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番外編 ある日の実技訓練

個人戦に行く前に番外編です


身体能力測定、宿泊研修が怒涛の勢いで終わり、東京都立能力高校に入学して2週間ほど経った。


目まぐるしい日々が続いているが、大雅たち一年生には休んでいる暇はない。

目を向けなければならないのが、1ヶ月後にある、学年別個人戦。

東能高校は常にレベルの高い能力者を輩出するために、一年に3回個人戦を行う。トーナメント式で名前の通り一対一の個人戦だ。

あくまでこの個人戦は、戦闘能力重視であるためサポート系の能力の生徒は辞退することも可能である。

だが、現代ではサポート系の能力者もある程度の戦闘能力を要求される。

何よりの要因が、能力者による犯罪の増加。

何かあった時に、自分の身を守れなければならない時代になってきているのだ。

そんな経緯もあり、サポート系の能力の生徒も多く個人戦に参加する。


だが、サポート系の能力者が能力だけで戦闘系の能力者と戦うなど無謀であるのが一般的だ。


そのため、サポート系の能力の生徒には学校側が用意した武器の使用が認められている。

銃や刀、ナイフ、弓など武器は多種あるが、今回は対人戦であるため銃は実弾でなくゴム弾などそれぞれの武器は殺傷力が低くなっている。

だが今回の個人戦では、宿泊研修の時にも使用した学校専用模擬戦用戦闘服とそれと連動したデジタル時計のような機械を使用する。そのため、学校用の武器で攻撃を受けたら、本物の武器と同じぐらいのダメージが記録される。

そして持ち点が0点、または戦闘不能か相手が降参したら試合終了となる。



そんな1ヶ月後にある個人戦のために、それぞれのクラスですでに準備が始まっている。

実技の授業では、体術や能力や武器の使い方などを本格的に習い始める。

かく言う大雅たちのクラスも現在、実技訓練棟の訓練室で授業をしている。二人一組でペアを作り、始めは体術、徐々に能力や武器を使用して対人戦を行う。ペアは身体能力測定の結果を元に同じレベルの者が当たるようにし、ペアは次々と変わっていく。

安全上、一回に4組ずつしか対人戦ができないため残りの生徒は訓練室の隅で邪魔にならないよう休憩している。

まだ始めの方の授業のため、対人戦は体術のみの使用である。

そんな中、一際他の生徒、加えて担任の田ヶ原までの視線を集めるペアが1組。



「そういえば、和久は何か武器を使うのか?」


「うーん、そーだねー…刀とかナイフとかかなぁ。まあ、色々試してみて自分に合うのを探してみるよ」


「和久は器用そうだからなんでも使いこなせそうだけどな」


「いやいや、そんなんでもないって。そもそも武器を使わないで済むんだったら、その方がいいじゃん。大雅くんの能力なんて特に戦闘向きだし」


「そうか?そんな使い勝手良い能力でもないぞ?」


「えー、冗談よしてよ。相手を凍らせて、戦闘不能にできるし。それに宿泊研修の時、氷の刀で戦ってたじゃん。いいなー、僕もそんなカッコいい能力が良かったなぁー」


「カッコいいって…。和久の能力の方が素晴らしい能力だと思うぞ。何より人の命を救うことができる能力だ。和久のお陰で助かる人々が沢山いるぞ」


「……そうだねーー」


この2人、というか大雅と和久。声だけだと、普段と同じように何気ない会話をしているように思えるが、現在は実技の授業中。

なんと2人は体術のみでの対人戦をしながら、ダラダラと会話しているのだ。

だがその2人の体術のレベルは非常に高い。

そもそも、大雅は身体能力測定オール5。それに加えて和久も体術は5。同じぐらいのレベル同士でペアを組むのだから、大雅と和久がペアになるのは必然的だ。


和久が右腕で大雅の顔めがけて殴りかかり、それを大雅が受け流しながら和久の足を払い体勢を崩させる。和久は体が傾きながらも地面に右手をつきその勢いを利用し左足で大雅の腹部に蹴りを入れる。その足を大雅は掴み、体勢を崩す和久に蹴りを入れふき飛ばす。吹き飛ばされた和久は空中で体勢を整え、すぐさま大雅に向かって攻撃し始める。


多少和久の息が上がっている(もちろん演技)が、そんな風に2人は先ほどの緊張感のない会話をしている。


そしてその2人のうちの1人である大雅は内心和久に感心していた。


(俺が手加減しているにしろ、和久いい動きするな。この調子なら卒業する頃にはかなり、レベルの高い体術ができるようになるだろうな。頭も切れるようだし、ぜひ八雲に欲しい人材だ)


