1話
2018年1月1日。
日本国、元旦の日。
俺、安藤 匠 は福岡でも田舎の一軒家、自宅のリビングにて非常に稀有な体験をしていた。
その稀有な体験とは結論から言うと、良く分からない薄い板状のスマホのようなモノが見えるようになった事だ。
薄い板状のモノは半透明だが文字が刻まれていた。
・可視液晶型個人端末
・名前:安藤 匠
・年齢:15
・種族:人種
・能力:強制閲覧
???ん?ちょっと待とうか。
可視液晶型個人端末??なんだそれ??この薄い板状のモノの名称だろうか??
名前、年齢はまぁそのままなんだが種族??人種となっているがそもそもそれ以外が存在するのか??犬種とか猫種とかって事だろうか??だとしたらこの種族表記は必要ですか??
あと最後の能力。
強制閲覧と書いてあるが、なんだこれ??これに関してはさっぱり分からん。
しかも現在、この薄い板状のモノは浮いているのだ。なんの支えも無しに。
大きさは縦10cm、横7cmくらいでiPadより小さくてiPhoneよりは大きい。ただiPhoneよりも圧倒的に薄い。もはや透けて奥にある壁が見える程に。
この非現実的な状況に混乱しつつも、取り敢えず得た情報を整理する為に少し前の行動を振り返る事にした。
◇◇◇◇◇
薄い板状のモノが目の前に現れる1時間前。
俺は自転車で近くの神社へと初詣に来ていた。
「おう、たっつん!やっと来たか!みんな待ってっから早く行くばい!」
俺の事をたっつんと呼ぶこいつは地元の中学の同級生、火神 健太。小学の頃から同じミニバスチームに所属していた所謂親友と呼べる1人だ。
「まぁそう焦んなって」
神社の門をくぐって階段を登った先には近所の人達が初詣に沢山来ていた。時間は夜中の12時過ぎなのに皆元気なもんだ。
「あ、たっくんきた〜あけおめ〜ことよろ〜いぇ〜い」
「安藤先輩!あけましておめでとうございます!今年も宜しくお願いします!!」
「よっ!匠!あけおめ!よろしくな!」
「ハハ、皆年明け早々元気だな、あけおめ、今年も宜しく」
最初に声を掛けてきたのは 茅野 舞 、彼女も同じミニバスチームのメンバーで今は女バスのエースポジションだ。健太と舞と俺は小1から仲が良くてクラスもずっと一緒という仲良くなるべくして仲良くなった3人だ。
次の律儀に敬語で年明け文句を言って来たのは、上田 大地、バスケ部の後輩で2つ下の中1。中学に入ってからバスケを始めた事もあり、俺や健太のようにミニバス上がりのプレーに魅せられたらしく妙に尊敬の眼差しを向けてくる可愛い後輩である。
最後の匠と呼んで来たのは 後藤 圭介 、こいつも同じバスケ部の同級生。最初は荒い性格もあってか部内でも孤立していてバスケも中学から始めたが、元々運動神経は良く最後の夏の大会ではスタメンまで登り詰めた才能溢れる奴である。特に運動部は実力主義であるからスタメンに入る半年前くらいからは周りの部員も文句を言わなくなっていた。話して見ると案外いい奴。
「よっし!たっつんも来たし、パチパチカランカランしに行くばい!」
「健太の語彙力は昔から壊滅的だな」
「ケンちゃんはおバカだもんね〜」
パチパチカランカランとはお参りの事である。お察しの通り健太はかなりのバカである。
「うるせぇ!カノンには言わとーないばい!」
健太は舞の事をカノンと呼んでいる。茅野→カヤノ→カノンになったらしい。
その後皆でお賽銭を入れお参りをしておみくじを引いた。
「ウチ大吉やった〜いぇい!」
「カノンが大吉ばい!でも俺も大吉ばい!」
「安藤先輩!自分も大吉でした!」
「上田に火神、茅野さんまで大吉かよ!俺も大吉だぜ!」
「え?お前らマジで?それ本気?ドッキリとかじゃなくて?俺も大吉なんだけど・・。」
なんと集まった皆が皆大吉を引くと言う奇跡が起きた。書いてある内容はそれぞれ違うがここまで調子いいと後で何かあるんじゃないかと疑ってしまう。まぁあるんだが・・。
