殺さない程度に殺ろう
「なっ!僕の攻撃を避けるなんてお前生意気だぞ!!!」
(うわぁー、めんどくさいやつ来たー)
和久は後ろからの攻撃を木に足を引っ掛けぶら下がる形で避けたが、後ろからの声に思わずげっそりする。
その状態から地面に着地し、攻撃をした方を向くとそこには1人の男子生徒。
雰囲気からしてどっかのお坊ちゃんという感じだ。
「ふん!まあいい。僕の攻撃を避けたのは生意気だが、一応褒めてやろう」
何故か偉そうに上から和久を褒める目の前の男子生徒。取り敢えず和久はいつものようににこにこしながら黙ってその男子生徒の様子を見る。
「どうした?僕を恐れて声が出なくなったのか?まあ、それもしょうがない。なんて言ったって僕はあの西園寺の一人息子だからな!」
えっへんという擬音が聞こえそうな態度である。
(なんかムカついてくる態度だなぁ。そういえば西園寺って言ってたっけ。こんな雰囲気だから多分御曹司とか能力者で有名な家だよね。そう考えると西園寺って…)
「ねえ、もしかして西園寺ってあのSランクの能力者、西園寺 清史郎の西園寺?」
和久が男子生徒に尋ねる。
「ああ!西園寺 清史郎は僕の祖父だ。残念ながら1年前に亡くなってしまったが、僕の自慢のお爺様だ!庶民ごときの君が知っているなんて。なかなか君は賢いな!」
やっぱりそうか。
西園寺 清史郎は日本でも数少ないSランクの能力者だった。個人で能力者の会社を立ち上げ、大きな勢力を持っていた人物だ。しかしその西園寺 清史郎も1年前に病気のため亡くなった。
ーーーと世間には知られている。
実際は病死ではない。
殺されたのだ、和久に。
和久は依頼を受け、西園寺清史郎を暗殺した。帰宅途中の西園寺清史郎の心臓を背後から刺した。それでもやっぱりSランクの能力者。心臓を刺されながらも、振り向き能力を使って攻撃をしてこようとしてきたので、和久は素早く西園寺清史郎の首をナイフで斬り裂くと西園寺清史郎は大量の血を流し地面に倒れ動かなくなった。
普段の和久は暗殺をしたあと臓器を回収するのだが、年寄りの臓器は臓器売買には使えないし、売れない。
そのため臓器は回収しなかった。だがご丁寧にも和久は西園寺清史郎の遺体をばらばらに切断し、それらを西園寺清史郎の事務所送った。
事務所内の監視カメラの電波を乗っ取り、画面越しから見た事務所に遺体が届いた時の人様子は本当に笑えた。人々の悲鳴が事務所内に響いていた。
これだから、
ほんと、
暗殺はやめられない。
だけど、あんなに丁寧に和久が遺体を送ってあげたのに、国はこのことを公にしなかった。Sランクの能力者が暗殺されたなんてニュースになれば、人々が混乱することは間違いない。またそのニュースに教唆された犯罪者や裏の人間が動くかもしれない。
そのため世間には、西園寺清史郎は病死したと伝えたのだろう。
だけど、目の前の男子生徒が話す様子に嘘は見られない。ということは、この男子生徒は祖父の本当の死について知らないのだ。
もしこの男子生徒が、祖父は殺されたのだと知ったらどうなるのだろうか。憧れの祖父が手も出せずにあっさり殺されたと知ったら。
しかも、両親はそのことを自分に隠していた。悲嘆、失望、恐怖、憤慨、憎悪と言った様々な感情がこの男子生徒を埋め尽くすのだろう。
笑える。
想像しただけで、今すぐ目の前の男子の顔を絶望で染めたくなる。とことん自分は狂っていると思うけど、止められないものは止められない。まあ、今ここではさすがに殺したりはしないけれど。
「まあ、僕はお爺様似だからな。こんな僕と戦えるなんて君は幸運だな」
目の前の男子生徒は、完全に和久を舐めきっている。和久のこの大人しそうな見た目が原因だろう。
