エレメントノツカイテ
かつて〝魔法素子〟と呼ばれるものが発見された。これにより、人類は新たな力、〝魔法〟を獲得した。当初は突然魔法の力に目覚めた者たちによる犯罪や差別、争いが頻発して混乱が起きた。だが、やがては終息し、〝多くの〟人間が魔法を〝所有〟するようになる。
所有者なら誰もが使える通常魔法、似通った力ではあるが一人一人がもつ固有魔法。
魔法の行使にはもっとも思い入れのあるものを媒体にする必要がある。それは〝法機〟と呼ばれている。
そして……仙崎は飛んでくる業火の塊から逃げ回っていた。
「ずるいとか言う気は無いけど、なんでビル壊れたとたんに砲撃されるんだろうかなぁ」
訳が分からない。爆音と共に廃ビルが一気に崩れ落ちたかと思えば、その瞬間大量の光が打ち上げられそこそこ離れて照らされてもいなかったのに攻撃される始末。
「シショー! なんとかしてください!」
「あのねー、それが出来たらこんな砂漠一気にスキャンしてるんだよ。あの戦争でどれだけ魔力使ったと思ってるの?」
「……たくさん」
「魔力ってー、回復方法人によるけどね、僕の場合使いすぎると回復しづらくなるんだよ。今のやり方変えれば別だけど」
「だったら変えてください!」
「ミナみたいに他人の魔力吸い取って……下手だから殺しちゃうよ?」
「うぅ……」
まだ話せるだけの余裕があるのは、敵の砲撃が下手だからだ。偏差射撃をさせないように動いているわけでもなく、ただまっすぐに走っているだけなのに当たらない。
「とりあえず、近づいたら一旦隠れる。まっすぐ撃ってこないのは、多分撃てないからだろうね」
光に照らし出された場所では、蟻の巣を突いたように逃げ出す連中と、同じ格好をして背後から棍で殴り倒していく二人組がいる。所々に反撃を試みる者たちがいるが、撃ち出される魔法は触れると同時に消え去り、銃撃は仲間に当たることを恐れてか一つも無い。
「あれって……お姉さんですよね」
「うん、そうだね。もう片方は、ラズリーは会ったことないよね」
「ないです……嫌な感じがします」
「イリーガル。あの戦争で大部隊相手にして一人で全滅させた強い人、真面目に戦ったら勝ち目がない」
「お姉さんでも?」
「引き分けかなぁ……って、なんかこっち来たね」
砂の上をかなりの速度で滑りながらこちらに迫り……いや、逃げていた。背後から棍を持ったミナが超高速で迫っている。そのストライドは余裕で五メートルを超えていて、まともに逃げ切れるようなものではない。
「ホームランかなぁ?」
「シショー……人ってそんなに飛びませんよ」
「いやね、ミナは出来る出来ないじゃなくてやるから」
言った直後か、首を傾けるとちょうど直撃コースで人が吹っ飛んで来た。
「危ないね」
「……飛びましたね」
すぐ後ろにドサリと落ちた物言わぬ死体を見れば、身体が曲がっちゃイケナイ形に曲がっていた。
「だからやるって言ったじゃん」
勢いそのままに近づいて来て、急ブレーキを掛けたミナは砂の上を滑って転んで、口に入った砂を吐きながら近づいてくる。格好良く決めようとして失敗したような空気は流してやるべきか。
「やっと見つけた」
――やっと見つけられた。
向き合って、それだけで伝わる。
「生きてるって信じてたよ」
――あれから魔法は使えないままか。
「これからどうするの? まずはあいつら片付ける?」
――魔力切れ、使えねえ野郎だ。
「ん、なにその目、僕だって少しくらい――あだっ!?」
おでこに固いモノをゴツンとぶつけられ、それが何かとみれば真っ黒な塊で……。
――久しぶりだし、後でコイツで発散しよ。
「なにこれ? 魔力塊……?」
普通ビー玉サイズだが、こいつは握り拳二つ分ほどの大きさがある。戦闘用の魔法なら一般の使い手なら使い放題、仙崎でも十分に回復できる。
「……なに? 僕に全部やれって言うの」
「シショーがやった方が早いです」
「や、早いけど砂漠でやるのは」
「やっちゃってくださいシショー」
――さっさとやれ、霧の魔法使い。
ラズリーよりも、ミナのジト目の無言の圧力が怖い。
「……やればいいんでしょ。砂漠で水系の魔法って結構厳しいんだけど」