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プロローグ

西暦2×××年。

世界の人口の約3割の人間が特別な能力を持っている。例えば、炎を操る能力、氷を操る能力など能力には多くの種類がある。また能力は同じような種類でも、強い能力や弱い能力がある。そして、それら能力を持つ人間は社会では能力者と呼ばれている。しかし能力を持つから社会で優遇されるかというとそういうことでもない。能力者も一般人、つまり能力を持たない世界の人口約7割の人間と同じように扱われる。そして能力を持つ者は能力を使い、能力を持たない者は知識や技術を使い、社会を支えているのだ。


しかし、能力を持つ者の中には、自身の持つ能力を悪用したり、能力を持つ者が特別だと思う者がいる。一般人の犯罪行為は警察が処理をするが、能力者の犯罪行為は警察だけでは対処できない。そのため各国の能力者で作られた特別部隊が対処する。日本の特殊部隊、通称「八雲」も日々能力者による事件、テロなどの犯罪行為の対処をしている。「八雲」に属する能力者は、日本の中でトップの能力者である。

能力者にはレベルがある。能力の強さや体術などの身体機能などにより、上からS、A、B、C、Dの5段階に分けられる。

「八雲」に属する能力者のレベルは全員がAかSである。


八雲の能力者の情報は殆どが世間に公開されていない。若い者から高齢な者、年齢性別もバラバラであり、普段は学校に通っている者もいるらしい。



だが、どんなに「八雲」などの特殊部隊があったとしても、全ての悪は防げない。特殊部隊や警察などの活躍によって安全な世界を「表」と言うなら、「裏」と言われる世界もたしかに存在しているのだ。裏の人間は能力者だけではなく、能力を持たない者、暴力団などもいる。麻薬取引、臓器取引、人身売買、暗殺、詐欺、など表の世界では到底できないことも裏の世界では普通にされている。特殊部隊や警察はこれらを防ごうとしているが、裏にもかなりの能力者、実力者が存在するためなかなかこれらを防ぐことが難しい。そのため、政府は裏で暗躍する能力者、又は能力を持たない者に賞金をかけ指名手配犯として行方を追っている。


***


深夜2時、大通りから離れた人気のない路地に2人の柄の悪そうな男とその2人に囲まれて倒れている男がいる。囲まれている男は、身体中ボロボロで立ち上がることも困難であるようだ。


「おっさんよぉー。一体いつこの借金返してくれるんだぁー?」


「い、1週間後には必ず!必ず準備します!」


地面に倒れる男の恐怖に染まった声は暗闇に飲み込まれて、大通りまで聞こえることはない。目の前に立つ二人組は所謂世間一般でヤクザと呼ばれるもの。まだ若そうな風貌の二人だが袖をまくり見える腕にはでかでかと刺青が彫られている。


「あんたさぁ、1ヶ月前も同じこと言っていただろ。そろそろうちのボスもお怒りなんだよ、なあ相棒」


「ああ、これでもボスは待っていて下さった方だが、金を返せないとなると話は変わる。だがな、今回は特別にボスからある条件を飲めば、借金をチャラにしてやると言われている」


にやにやという効果音が相応しい顔して話すその男は、目の前の男に甘い救いの糸を垂らす。


「本当ですか!なんでもやります!やらせて下さい!」


男が必死な声で言うと、柄の悪そうな男はニヤリと笑い言った。そしてポケットの中に手を入れお目当ての物を手に握る。カチリと無機質な音が鳴る。


「じゃあ、





臓器提供をして死ね」


銃声とともにぐちゃりという音がして男が地面に倒れる。

男は頭を撃ち抜かれ、この瞬間からただのモノになった。


「あーあ、死んじまったな。あっけない」


「まあ、こいつ能力者じゃなくて一般人だからな」


二人の男は、人が一人死んだにもかかわらず人の死が日常であるかのように普段と同じ様子で話を続ける。


「なあ、この後こいつどうすんだ?早くしねえと、こいつの臓器使い物にならなくなんじゃね?」


「ああ、そのことはボスからはある人物を送ったから帰ってこいとしか連絡がないが…」


『すみませーん。連絡を受けたので来たんですがー』


「「!!!」」


機械を通したような、そしてどこか楽しそうな声が路地裏に響く。

急な背後からの声に2人は驚き戦える体制を構えた。


「…誰だ、テメェ」


2人が見る先にいるのは、1人の少年。


どこにでもいるような、人混みにいたらあっという間に見失ってしまうような、普通、平凡な少年である。年齢は高校生ぐらいで、顔はよく見れば整っているが、日本人の特徴である黒髪のせいで元々さっぱりしている顔が一層目立たなくなっている。服装は街にぶらっと出かけにきたような黒のパーカーにジーンズ。そして、右手にはなぜかガスマスクを持っている。