「え〜〜!皆大吉なんてすっごい偶然だね〜これで受験はバッチリだよ〜」
「へへっ!これで俺の鉛筆コロコロがバシッとズバンてくるばい!」
「いや、健太。今時受験で鉛筆転がす奴なんていないし、ほぼ100パー落ちるから辞めとけ」
そんなバカな会話を楽しみながらおみくじは記念に皆で持って帰って、仲良しの印的なモノとなった。
「んじゃ、また冬休み明けの学校で会おうぜ!」
「先輩方!今日はありがとうございました!失礼します!」
「上田、後藤、カノンにたっつんもまたな!」
「うん、みんなばいばい〜ウチはたっくんと道同じだから送って貰うと〜」
「みんな、またな!健太は始業式遅刻するなよ」
「ハハ、するわけねぇばい!んじゃ!」
俺と舞は家が近い訳ではないのだか、俺の家までの帰路に舞の家がある為予定がない限りは一緒に帰っていた。
「たっくん〜コンビニ寄って帰ろ〜」
「りょーかい、今日はどっち行くと?」
「うーむ、そだね〜セブンにしよう〜」
「りょーかい」
家の帰り道にはコンビニが2つあり、セブンともう一つローソンがある。俺は両親が亡くなってからコンビニのパンにはお世話になっている。パンだけなら全種類制覇しており、新しい種類がでればそれを味見するのも一つの楽しみとなっている。
「なーんも無いね〜」
「あぁ、この時期だけは無くなるのを忘れてたな」
セブンに到着して中に入った所、飲食物がもぬけの殻だった。何故こんな事が起きているかと言うと、先ずは元旦だと言うこと。そして田舎でコンビニの数が少ないのに、住人はそこそこ多いこの町の特徴にある。高校や大学もあり、学生達がこぞってお泊まり会をする事が多い。だからこうゆう〇〇休みの深夜は大概、食料調達ができない。
「一応ローソンもいってみっか」
「レッツラゴ〜」
勿論、ローソンも同じだった。
「はぁ〜カプリコ食べたかったよ〜」
「こんな時間に食ったら太るぞ」
「ノンノン、ウチは太らないんだな〜」
「そういえばそうだったな」
舞は身長160あるのに体重は40キロしか無い。体型はボンキュッボンならぬ、キュッキュッキュッっとなっている。良く言えばスレンダー。悪く言えばまな板とかロリとか。本人曰く、これから膨らんでくるらしい。何がとは言わないが。
「ね、ね」
「ん?」
「たっくんはさ〜やっぱ高校変えないの?」
「変えないな」
「そっか・・」
「・・・」
俺には両親がいない。いや、いなくなったと言うべきだろう。俺がまだ小学2年生の時に亡くなったのだ。両親がどちらも生命保険に入っていた事で、お金はある程度あったが親戚が訳の分からない所で浪費し、中学卒業間近で既にカツカツなのだ。
親戚の家に行く事はその時点で俺の中から消え、施設に行くか悩んだが、今の家を離れたくなかったので、叔母を半ば脅して了承させ、今の家に住んでいる。
「まぁ別にもう会えなくなる訳じゃないんだ。3年くらい、そんな寂しくもないだろ」
「それでもウチは寂しいと〜」
月明かりが照らす夜道を俯く舞の横顔は儚げで、でも思わず目を逸らしてしまう程に綺麗だった。
「んじゃ、またな」
「うん、またね」
結局、舞を見送るまで重い空気が晴れる事は無くそのまま別れる形となってしまった。もっと気の効いた事言えればいいんだが、ちょっと俺には難しい。憂鬱を抱えながら自転車を押していると背中にほんの少しだけ柔らかな感触が伝わる。
「どうした?舞?」
「たっくん!たっくん!たっくんっ!」
「聞こえてるよ」
「ウチはな、たっくんとケンちゃんとずっと3人一緒がいいと」
「そうだな、そりゃ最高だな」
「やけんさ、行っちゃいかんとばい」
「それは・・舞のお願いでも無理ばい。俺はあの家を守りたい。その為にはお金がいるから。いいとこ行っていいとこで働いて。ちゃんとしないといけんとばい」
「・・・」
「じゃ、俺、洗濯物残したままにしてるから帰るわ」
「たっ、ぁ、まっ」
俺は態と聞こえないフリをしてペダルを思い切り踏んだ。