ハーレム結成の始まり、始まり
「…わ…。和久」
隣からの声にハッとして現実に戻る。すると隣では大雅が少し心配そうな顔をして和久を見ていた。
「和久、大丈夫か?ぼーっとしてたけど」
君だってさっきまで寝てたでしょ、と和久は内心苦笑してしまう。
「大丈夫。ちょっと眠かっただけ」
「あんまり無理するなよ。それともうそろそろ講義終わるらしいから、昼一緒に食べないか」
「いいよ。圭介くんも誘おう」
その後は3人で食堂に行きご飯を食べた。流石に400人一斉には無理なので、各クラスごと時間をずらしていたが。ご飯は和食で美味しかった。
午後は、体術と能力の使い方について学んだ。しかし残念なことに、和久は大雅や圭介と別れてしまった。身体能力測定の結果や能力の系統でグループ分けされているらしい。そのため現在何故大雅に美少女がくっついているのか、和久は知らないのである。全ての午後の講義が終わり、和久が2人に合流しようとしたら、何故か騒がしく、その元凶の近くへ行ったら大雅がいてその大雅に何故だかサラサラロングヘアの美少女がくっついているではないか。
「やあ、大雅くんさっきぶりだね。それより一体どうしたの、その女の子は」
和久が騒ぎの中心に近づき大雅に話しかける。和久の顔を見た大雅は少し安心したような顔をして答えた。
「ああ、よかった和久か。いやこの子は…そのな…」
「…大雅は…私の…もの…」
どうやら大雅に惚れているらしい。
「いや、言っていることがよく分からないんだが…」
大雅が混乱している。
「まあ、まずどういう経緯で今の状況になったのか教えてよ」
そう和久がいうと、大雅がこれまでの経緯を話し始めた。要約するとこうだ。
この美少女は8組の四ノ宮 鈴音さんというらしい。四ノ宮さんと大雅は午後の講義で同じグループだったそうだ。四ノ宮さんは家の関係で体術や能力の使い方を高校に入学する前に学んでいたらしく、身体能力測定でも体術や能力測定は5でそれ以外も5か4だったらしい。自分に自信があった四ノ宮さんは、今回の午後の体術の講義でたまたま大雅とペアになった。大雅のことは噂に聞いていたが、四ノ宮さんは大雅に勝つつもりでいた。しかし、実際には戦ったところ大雅に圧倒的な差を見せられ、そして大雅に興味を持ったということだ。やはり、イケメンは違うと思う。(最近よくこの言葉を使うなぁ)
大雅は全然気づいていないが、四ノ宮 鈴音もほかの女子同様大雅の虜になってしまったみたいだ。
(こんな調子だと、どんどん大雅くんのまわりには女子が増えていくのかなぁ)
和久はそんなことを考えていたが、四ノ宮 鈴音のことを聞いたのに自分のことを言わないのは癪だと思い、四ノ宮 鈴音に自己紹介をする。
「四ノ宮さん。大雅くんと同じクラスの観月 和久だよ。よろしくね」
「…四ノ宮 鈴音。よろしく…」
そう言って四ノ宮 鈴音は大雅にくっついたまま握手の手を出してきたので、和久はその手を握り返した。
「うわっ」
和久が四ノ宮 鈴音の手を握り返した次の瞬間四ノ宮 鈴音は和久の手を弾いた。急な出来事に周りも驚く。
「お、おい。鈴音。どうしたんだ…?」
大雅が戸惑いながら四ノ宮 鈴音に声をかける。
「…あなた、何者…?」
「……(うーん、多分、相手の感情がわかるとかだよねぇ。これはしくじっちゃったな。いつも感情出ないからなぁ)」
「どういうことだ?」
大雅が四ノ宮 鈴音の呟きに問いかける。
「…私の能力、触れた人の1番強い感情がわかる。だけど、この人に触れても何にも感じない。どう考えても、普通、じゃない…」
大雅や周りの視線が和久に集中するが、和久は特に気にしたような様子はなくいつものようにニコニコしている。
しかしそのニコニコ顔も今はどこか不気味さを感じてしまう。
「やっだなぁー、四ノ宮さん。いきなり不審者扱いなんて流石に影薄い僕でも悲しいよ。ほらもう一回!」
和久は自ら四ノ宮 鈴音の手を握る。四ノ宮 鈴音は和久の行動にビクッと怯えたが、すぐに神妙な顔になる。
