あいつは絶対敵に回したくない
学年会議。
それは週に一度各学年ごと職員が集まり、日々の振り返りやこれからについて話し合う場である。
東京都立能力高校にも、それはあり毎週水曜日の放課後に行われている。
そして、一年の学年会議では、先日行われた宿泊研修でのクラス対抗模擬戦について話し合われていた。
「今年もなかなかいい生徒がいますねえー」
学年主任である男性職員が言う。
会議室には各クラスの担任そして学年主任がいる。当然、そこには和久たちクラスの担任である田ヶ原もいる。
各教員の手元には学校から配布されているタブレットがあり、今回の模擬戦の結果や生徒の情報などを細かく見ることが出来る。
「特に今回優勝した2組の一条くん。すごいですね。1人で一万点以上ですから」
「一条家は、昔から優秀な能力者を輩出している家ですからね。一条くんも今年の一年の中で唯一のレベルCですし」
「まあ、ちょっと性格が戦闘狂寄りですけど、実力があるのは確かです」
「一条くんも気になりますが、私が注目してるのはやっぱり、4組の間宮くんですね」
「4組の間宮くんと言えば、身体能力測定でオール5だった子ですね」
大雅のことは教師の間でも話題になっており、影では、能力高校始まって以来1番の成績優秀者ではないかと言われている。
「今回の模擬戦では7000点で一条くんには劣るけど、なんと言ってもあの戦い方はおもしろかったですね」
「僕、4組の戦闘を見てましたけど、あれは凄かったですね。特に最初の噴水を壊して、地面を凍らせたやつ。あのおかげで、4組かなり点数稼いでましたし。田ヶ原先生、やはりあの作戦を立てたのは、間宮くんなんですか?」
教師の1人が田ヶ原に尋ねる。
「いや、聞いたところによると、作戦を立てたのは間宮ではなく、他の生徒のようです」
「そうなんですか!?僕はてっきり主に活躍してた間宮くんが作戦を立てたのかと」
「私もそう思ってたのですか、どうやら間宮ではないようで」
「では、誰があの作戦を?」
学年主任が田ヶ原に聞く。
「間宮と仲が良い、観月和久という生徒です」
田ヶ原は答えながら、模擬戦が終わった時のことを思い出していた。
***
(俺のクラスは2位か。ったく、模擬戦で噴水壊すなんて聞いたことねえぞ。それに間宮は予想以上だな。能力の使い方がそこらの生徒とは比べものにならないほど上手い。あの作戦も間宮が考えたのだろう。間宮に体術とか教えたっていう親戚に会って見たいな)
そう思いながら、自分のクラスの生徒が集まっている場所へと行き、この後のことや帰りの指示をする。
そして宿泊施設へと向かう途中、田ヶ原は珍しく1人でいる菊地圭介を見かけた。菊地は元気が良くクラスのムードメーカー的存在だ。またあの間宮とも仲が良いらしく、観月と3人でいるところをこの入学してからの1週間よく見かける。
「よお、菊地。1人でいるなんて珍しいな。間宮や観月はどうした」
田ヶ原が圭介に話しかけると、圭介はいつもの元気な顔で答えた。
「俺がトイレ行ってて、あの2人には待ってもらうのもなんなんで、先に行ってもらいました。だから今俺、ボッチなんですよ」
「そうか、そうか。じゃあ俺が特別に、お前と一緒に行ってやろう」
「あざーす」
そんな風に会話をしながら、田ヶ原は圭介と一緒に宿泊施設へと向かった。
話題は当然、先程終わった模擬戦についてである。
「でさー、先生。俺1900点ってマジで頑張ったと思うんですよ。でも、大雅はしょうがないとして、俺和久にまで点数負けたんですよ」
「へえー、観月が。なんか意外だな」
「ですよね!先生もそう思いますよね?あいつ見た目大人しそうなのに」
「まあ、第一印象から見るとな」
観月の第一印象は、目立たなくて大人しそう。まあ、その印象は身体能力測定の体術の時に覆されているのだが。それに出身中学のことなど、田ヶ原は和久のことを時々注意して見ることにしている。
「でもあいつ、怒らせるとちょー怖いんすよ。絶対、敵に回したくない」
「ふーん(こりゃあ、観月問題児仮説、ほぼ確定か?)」
「模擬戦時のあの作戦で一層敵に回すべきではないと思いましたね」
模擬戦のあの作戦って、噴水壊したやつだよなーって……
「ん?」
「え?」
田ヶ原は圭介が今言ったことを思い出す。あの作戦で観月を敵に回したくないと思ったってことは…
「な、なあ、菊地。あの模擬戦での作戦って間宮が考えたものじゃないのか?」
田ヶ原が恐る恐る尋ねると、圭介はぽかんとした顔になり、そして全力で首を横に振った。
「ええーー、違いますよ!あんなえぐい作戦大雅が考えるわけないじゃないですか!あの作戦考えたのは、和久ですよ!」
そんな経緯で田ヶ原は、あの作戦を考えたのは、和久だということを知ったのだ。
***
「へえー、その観月くんと言う生徒があの作戦を立てたのか。どれどれ、観月くんのデータは…おっ、今回の模擬戦では2000点か。なかなかいい成績ではないか。それに相手は8組の西園寺くんだし、今後が気になるね」
学年主任がタブレットで和久のデータを見つけたようで、それを読んでいく。
田ヶ原は和久の成績を見たとき驚いた。映像を確認したが、丁度カメラの死角だったらしく映像は残ってなかった。しかし田ヶ原自身、正直能力が治癒だとそれほど点数は取れないだろうと思っていた。なのに和久の点数は2000点。
相手の西園寺は決して弱いと言うことはなく、むしろ彼の祖父があの伝説のSランクの持ち主だと言う、能力一家の生まれである。その西園寺を和久は気絶させ持ち点プラス1000点、それに自身は一切攻撃を受けていないという。
あの作戦を立てたのも和久だと聞くし、ますます田ヶ原は観月和久という生徒の人物像がわからなくなった。
その後学年会議では、他の生徒たちのことや模擬戦について話しあった。
そして会議が終わりに近づいてきた頃、学年主任が、クラス担任たちを見て言った。
「あくまで今回の模擬戦は、生徒に戦闘を慣れさせるものです。そして次に生徒たちが目を向けなくてはならないのは、1ヶ月後にある学年ごとの個人戦です。そのためにも、各クラスごとしっかり生徒に指導をするように」