どう見たってこの場に不釣あいの少年に二人は警戒する。


「あはは。そんな警戒しないでくださいって。僕は、この業界で『回収屋』と呼ばれる者です。以後お見知り置きを」


2人は少年の無駄に綺麗な礼よりも、少年が言った名前に驚いた。


「回収屋だと…」


「お前があの回収屋…」


2人は少しの間呆然とし、そして目を合わせ


プッ


「「アハハハハハハ!!!」」


「おいおい、冗談言うなって。お前があの回収屋だって?」


どちらかもなく二人は笑い声をあげた。


「回収屋ってあの指名手配犯だろ。お前憧れているのか知らんけど、そんな嘘つくなよ。まあ生きて帰りたいんだったら、とっととここから去りな」


「えー、冗談じゃないですよー。むしろお兄さん達の方が早くここから去った方がいいんじゃないですか?もう10分ほどすれば、八雲の人達が多分来ますよ」


少年は馬鹿にされたにもかかわらず特に気にした様子もなく、目の前の2人ににこにこと話しかける。だがその態度が、逆に2人をイラつかせた。


「はあ?お前何ほざいてるんだよ。殺すぞ」


「てめえ、いい加減にしろよ。もう無事に帰すわけにはいけないな」


そういい2人の男は銃をそれぞれ少年の頭に向ける。


「忠告ですよ、忠告。だってお兄さん達の実力じゃ八雲の人達には、勝てないでしょうから」


「あー、後悔すんなよ。坊主」


「大人しく死んどけ」


ここで死体が一つ増えたところで、男たちは何も困ることはない。この後に来ると思われる人物に二人分の臓器を回収してもらえばいいからだ。

にこにこと笑う少年に、2人の大人は苛つきながらトリガーを引く。



そして銃声が2回、月の光が微かに入り込む薄暗い路地に吸い込まれて消えた。


***


電話の呼び出し音が鳴り、受話器を取る。



「…もしもし」


「夜分遅くにすみません。こちら依頼を受けていました、回収屋です。上条暴力団の幹部の方はいらっしゃいますか?」


「…俺だ。目的のものは手に入ったのか?」


「はい。幸い頭部だけの損傷だったため、頭部以外の臓器は全て回収できましたよ」


「じゃあいつもの場所に送っといてくれ」


「わかりました。お代は後ほど連絡させていただきますね。それじゃあ、大人3()()()の臓器を送っておきます」


「……は?3人分?」


「はい、3人分です。それと新人さんへの指導はしっかりしといた方がいいですよ」


「…殺したのか」


「いやー、正当防衛ですよ。あのお二人が最初に、僕に銃を向けてきたので…



うっかり殺しちゃいました。すみません」


「…いや、しっかり指導しなかった俺が悪い」


「大丈夫ですよ。ただ僕の仕事が少し増えるだけですから。では、そろそろこの辺で。今後ともよろしくお願いします」


***


「ーーー今後ともよろしくお願いします」


電話をきった少年は、携帯をパーカーのポケットにしまい、自分の目の前にあるものを見る。それは、先ほどまで人間と言われていたもの。


(んー、やっぱ3人はちょっと目立つかなぁ。また八雲の人達が僕のこと捕まえようと、色々動くね。まあ捕まらないけど)



そう思いながらも少年は、慣れた手つきで目の前のものの片付けをする。持ってきていたカバンの中から黒いビニール袋を出し、それらに詰め込む。ついでに言っとくと、先程手に入れた臓器もこのカバンの中に入っている。保存については、この少年の能力だろう。


そうして、ビニール袋に詰め終わった少年は、それを持ち、立ち上がり目を閉じた。


(……2キロ先に八雲のメンバー。そろそろここから離れるか。ゴミは専門の業者に処分してもらって、商品は配送しないとな)


(今日中にやんないと、面倒くさくてやらなくなるし。明日は入学式なのになー、とっとと帰ろう)


次の瞬間には少年の姿はそこから消え、その場に残っているのは、鉄臭い臭いと、地面にべったりとつく赤黒い液体だけだった。







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