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学年別個人戦6

「…っじょ、冗談でもよしてくれよ。和久が言うとなんか現実味あってこえーよ」


和久の言葉で妙な静けさになった空間に圭介が突っ込んだ。


「あはは、ごめんごめん。だって反応が面白いんだもん」


(圭介くんだけじゃなくて、大雅くんもね)


和久が予想していたよりも、大雅はわかりやすく動揺していた。どうやら和久が言ったような、「近くに指名手配犯いる」という可能性を考えていなかったらしい。

だってこんなに近くにいるのに、全然気付いてないしね。


ダメだよ。常に自分以外の人間を疑っていかないと。

人と人の繋がりなんて簡単に壊れるんだから。


だって人間なんて、血縁者である家族すら裏切ったり殺したりするんだ。どんなに血が繋がっていても、どんなに長い時間を共に過ごしていても。どんなに愛していても。


どうして、犯罪がなくならないのか


そんなの愚問だ。


だって人間みんな、誰しも殺意を持ってるから。

その大きさは個人で差があるけど、人はみんな誰かを恨み、妬み、疑い、憎む。


能力のある現在、犯罪があるのは裏の世界だけではない。確かに裏の世界の住人が関わっている場合もあるが、ニュースで取り上げられるような事件の多くは裏の住人の犯罪ではない。そもそも裏の住人が捕まると言うことは殆ど無いのだ。捕まるのは、証拠を残すようなヘマをした奴、裏切られた奴や運の悪かった奴とか。

よくニュースでやる殺害事件や殺害未遂事件。犯人は裏の住人ではない、表の住人。みんながいう一般人って奴だ。そして多くの犯人はみんなこう言う。



「殺すつもりは無かった」


と。



ほんと人間って面白い。


じゃあお前の手にあった包丁やナイフはなんだ?どうして相手が苦しんでいるのに首を締め続けたその手を離さなかった?どうして相手を殴ったり蹴ったりした自分の身体を止めなかった?



表の人間は言い訳ばっかで笑える。



殺すつもりは無かった?


だったら今犯罪者になってない


なんで今頃許しを乞う?

何を言ったってどうしたって犯罪者ということにはかわりはない。

一時的なものだとしても明確な殺意を持っていたから、握っていた包丁やナイフを振り下ろした。相手を殺したかったから首を締める手を強めた。息の根を止めてやると思ったから殴る腕や蹴る脚を止めなかった。


別に和久はその行為そのものを責めるわけではない。後で許しを乞うのが気に食わないだけで、一時の感情に流され、殺しに走る行為はむしろ好ましく感じる。一時の感情は、その人の本心だと思う。

みんな思うがままに生きればいいのに。


そう表の人間に思ってしまうのは、和久が裏の人間だからなのか。それとも人間として壊れているのかなのか。


目の前にいる大雅は、まるで正義のヒーローのような人間だ。悪を許さず、正義を求め戦い続ける。

憧れと羨望を集め続ける太陽のような存在。

本人は普通に憧れているようだけど。


「でも大雅くんだって、一度ぐらい考えたことあるでしょ?近くの人間が殺人犯だったらとか逆にヒーローだったらとか、ね」


そうやってニコニコと話しかけた和久の顔を大雅はじっとみた。和久の真意を探すように。


迷子のような顔をして。


「ああ…まぁ…。だけど、高校生の俺たちには関係ないだろ」


「そう、そう。そもそも八雲も指名手配犯も学生の俺たちには正直別世界の話だよなぁ。だって見たことないし、よくわかんないじゃん」


圭介くんが言ったように八雲も指名手配犯も一般人に詳細の情報はほとんど届かない。指名手配犯なんかは国、政府の上方部の役人や八雲など高レベルの能力者のみに詳細の情報開示されている。

しかし指名手配犯であるため、一般人にも人物の写真、特徴、性別、年齢、賞金など公開はされている。ではなぜ指名手配犯が一般人にとって都市伝説と言われるほど遠いものになってしまっているのか。

その答えは単純だ。


捕まらないのだ、指名手配犯は。


そのため人々は、「指名手配犯はもうとっくに死んでいるのでは?」「そもそも指名手配犯なんていないんじゃない?」などと思い、指名手配犯がいるという事実を空想化していく。

だってその方が都合がいいから。

誰だってみんな安心して生活したい。

だから指名手配犯なんていう、自分たちの暮らしを壊す存在はいないと願う。


「自分は大丈夫」


そうやって思い続ければ、みんな楽しく暮らせる。

知らなければ、幸せでいられる。


「そうだね〜」


笑顔で圭介に返事をしながら和久が目の前のコートを見ると、丁度試合が始まった所で、生徒が戦い始める。


Aコートでの試合は男子生徒対女子生徒の戦いで、開始早々大きな爆音が会場に響いた。

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