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幼い頃の誰かの記憶1
物心ついた頃から目の前にあったのは、怒りに狂った女の顔と止まらない暴言と暴力。
その女が自分の母親だと知ったのは、何年か経った後だ。
昔から傷の治りが早かった。殴られても次の日には傷は跡形もなく治っていた。女は能力だと言っていた。その頃の自分は能力のことなんて全然わからなかった。傷が早く治ることをいいことに女は毎日毎日殴り続けた。食事はろくになく、家の中から食べ物を探して空腹をしのいだ。
甘ったるい香水の匂い。
自分に向かってくる女の手のひら。
ギシッ
歯車が壊れ始めたのはこの頃からだ。




