犯罪組織
『ふんふふーん』
少年の陽気な鼻声が響く。それ自体はなんのおかしなところもない、何処にでもある光景だ。しかし、それは夜の人気のない路地裏でなく、その少年がガスマスクをしていなかったらの話だが。加えて少年は鼻歌を歌いながら、20代後半ぐらいの派手な格好をした女性の上に馬乗りになり、その女性の首を絞めている。
「……っあ、くっ…は、はな…し…て…」
女性は決死な思いで、少年の手を引っ掻いたり叩いたりした。
『うん?』
女性の声を聞いた少年は、手から少し力を抜く。女性は少し安堵した顔になった。
『苦しい?苦しいよね?今すぐやめてほしいよね?』
ガスマスクに変声機でも付いているのだろう。機械音になった声で話す少年の唯一ガスマスクで隠れていない右目が嬉しそうに細まる。
『でも、ダーメ』
そう言って、少年はさっきよりも強い力で女性の首を絞める。女性はしばらくの間、その手から逃れようともがいていたが、そのうち動かなくなった。
女性が呼吸をしなくなったのを確認した少年はその手を女性の首から離し、ポケットからナイフを取り出す。
そしてそのナイフの刃を、躊躇することなく女性の腹部に刺し、そのまま滑るように斬っていく。
『今日は、肝臓、腎臓とー、肺かぁ。これでざっと1000万円以上かな?儲かる、儲かる』
グチャグチャという生々しい音が路地裏に響く。少年は黙々と作業を続けて、目当ての臓器を取り出した。
そして取り出した臓器を持ってきていたカバンの中に入っていた袋に入れる。
『治癒をちょちょいとかけてー…はい、これで新鮮さの保たれた採れたて臓器の完成ー』
そんな独り言を言い、少年は片付けを始める。慣れている手つきで、目の前にあるものをさっきとは別の大きな袋に入れていく。
「ほんといい趣味してんな、回収屋さんよ」
サイレンサーでくぐもった銃声が暗い路地裏に静かに響いた。
***
「オフィウクス?」
大雅がなんだそれと声を上げる。
現在、大雅がいる場所は八雲本部。振替休日である今日、大雅は隊長に本部に来るよう呼ばれていた。寮で同室である圭介には、親戚に会うと言って出て来ている。
本部に着いたと思ったら、早々に執務室へ呼ばれ向かうと、そこには隊長である堤、副隊長である美由紀から、取り調べ担当である懺悔など、八雲の中でもそうそうたるメンバーが集まっていた。
そして大雅が執務室に入ってくるのを確認すると、隊長の堤が口を開いた。
「先日大雅が捕らえた男だがオフィウクスとの関わりがあるらしい」
その名前を聞くと、大雅以外のメンバーたちの顔が強張る。
そんな名前の組織は大雅の記憶にない。
そして冒頭に戻る。
なんだそれと声を上げた大雅に美由紀が答える。
「大雅は知らなくてもしょうがないわ。10年も前だし、表には出てない組織だからね」
10年前というと大雅の両親が生きていた時だ。大雅が八雲に保護されたのは、大雅が7歳の頃。そのため大雅が八雲にやってくるちょうど1年前に活動していた組織であるようだ。
「それでそのオフィウクスってどんな組織なんですか?」
大雅が尋ねると、堤と美由紀は2人で目配せをし、その後堤が話しだした。
「オフィウクスは犯罪組織だ。10年前俺ら八雲によって解体されたな。と言っても当時俺も美由紀も八雲で下っ端だったから、詳しいことはその時の隊長や副隊長と言った幹部達しか知らないがな。まあ、殆どの奴が知ってることは、この組織は能力者の人体実験をしてたってことだな。しかも実験の対象の殆どが7歳以下の子供のな」