クロ
サイレンサーで抑えられた銃声が聞こえた。
回収屋こと和久の左胸から血が流れ出て、着ていたパーカーが赤く染まる。
『ちょっとちょっと、いきなり撃つとか酷いんじゃない?いくらなんでも死んじゃうよ』
和久は銃声がした背後を振り向きながら言う。そこにいるのは、いかにも最近の若者風の20代前半の男。暗めの茶髪で左耳にはピアスをし、右手には銃を持っている。
「どの口で言ってるんだか。お前だって俺に会うたび、いきなり攻撃してくるだろ。手加減してるとはいえ、マジで時々命の危険を感じるぞ。それに、お前の能力だったらそんな傷もう治ってるだろ」
男が言うように、和久の左胸の撃たれた場所は既に血が止まり、傷跡も残ってないだろう。
「相変わらず気持ち悪いぐらい速く治んな。ゾンビかよ。お前能力、治癒じゃなかったか?なんで治癒で自分の傷の方が治るのが速いんだよ」
「やだなぁー。ただ能力を使ってただけだよー」
和久はガスマスクを外しながら、ヘラヘラと答える。そんな和久に対して、男は「使ってたってどういうことだよ…」などと呆れていたが、思い出したように口を開いた。
「昨日のお代のことだが…」
「あ、そうそう。今持ってきてるけど、100万ってとこでどう?クロ」
いきなり銃で撃ってきたこの男のことを、和久はクロと呼んでいる。本名は知らない。まあ、そんなことはこの業界ではよくあることだ。
和久はカバンから、札束の入った封筒を出す。
クロが何も言わないところを見ると、和久の出した値段に納得したようだった。
封筒を受け取ったクロは中身を確認してから、封筒をしまった。
「そういえば回収屋、お前本当に高校生だったんだな。指名手配されたのが3年前だろ?ってことは俺は中学生のガキに負けたのかよ…」
クロと和久が始めて会ったのは、今から3年前。クロが回収屋である和久の暗殺を頼まれ、和久を暗殺しようとしたクロを和久が返り討ちにしたのだ。
それからは、お互い依頼をしあったりするようになっている。ちなみにクロに和久の暗殺を依頼した人物は、和久が直々に消しといてあげた。
「まあまあ、そんな気にしないで。昨日はほんと助かったよ。ありがとね、クロ」
「ああ、まあ、お互い様だしな。それはそうと、回収屋」
クロが真剣な顔になって和久を見る。
「昨日お前が殺した奴は一体なんだ?なんであの周辺に八雲の奴がいたんだよ」
そんなクロの質問に対して、和久はどうでもないことのように答える。
「そりゃあ、僕のクラスに八雲の霧氷がいるからね。それに彼は僕の友達だよ」
「はあ!?」
誰でもこんなことを聞いたら驚くだろう。同じ教室に、正義のヒーローである八雲の霧氷と裏社会の大物である回収屋がいるのだ。
「だいじょーぶ。向こうは僕の正体に気づいてないし。昨日だってバレないように行動したしね」
「バレないようにって。わざわざ八雲がいるところに俺を呼んだのかよ…。見つかってたら今頃監獄行きだっただろ。お前はどんな根性してんだ…」
クロは額に手を当ててため息をつく。和久が突拍子もないことをし、クロがそのことに呆れる。いつも2人の関係はこんな感じだ。クロは和久に比べるとかなりの常識人で、普段はコンビニでバイトしている。いつだか和久がなぜ裏社会で仕事をしているのかと聞いたら、金が稼げるからだと言っていた。実際クロの能力であるワープは暗殺や裏社会の仕事にはもってこいの能力だ。相手に気づかれないように近づき、任務を遂行する。
「そんで、最初の質問に答えろよ。なんでお前は八雲の奴らが動くぐらいの奴を殺したんだ?一体あの女はなんだ」
うーんと和久は少し考え込んだあと、前髪を弄りながら普段より声のトーンを下げて話し出した。
「……クロ。 オフィウクスって組織調べてってこないだ言ったじゃん?」
「は?なんだ急に。確かにそれは調べたけどよ。その組織、10年前有名だった組織じゃねえか…ってお前が殺したあの女、まさか…!」
驚くクロの目を和久がじっと見る。普段のような薄気味悪い笑顔では無く、何か強い意志があるかのような真剣な表情である。
「その組織に入るためにはどうすればいいと思う?クロ」