協力派?個人派?それとも…
宿泊訓練2日目。
朝ごはんを食べ終えた学生たちはクラスごと訓練施設内に集められていた。
和久たちのクラスがいる場所は、訓練施設内の公園。公園内には、大きな噴水があり子供が遊ぶような遊具はないが、花壇や木など整備されていて、周りからも見えやすい。
今から約1時間後に模擬戦が始まる。
先程、担任からされた説明によるとこれから約1時間模擬戦を行う。クラス対抗で全クラス一斉にそれぞれ異なる場所から模擬戦が始まる。そして合計得点をクラスごとで競いあう。
得点の計測には、先程担任から配われ、全生徒の右手についているデジタル時計のような機械が使われる。
生徒それぞれには持ち点1000点があり、攻撃をされた分だけ持ち点が相手に移る。
そのデジタル時計のような機械は、学校専用模擬戦用戦闘服と連動しており、受けた攻撃の強さや回数によって相手に移る得点が決まり、点数の移動などを管理する。
怪我は上等。というのも、和久のような治癒の能力の先生がいるため怪我をしたら直してもらえる。また訓練施設内にはあらゆる場所に監視カメラが装備されているため、危険と思われた場合は、すぐさま先生や施設職員が駆けつけるようになっている。
戦闘不能になった場合は、相手に全得点移動する。
またこの腕についている機械は得点管理以外にも機能が多くあり、自分の位置情報や施設全体の地図などがわかる。
説明を終えた担任の田ヶ原は、とっとと管理棟へ行ってしまった。
「俺は管理棟でゆっくりお前らの様子を見てるからな〜。まあ存分にやれよー」
と言うセリフを残して。
そんなかんやで、森に残された和久達はまず作戦を考えようということになった。
クラスで協力をしたほうがいいという意見や、とにかく個人で他のクラスの奴らを倒すなど色々と意見が出ている。
そんな時、こういう場をまとめるのはカリスマ性のある人間である。そんな言葉ピッタリの人物がこのクラスにはいるではないか。
「時間はあと30分程しかない。だから早めに決めたほうがいいと思う」
そうイケメン大雅くんだ。
大雅が言ったことにクラス全員納得したらしく、ざわざわしていたのが静かになった。
「まず、クラスで協力するか個人で戦うか、それぞれまとまって分かれたらどうだ?そうすれば意見もわかりやすい」
「いいな、それ」
「私もいいと思う!」
「私も」
「じゃあ分かれようぜ」
「そっちが協力で、こっちが個人でいい?」
「いいよー」
大雅の言葉を最初に、あっという間に生徒が2つに分かれる。だいたい半分半分といったところだろうか。ちなみに圭介くんは、個人派なようだ。
そういう和久はと言うと…
「…和久。そこはどっち派なんだ…?」
大雅が和久を見て戸惑った声を上げる。
和久が立っている場所は、協力派でも個人派でもない。その両方のちょうど真ん中の所にいつものようにニコニコと笑いながら立っている。
「うーん。僕はどっちも賛成かなぁ」
和久がそう答えると、圭介が反応する。
「おいおい、和久。男ならやっぱ個人でだろ!」
和久は、そう話す圭介をちらっと見て口を開く。
「まあ、うるさいどっかの誰かさんは置いといて、」
なんだとー!という声が聞こえるが無視無視。
「個人派にいる人って、体術ができたり能力が戦闘系の人でしょ。それに対して協力派は、僕の治癒みたいに戦闘系の能力じゃない人とか戦闘が得意じゃない人。もし個人でやるとなったら、そういう人はやっぱり狙われるし、そうなるとクラス全体の得点は伸びない。だけど協力ってなると、まだみんなそれぞれお互いの能力の把握ができてないから難しい。だからどっちもどっちって感じなんだよね。大雅くんもそう思うでしょ」
和久が大雅に尋ねると、大雅も同じ意見だったらしく頷く。クラスの人も和久の意見を理解したらしく、どうしようなどと近くの生徒と話し合っている。
「まあ、だけど、」
和久が再び口を開き、クラス全体の視線が和久に集まる。
「幸いなことに、僕たちの場所は見晴らしもよくて、こんな立派な噴水の近く。加えて、さっき先生には他のクラスの位置を教えてもらって、他のクラスの人も僕たちや他のクラスの位置を知っている。そして何よりクラスのメンバーには、身体能力測定オール5で何かと注目されている大雅くん。これらを使わない理由がないでしょ」
にっこりと先程よりもいい笑顔で和久が笑った。
***
『今から1分後に模擬戦を開始します』
アナウンスが訓練施設内に響く。
「みんな、作戦は覚えてるな」
大雅がクラスの人に問いかけると、「覚えてるぞ」「大丈夫だよー」「よし、やるぞー」「緊張する」などと返事が返ってくる。
和久は大雅の隣に行き、大雅に話しかける。
「大雅くん、頑張ろうね。作戦の通り、思う存分やってくれていいからね」
「……和久。よくこんな作戦思いついたよな…」
「ふふ、大雅くんがいるから思いついたんだよ。あ、そろそろ始まるから僕準備するね。じゃあお互い頑張ろう」
そう言い和久は大雅から離れる。
『10秒前』
和久は体をほぐしながら、開始を待つ。
『3、2、1、模擬戦始め!』
高校に入学してから初めてとなる本格的な戦闘訓練が始まった。