先のことになるだろう。
それでもいいと、二人は思う。
きっとこの人となら、明日も幸せだと思えるから…
3話かなり無理矢理かもしれません。
急いで書いたものなので、今後書き直してより良くして行く予定ではあります。
そのために、読んでいただいた方の感想やアドバイスをお待ちしています。
よりよい作品を届けたいと思っております。
どうかご協力よろしくお願いします!