そんな風に大雅が考えていると、終了の笛が鳴った。


大雅は蹴り出そうとしていた右脚、和久は殴りかかろうとしていた右腕をピタリと止め、2人とも戦闘態勢をやめる。


「お疲れ、大雅くん。楽しかったね」


和久がいつもの笑顔で大雅に話しかける。


「ああ、俺もだ」


大雅もいつもと変わらず短く和久に応えるが、周りの人間はそれどころではない。

大雅が強いことは全員が分かっていた。なんと言っても、身体能力測定でオール5という実力であり、加えて今度の個人戦の優勝者候補とも言われている。


だが和久はどうだろうか。

何度も言うが、和久の第一印象は大人しそう。それと言って目立つところはなく、人混みに入ったらすぐにどこにいるかわからなくなってしまうだろう。

それに能力は治癒という、戦闘とは遠くかけ離れた能力である。

誰がこれほど和久が強いと考えるのだろうか。


クラス全員と担任は、宿泊研修での模擬戦などから和久のことを下に視てはいけないと思った。

しかし、そんなこと御構い無しで、和久に突っかかる生徒が1人。


「なあ和久、次俺とやろうぜ!!!俺がボッコボコにしてやるぜ!!!」


圭介である。


クラス全員が


((((まじか、こいつ))))


と思った瞬間だった。


先日和久のことを敵に回したくないと、自分で言ってたことを忘れたのだろうか。

いや、多分完全に忘れている。

彼はポジティブなバカなのだ。


そんな圭介に対し和久は、嫌そうな顔をした。


「えー、やだ「よし!早く、やろうぜ!!!」……」



断ろうとした和久を無視して、圭介は勝手に戦闘の準備を始めた。

圭介の意気揚々としているのに対して、和久は完全に目が死んでいる。


「おい!和久そんな顔すんなって!まあ、俺と戦うからビビってんのかもしれねえけど、心配すんなっ!」


「………。うん、分かった。やろうか」


圭介のどこから来るのかわからない自信を聞いた和久は、いつものようにニコッと笑う。


その笑顔を見て、大雅と圭介を除く生徒に悪寒が走ったのは言うまでもない。


残りの3組のペアが準備したのを確認して、田ヶ原が初めの合図の笛を吹く。


そして次の瞬間…


圭介が吹っ飛んだ。


「「「は?」」」


休憩をしていた生徒達が驚愕の声を上げる。


他の生徒たちと一緒に見ていた大雅は「さすが和久だな。無駄な動きがほとんどない」と呟いている。


吹き飛ばされた本人は、今の状況を分かっていないようで床に倒れながらしばらくぽかんとしていた。

だがすぐに腹部に激しい痛みを感じたらしく、声を上げて騒いだ。


「い、イテェーーー!!!は???何が起こった!?」


そんな圭介に1人の生徒が近づいてくる。言わずもがな和久である。


コツコツという和久の足音が訓練室に響く。ちなみに他の3ペアは、笛が鳴ったと同時に和久達が起こした出来事に対し驚き戦闘を始めていない。


圭介に無言で近づく和久の顔は無表情。

あのいつもニコニコと笑っている和久が無言かつ無表情というのは、かなりの圧がある。


「わ、和久?」


そんな和久を見て、圭介は怯えた声を出し他の生徒も息を潜めて、2人の動向を見る。しかし唯一、大雅だけは普段と変わらず、また圭介和久怒らせてるし。懲りないなぁ、などと心の中で呆れているが。


そして圭介の目の前に来た和久は、圭介の前にしゃがみ込んだ。そして先ほど圭介が痛がっていた腹部に手を当てる。


「ちょ、待って!ごめん、ごめんって!俺が調子に乗りすぎました!だからそこ痛いから触んないで!!!……ってあれ?痛くなくなった?」


和久の様子に対し、圭介は慌てるがそれもすぐに大人しくなり、困惑の声を上げる。


「はい、治したよ」


和久がいつもの笑顔になり、圭介に話しかける。


この時、訓練室にいる殆どの生徒が先程の和久への評価を改めた。確かに下に見てはいけないが、友達思いで怪我をしたら治してあげる心優しい部分もある、というように。

そして当然圭介も他の生徒と同じようなことを和久に感じていた。


「いやー、びっくりした!だけど和久治してくれてありがとな!!!」


だがそれも次の和久の言葉を聞くまでであった。


「うん。じゃあ続けようか」


「へ?」


誰もがこれで終わりだと思っていた。


「え?だってまだ時間は余ってるよ?いくらでも怪我は治してあげるからさ」


素晴らしいほどの笑顔で和久が言う。


((((こいつやっぱり敵にしちゃダメだーーーー!!!))))


本日2度目のクラスの考えが一致した瞬間だった。


そのあと戦闘時間が終わるまで圭介が和久に吹き飛ばされ、その度に治され、戦闘続行を要求されたのは言うまでもない。

ちなみに和久は圭介を蹴りで吹き飛ばしました。

スタートと同時に床を蹴りそのままの勢いでドーン!みたいな。

ちゃんと手加減して、以前みたいに肋骨折るようなヘマはしてません。

あと別に和久は圭介が嫌いなわけではありません。だけど何度言っても同じことをする所が嫌だって感じです。

あれ?確か人物紹介で圭介のこと「騒がしいバカだけど、空気が読める」って書いたよな…。

全然、圭介空気読んでなくない?

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