戦闘は避けられそうに無いが、ここでは殺すことができない。それに得点を稼がないと後で圭介がうるさそうだ。
そうなれば、和久に残された道は1つ。
(殺さない程度に殺ろう)
***
ぞくっ
今まで感じたことのない感覚が己に向かって来て鳥肌が立った。
だが目の前にいるのは大人しそうな雰囲気の少年だけだから多分気のせいだ。先程背後から攻撃したのにそれを避けたのは驚いたが、多分まぐれだろう。どう見たって大人しそうであまり運動が得意じゃなさそうだ。自分の祖父のことを知っていたのには感心したが、あくまでただの庶民。Sランクの祖父の血が流れる自分がこんな一般人に負けるはずがない。一般人は捨て駒だ。
なのに新学期早々他クラスに身体能力測定で全て評価5を取り騒がれている生徒がいるという。自分という存在がいるのに自分より目立とうとするなど、なんて生意気な奴なんだろうか。
そいつのクラスは確かこの公園がスタート地点だから、わざわざ行ってそいつと戦い、そいつに現実を見せてやろう。だから目の前のこの大人しそうな男子生徒は、そいつと戦うための準備運動として使ってやろう。この自分と戦えるなんて本当に感謝してほしい。
「じゃあ、戦おうか。君から攻撃していいよ」
「なっ、生意気だぞ!」
目の前の大人しそうな男子生徒が言ったことに対し、思わずカッとなる。どうせ、内心怯えているからわざと威勢を張っているくせに。だから、庶民は嫌なんだ。
「はっ、まあ、そんなことを言うなら、僕から攻撃してやろう」
攻撃をする準備をする。能力は爆破。手のひらから大砲のように打つことができる。
そんな口を自分にしたことを後悔させてやる。
少し力を入れて手のひらを目の前の男子生徒に向ける。相変わらず大人しそう雰囲気で、それでいてにこにこ笑っている。
威力は50%ほど。こんな奴にはこれぐらいで十分だ。そのかわり、避けられないぐらい多く打ってやるが。
そして、打つ。打ちまくった。男子生徒の周りは砂埃で全然見えなくなった。
「ははっ」
自然と笑みが漏れる。
やった、やったぞ。あの生意気な庶民である男子生徒が動く気配もしない。どうせ爆破で気絶してるのだろう。
「あはははっ!どうだ、見たか!これが一般人と僕との差だ!」
「うるさいし、遅すぎ」
自分の近くで、感情のない声が聞こえた。
バキッ
そんな音と腹部への衝撃とともに自身の体が吹き飛ばされる。
無様に地面に叩きつけられ、息をするのも苦しい。
「やっばー、力加減間違えちゃった」
緊張感のない言葉が聞こえたのを最後に、視界が真っ暗になった。
***
『相手の戦闘不能を確認。1000点があなたに移ります』
機械音と共に、和久の腕についた機械に+1000と表示された。
「ちょっと力んじゃったから、あばら5、6本折っちゃったぽいなぁ〜」
呑気な声を出しながら、和久は先程までの先頭相手であった男子生徒の元へ行く。
案の定近づくと、男子生徒は白目を剥いて気絶しており、肋骨が6本バキバキに折れていた。そのため和久は素早くその男子生徒に治癒をかけ、骨を元の状態に戻す。
もちろん監視カメラから死角になる場所でこの男子生徒の腹に一発入れ、そして現在治癒をかけているので、教員に見られているということはない。
だが、戦闘中に相手の肋骨を6本バキバキ折ったなど、周りに知られたらかなり騒ぎになってしまうだろう。
それで教師から要注意人物として監視などされてしまったら、元も子もない。
治癒を終え、気絶している男子生徒をほっとき和久はまた再び木の上に登り周りを見る。模擬戦の残り時間はあと10分。戦闘が激しくなっている。そんなとき、公園内から高くてよく通る女子の声が聞こえた。
「間宮 大雅!私が相手よ。覚悟しなさい!」