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ツキマトウモノ二バツヲ

 ――ヒリヒリする……何回やっても慣れん。

 綺麗にくっついた傷を触りながら、そんなことを思う。いや、そんなことしか思えない。

 何をされても仮初めの死を体験するしかないミナは、いつの間にか死ぬような経験をしてもそれを重く捕らえないようになっていた。

 自分が死んだ、それが?

 仲間が死んだ、それが?

 ただ思うのは、大事な人が……その時だけだ。

「もーやめてよ。僕は即死じゃ無い限りは魔法でなんとかできるんだから」

 ――そんなこと言って、慌てたときは魔法使えないくせに。

 今日はこれくらいにするかと、仙崎から奪った魔法を解放する。仙崎相手ではあまり効果が無いが、奪っている間は相手の魔法処理を圧迫することで魔法自体の弱体化、使用を封じることができる。

「はぁ……疲れたよー」

 汚れることも気にせず、草の上に寝転がった仙崎は大の字になる。吹き抜ける風が心地いい。

 ミナも同じようにして空を見る。雲の流れが速い。上空は風が強いようで、思った矢先に太陽が隠れて陰る。

「なんて言うか、思い出さない? 初めて僕らが――へぶしっ!?」

 言う前に拳が顔面に落ちた。

 ――思い出さなくていい。

「……でも、あの頃より平和じゃないかな。ずっと戦争戦争でさ、今みたいにこうやって空を見ることもなかったよね」

 ――だねー……さんざん空に向かって対空砲火浴びせて曲射魔法撃ってたけど。

 そういう意味では空はよく見ていたか。戦場の空を。

「ねえ、ミナ。そろそろさ、僕ら……んっ、何の音これ?」

 ざぁぁぁぁっと、風が草を撫でるにしては違うような音が。それは空気の塊、その方向を見るよりも先に直撃した空気の塊が仙崎を吹き飛ばす。

「ちょぉっ!?」

 抗おうと魔法を詠唱するが、発動の前に次から次へと空気の塊がぶつかり、あっという間にラズリーたちの頭上を通り越して遥か遠くへと飛んでいく。

 ――何が来た?

 下手に起き上がるよりこのまま寝ていた方が飛ばされないだろうと、そのままで飛んでくる方向を向けば嫌な奴が見えた。

 ――なんで来やがるあの野郎……!

 飛び起きて、イリーガルを見る。一対一なら不安だが、二対一なら確実だ。

「逃がすかよ!」

 ――早っ、テレポートまで使うか。

 逃げようと一歩を踏み出せば、背中から押されて倒れ、仰向けにされた瞬間には服に手を掛けられて破られた。そのまま野郎は顔を狙った拳を躱し、ズボンを引きずり下げてショーツを穿いていない下半身を狙う。

 ――こいつ!

 秘部に顔を近づけて来やがって、それ狙って膝を思い切りぶち当ててやる。

 ――この感じ、鼻折った。

 仰け反った所にもう一発ぶち込む。それでいて無理矢理股を開かせて顔を近づけてくる物だから、ミナは野郎の片腕を引っ張り脚で首を絞める。

 わざわざ三角絞めをしやすいようにしてくれたのだから、絞めてやろう。

「……! ギブギブッ!!」

 ――死ね天城!!

 全力で絞めてやると、ボキッといい音がした。

 ――これで。

 蹴り飛ばしてすぐに逃げる。どうせ殺せない、死ぬような攻撃を叩き込んでもすぐに動き出す。

 イリーガルも大慌てでこっちに来ていて、合流するやいなや日よけの布をショールのようにして着けてくれる。

「下がってろ、殺せないがバラバラにしてやれば封印くらいできるはずだ」

 ――一緒にヤらせろ。

 訴えかければやれやれと言った様子でイリーガルが構える。

「お、お姉さん大丈夫ですか!?」

 ――全く問題なし。

 頷く。それだけ。それでもラズリーの心配そうな表情は和らぐ。今までもこれしかコミュニケーションはやってないから、十分だ。

「で、やれるのか」

「やります! お姉さんに酷いことしかしないあの人はここで黙らせてあげます!」

 棍を構えるイリーガル、仙崎の法機である杖を構えるラズリー、素立ちのミナ。

「まあラズリーはここから撃て、当たっても吸収するから気にせずにばらまけ。やるぞ、突風スコール

 ――アイサー。久しぶりにその名前で呼ばれた……。

「風よ……」

 イリーガルが呟く。使える魔法はミナと同じでほとんどない、相手の魔法を奪うスタイルは自らの使用できる魔法が少ない。

 それでもだ、ミナと同じ。長い時間を掛けて練習すれば使えないことはない。

 ビュウッと反射的に目を閉じるほどの風が走り抜ける。

 ――飛んでくる? 蹴ればいいか。

 そんな風の中、ヒュンと音が。

 目を閉じ感覚だけに頼ったハイキックを放てば、確かに人を蹴った感覚がする。

「ナイス」

 遠くからイリーガルの声が聞こえた次の瞬間には、何かを思いきり棍で殴る音がした。

 見れば空に打ち上げられた変質者……が、いる。そしてその更に上からイリーガルが棍を振り下ろしながら落ちて、天城を地面へと叩き付け、めり込ませる。

 ――地割れぇ……。

 小規模、とは言え地面に亀裂が走る。

「これで死なねえんだ、化け物だろ?」

 まだ息のある変質者の顔目掛け、イリーガルは棍を振り下ろす。クチャッと肉が弾けるような、髄が割れるような音がするがお構いなしに続ける。

 ――そうだよ、ここまでやって死なないんだよこれ。

「つー訳だ、脳味噌グチャグチャならしばらく動かねえ、ってことでさっさと行こうか」

 ――埋めても燃やしても意味ないしね……これは。


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