キズナノフタリ
「潰しに掛かるか? 手伝うぞ」
――一人で十分じゃない?
声に出せないけど、その思いは確実に伝わっている。
「まずは殲滅、それから着る物と水と食べ物……で、いいか」
――それに、なんでここにいる? わざわざ探しに来るほど暇じゃないだろう?
「あぁ、それとさっき変なヤツがいたから生き埋めにしてきたが、問題ないよな」
こくりと頷く。おそらく遭遇するにしても二人のどっちかだ、どっちも死んでもらって問題は一切無い。むしろ死んでくれ。
「で、攻めるのはいつからにする?」
日暮れ、と砂に書く。声が出せない以上は筆談必須、それか知っている相手ならYesかNoで答えられるように聞いてもらうか。
「オーケー。そんじゃ、それまでは遊ぼうと思うが、ヤるか?」
うん、と。
「あの狭いところ、正面で引きつけろ。上から仕留める」
指差されたところはちょうど廃屋の隙間。車がすれ違うには狭いが、人が歩くには十分な広さがある。
砂色のフード野郎は軽い動きで廃屋を登り、ミナは姿勢を低くして走り適当なところで壁に背を当て座り込む。裸の少女が廃屋の隙間……こんなご時世、薄暗い路地に居れば大抵の奴らの気を引くことは出来る。食料として見る奴もいれば、奴隷として無理矢理引きずって帰る奴、性処理の道具としてその場で使い捨てる……あれこれと。
――二対二……失敗しても一人なら確実にヤれる。あいつが一人確実なら、ちょうど。
ほんの一分ほどだろうか、僅かな時間で二人組が近づいて来た。チラッと見れば、小柄なのと自分と同じくらいの年の女だった。棍棒だけという装備で女二人が歩くのは、ここが彼女らのテリトリーにとっては安全であり、軽い見回りだけですむような場所だからだろうか。
「あ、人が」
「あなた大丈夫? 意識ある!?」
気付くなり駆け寄ってくる。
その刹那、影が差したかと思えば小柄な女の頭が割れた。
「えっ――」
驚いた女は、不意に襲いかかってきたミナに反応できず、首を絞められ落ちた。
上から飛び降りた勢いで一人の頭をかち割った砂色のフード野郎は、思いの外反動が強く腕が痺れていた。
「まともにやるとダメだな、こりゃぁ」
――なんでまともにやった?
いつもはもっと高いところから飛び降りて、そのエネルギーほとんどを相手にぶつけて着地するのに。
ミナは絞め落とした女の装備を奪って着る。他人の服を着ることに抵抗を覚えていては生きていけない。それは死体から剥ぎ取ったぼろ切れであっても。
「殺すぞ」
無言の肯定。振り下ろされた鉄パイプが同じ結末を見せる。
「警戒、埋めるから」
――りょーかい……。
どこかで何かが違えば、やられているのは自分だ。
砂色のフード野郎、イリーガルを信じるか信じないか。自称未来から来た野郎であり、過去の失敗を無かったことにするために永遠に……とか。
信じるか信じないか。……その戦闘能力だけは信じよう。ちょっと前に本気でやり合って、引き分けでどっちとも死にかけた。
「終わった」
振り返れば埋めたという痕跡すらない。さほど深く掘ってはいないが、砂の慣らし方が上手いのかぱっと見では分からない。数十分もすれば風で完全に分からなくなるだろう。
「取りあえず作戦」
そう言うと懐から筒を。
「ダイナマイトあるから、爆破解体でもしようと思う」
――はぃっ?