局地的な大雨と水の凍結にご注意下さい
この訓練施設は、小さな町ほどの面積でビル街や住宅街、公園や森などがある。
現在和久たちがいる公園は、ちょうど訓練施設の真ん中。
模擬戦が開始し、生徒たちが動き出す。和久たちのクラスの生徒は公園内に散らばった。公園の外側付近には戦闘系の生徒。中心付近にはそれ以外の生徒。ただし数名の生徒は噴水の近くだ。大雅は噴水から少し離れたところに立っている。
5分ほどすると、公園に他クラスの生徒が近づいてくる。何人かのグループであったり、個人であったり。こんな周りから見えやすい公園で40人の生徒が集まっていたら、他クラスが狙いに来るのは当たり前だ。それに加えて、訓練施設の中心にあるこの公園は人が集まりやすい。
「おいおい、こんな集団でいて狙ってくださいって言っているも同然じゃねーか」
「悪いけど、得点もらうわね」
「あの身体能力測定オール5のイケメンはどこだ。俺がぶっ潰してやる」
あちらこちらで戦闘が始まった。圭介などの戦闘系の生徒たちは嬉々として、他クラスの生徒と戦う。
もちろん和久は、それを公園の木の上に登って見ている。
「おい!和久!お前も戦えよ!」
圭介が戦いながら、悠々と見ている和久に文句を飛ばす。
「やだなー、こんな僕みたいに大人しそうなか弱い生徒に戦えっていうの、圭介くん」
「お前、全然か弱くねーだろ!逆に危険だわ!色々と!」
昨日の夕飯前のことを言っているのだろうか。
「そんなことないって。僕は人畜無害なごく普通の男子高校生だよー」
「嘘つけ!!!」
戦いながら、圭介が和久に向かって叫んだが、和久は安定の無視。
そろそろある程度の人数の生徒が公園に集まってきた。周辺で様子を伺って隠れている生徒も多い。ではでは、そろそろ作戦を開始するとしようじゃないか。
「おーい。噴水係お願いしまーす」
和久が噴水の近くにいる生徒に呼びかける。
そしてその生徒たちは、噴水の水が噴き出す部分を破壊した。それを確認した和久は公園の隅にある噴水の水圧を管理する装置の近くへ行き、その装置の扉を開く。そして、噴水の水圧を一番上まで上げた。
次の瞬間、破壊されて水の噴き出す部分が大きくなった噴水から勢いよく水が吹き出し、20メートルほどの高さまで上がりあたりに雨のように降り注いだ。その水は公園だけでなく、公園周辺にまで降り注ぐ。いきなりの出来事に、他クラスの生徒が驚く。しばらくゲリラ豪雨のような噴水の雨は続いたが、1分後に和久が水圧を下げたためその雨は止んだ。しかしあたりは水浸しで、生徒たちも当然のように水浸しだ。
そして和久は、待機していた大雅の準備ができていることを確認してクラスの人に聞こえるよう声を上げる。
「大雅くん、よろしくねー。じゃあ行くよー、3、2、1ー」
ピシッーーー
一瞬で公園やその周辺の地面が凍った。
***
模擬戦が始まる30分前
「噴水と大雅を使う?」
和久の言ったことをいまいち理解できなかったのか圭介が声を出す。他の生徒も顔を見る限りよく理解できなかったようだ。
「うん。まず今僕たちがいるこの公園は訓練施設の中心で周りからも見えやすい。だから他クラスの人は集まってきやすい。それに加えて、僕たちクラスには、大雅くんがいるから血の気の多い生徒も大雅くんと戦おうと集まってくる」
和久がこう説明すると、クラスの人が不安な様子になった。特に協力派にいる戦闘系ではない生徒にとって、狙われやすいのは不安要素でしかない。
「じゃあ、訓練開始と同時に全員散らばったほうがいいんじゃない?」
クラスの女子から声が上がった。
「うん。それも1つの案だけど、人が集まるってことは得点を稼ぐ機会が増えるってことでしょ。だったら、その人たちが動けないようにすればいいんじゃない?ついでにいえば、ここにはかなり大きい噴水があって、大雅くんの能力は水を凍らせる」
和久が説明したいことがわかったのか、あちらこちらで「あっ」などと声が上がる。
大雅は和久が説明している間黙って和久の話を聞いていたが、ここで初めて口を開く。
「局地的大雨と凍結ってことか」
「そういうこと」
和久が大雅を見てにっこりと答える。
「まず出来るだけ多くの人数の生徒を公園とその周辺に集める。そのあと噴水を少しいじって周辺とそこにいる人たちを水浸しにする。それで最後は大雅くんの能力で地面と一緒に濡れた人を凍らせて動けなくして、僕たちはそこを攻撃するって感じかな?もちろん僕たちは凍らないように、ジャンプとかしないとだけど。この方法だったら、あんまり戦闘が得意じゃない人も得点を稼げるよ。大雅くんの実力だったらこれぐらい大丈夫だと思うしね。ね、大雅くん」
「ああ、大丈夫だ」
大雅が和久に答える。実はこれほどの規模を凍らせるのは普通の学生の能力レベルではないのだが、幸いなことに大雅はこれまでの行動から見て平均的な学生の基準がよくわかっていないらしい。クラスの人も大雅なら出来るだろうと思っているため、特に疑うことはしない。
「って感じの作戦なんだけど、どうかなぁ?時間が経つにつれてどうしても個人戦になっちゃうけど、それでも相手には大きな痛手になるし、得点がないよりはいいと思うんだけど」
和久がみんなに問いかけると、最初は戸惑っていた様子だったが大雅の「いいんじゃないか」という一声で意見があっという間にまとまり、和久の作戦でいくことにやったのだった。
***
「うひゃあー、やっぱすごい能力だなー。あっという間に凍っちゃった」
和久は凍らないように登った木の上から、様子を伺う。一応大雅は少し手を抜いたらしく、全身凍らせずにせいぜい膝上ほどまでといったところだろうか。だがそれでも他クラスの生徒の動きは止められたため、和久たちクラスの生徒たちは次々に攻撃をしていく。
だが凍らせたのも一時的な足止めであるため、自身の能力などを使い身動きができるようになった生徒が出てきた。見た感じだと大分和久たちクラスの生徒は得点を稼いだみたいだから、大丈夫だと思うが。
自身の点数が0になり脱落する者もちらほら見られる。
(これからどーしようかなぁ)
周りが戦っている中、和久は呑気に木の枝の上に立ちながらこれからどうするかを考える。おそらく、数分後にはもっと戦闘が本格的になるだろう。
(わざわざ戦いに行くのもなー。めんどくさいなぁ)
いっそずっと木の枝の上から見てるのがいいかもなどと、周りが聞いたら怒鳴られそうなことを考えていると、後方から気配がする。
「うわっと」
すると先程まで和久の頭があったところが、小さく爆破し枝や葉が飛ばされた。
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