「え…、感情を感じる…。これは楽しいって感情…?」
「でしょー。もしかしたら四ノ宮さん午後の講義で疲れていたんじゃないかな?だから上手く能力が発動しなかったんだよ」
和久は手を離しながら言う。実際、能力者の体調が優れていなかったり、能力の使いすぎだったりして上手く能力が発動しないことがある。和久の言ったことに周りの生徒と大雅は納得したようで、緊迫した空気が元に戻っていく。四ノ宮は納得していないような顔だが。
「まあ、そんなことは置いといて。そろそろ僕たちのクラスの夕飯の時間になるから大雅くん一緒に行こうよ。圭介くんも探さないといけな」
「おーい!和久ー、大雅ー、飯食べに行こうぜー!」
「……」
和久の話を圭介の無駄にでかい声が遮る。
「って、あっ!!!大雅に美少女がくっついてる!どういうことだ!おい!和久、説明しろ!」
近づいて大雅を見た圭介は和久の肩を掴み、前後に揺らす。和久はいつものニコニコ笑顔から真顔になっているが、圭介は気づかず和久を揺らし続ける。和久の変化に気づいた大雅が圭介に声をかける。
「お、おい。圭介、やめとけって…」
「うるせー!このイケメン野郎が!くそッ!一体イケメンがなんだっていうんだ。あんな美少女にくっつかれて…!なあ、和久!お前なら俺の気持ちわかってくれ」
スパーン!
圭介の頬に和久のビンタがとび、圭介が尻餅をつく。
「…?……???」
「…え?…何?」
圭介も周りも和久の行動に驚く。
俯いて表情がわからない和久が尻餅をついている圭介に近づき、そして圭介の顔をガッと掴む。
「わ、わ、和久さん…?」
圭介が怯えた声を出す。
「あのさぁさっきから耳元で大きな声出さないでくれるかなぁ聞こえてるから君のモテない都合とか知らないんだよっていうかそういう行動するからモテないんじゃないの五月蝿いし鬱陶しいんだよねそれとも何かな次は平手打ちじゃなくてグーパンの方がいいの?」
圭介の顔を掴んだまま、無表情の和久が早口で言葉を連ねる。
「…えっ、なんでそんなに機嫌悪い…」
「ん?」
お手本のような笑顔の和久が答える。
「ひっ…!ご、ごめんって!もうしないから!」
「うん、わかった。圭介くんは友達だしね。
…だけど次はないよ」
最後の方は圭介だけに聞こえるぐらいの小さな声でボソリと言い、圭介は必死に頷く。そしてパンッと音が出るように手を合わせた和久は立ち上がり、いつもの笑顔で呆然としている大雅たちの方を向く。
「じゃあ、そろそろ夕飯の時間だし食べに行こうか」
「そうだな。圭介もいつまで床に座っているんだ?早く行こう」
最初は戸惑っていた大雅だがだんだんと和久の性格と圭介の扱い方が分かってきたみたいだ。
「えっ、大雅まで和久みたいになってるし…。いや、それよりも大雅の隣の美少女さん!俺は菊池 圭介って言います!ぜひお友達になりませんか!」
自身の扱いがどんどん酷くなっているが、女子がいればそんなことは気にしない、それが圭介クオリティ。
「…無理」
四ノ宮 鈴音はばっさり圭介をふる。
ガーンと擬音が聞こえるように固まった圭介をほっといて、大雅と和久は四ノ宮 鈴音に別れを言い食堂へと向かおうと2人で歩く。たわいもない会話をしていると大雅の動きが一瞬止まる。
「…?大雅くん、どうかした?」
「いや、なんでもない。それより、夕飯のメニューは何だろうな。昼、結構美味しかったしな」
「そーだねー。ここのご飯結構レベル高いから、夕飯も期待だねぇ」
2人で喋りながら歩いていると、圭介が文句を言いながら走ってきた。それを2人で軽くあしらい、食堂へ向かい夕飯を食べる。
ちなみに、夕飯は定番のカレー。やはり昼同様美味しい。
(随分でかいネズミが、施設内にいるなぁ。大雅くんも気づいてたみたいだけど。大雅くんはどう動くのかなぁ。まあ、なんか邪魔してくるんだったら、僕が気づかれないように消しちゃえばいいから大丈夫か)
そんなことを和久が考えながらカレーを食べていたとは、誰も知らない。