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ツキマトウカゲ

 ――さすがに、この状態でサボテンはやめた方がよかった……。

 後悔しつつも凄まじい腹痛にうずくまる。

 ちょっと遠出して、隠れ場所に帰ろうかと思った頃にサボテンを見つけ、一つほどトゲに気を付けながら蹴って回収してきたのだが……。適当に切り分けて、白い液体が出てきて食べたらダメなヤツと分かった上で、トゲだらけの皮を剥いてとても美味しいとは言えないけど無理矢理食べて。

 ものの数分で体調を崩し、凄まじい腹痛で動けなくなり隠れ場所で丸くなって震えていた。

 他にも、ようやく見つけた水辺に夾竹桃とか明からに食べちゃイケナイ物まで見つけ、飲み水を確保できずにそろそろ危ない状態にシフトし始めたり……。

 ――誰だよあんなもの持ち込んだのは。

 大昔の人を恨んでもどうしようもない。

 痛みをこらえて壁に背を預けてはみるが、寝ているのと変わりはなく嫌な汗が溢れる。ただでさえ脱水症状を起こしているというのに更に貴重な水分が失われて意識が朦朧とする。

 ――探してくれちゃいるだろうけど……さすがにこんなとこ、来ないよねぇ。

 いくらあいつでも砂漠とか、まず避けて通ろうかと言う場所に来ないだろう。自分でも遭難すればさっさと余所に脱出する……のだが、あいにくどっちに行けば森がある? 海がある? 山がある? さっぱり分からず適当に探索範囲を広げながらだらだらとしていれば今日のこの有様である。

 正直調子に乗っていた。今まで氷原、砂漠、ジャングル、海、火山、洞窟、廃墟、戦場、その他もろもろ突破したから大丈夫だろうなんて油断していたからこそ、重傷を負ってこんなところで隠れながらだらだらとして干からびる寸前で。

 ――足音……人の音?

 顔を向ければ、霞む視界に誰かが入った。何か叫びながら駆け寄ってくる。

 ――人、一番厄介な……殺す、殺さないと、奪われる。

 はっきりとは見えない。それでも、認識できればモノクロだって構わない。

 今までの経験からか、身体が危ないと判断すればある程度の感覚は遮断されて多少の無茶な動きは出来るようになる。

 ――ふらつく……限界? まだやらないと。

 ナイフ片手に身体を無理矢理動かす。目先の脅威を排除しないと明日の苦しみはない、苦しみの先の未来もない。

 軽く握り直してヒュッと振るうと相手は両手を挙げて、何も持っていないとアピールしながらも何かを言いながら近づいてくる。

 それだけで警戒から排除へと移るには十分すぎる。

 姿勢を低く、一気に接近して下から斬り上げる。確実に当たるコースで、肉を斬る感覚はなかった。

 ――硬っ、折れた?

 まるで鋼鉄の塊を叩くような感触。痛みはないが、手首から、腕から、肩から焼けるような感触が伝わってくる。

「――――――――」

 聞き取れない。

 斬り上げ弾かれた反動で倒れ、身体が動かなかった。

 ――ここまで、か。

 身体が動かず、感覚が薄れても何をされているかは分かった。衣服を剥ぎ取られ、持ち物を奪われる。今までやってきたことだ、やられても文句は言えない。

 が、相手はそれ以上を仕掛けてきた。壁際に引きずられ、股を開いて犯そうと。

 ――あぁ、やっぱりやるか。

 まあ、どうでもいいやと。どうせ死ねばまた新しい身体で、どこか別の場所で始まるのだから。

 半ばどうにでもなれ、諦めかけていたら相手が倒れ込んできた。その後ろには長い棒のような物を振り下ろした格好の誰かがいた。

「まったく……無茶しすぎだ」

 聞き慣れた声がはっきりと聞こえた。そいつは倒れ込んできた強姦未遂野郎を蹴り飛ばすと、

「ほら飲め。喉渇いたろう? そんな肌がガサガサになるまで、後が酷いからな」

 冷えた水の入った水筒を口に付けられ、瞬間、自分でも抑えが効かずに奪い取って一気に飲み干した。久しぶりの綺麗な水、喉に滲みてピリピリしたが乾きが癒える。

「ほい、もう一本。全部飲んでいいぞ、まだあるから」

 渡され、今度はゆっくりと飲む。

「しっかしまあ……よく生きてたな」

「…………。」

 ――お前もな。

 相変わらず声が出ない為、心の中で言い返す。

 白い髪に紅い瞳の青年。ほぼ弟のようなものではあるが、殺し合いまでして長らく会っていなかった。と言うよりも、家で大暴れして結構な惨劇を起こしたからこっちも死んだと思っていた。

「声が出ないのも相変わらずか」

 ――うるさい。

 言い返せないことに若干の苛立ちはあるが、取りあえずはこの砂漠から脱出出来そうだなという安心が勝る。二本目を飲み干して、三本目を奪い取る。

「あー……最後の一本は俺のだからな」

 聞いてすぐ、一気に飲み干して手を伸ばす。

「ダメ――あぁっ!?」

 ――もらい。

 そのまま焦熱地獄の下、裸足で裸で逃げる。

「ちょっ待てっ! いくら何でも直射日光は――」

 凄まじく痛かった。

 経験上一時間以内に目が逝く。そして間もなく肌も治癒が困難な火傷を負うことになる。

 すべてのリスクを承知の上で、脱出の可能性を捨ててでも逃げた方が今後のためになる。あの場所に連れ戻されでもしたら困る。力で敵いはしない、だから本気になる前に逃げてしまった方がいい。

「俺の水を返せぇっ! 連れ戻しに来たんじゃねぇ!」

 ――あぁそっちか。

 まあどうでもいいや。勝手に干からびてミイラにでもなってくれと。

 この砂漠の廃墟、地形はほぼ知り尽くして地の利はこちらにある。

 ――逃げ切れる。


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