使えば使うほど強くなるんだって
週末になり、宿泊研修当日。
和久たちは朝9時に学校に集合し各クラス大型バスに乗り、宿泊研修を行う場所へ向かった。
学校からバスで1時間ほど走った所にある今回の施設は、政府が管理する施設であり宿泊施設から街を模倣した訓練施設まで完備される大規模施設である。
施設についた和久たちはそれぞれ宿泊する部屋に荷物を置き、大ホールへ集合した。ちなみに和久は大雅と同じ部屋だ。
和久が大ホールへ着く頃には、他クラスの生徒たちも集まっており用意されていた椅子に座っている。クラスごとでまとまって座るらしく、相変わらず和久の隣の席は大雅だった。
しばらくすると、アナウンスが大ホールに響く。
「えー、今から1年宿泊研修開会式を始めます。では始めに、教頭から一言教頭先生お願いします。」
教頭と言われた男性が、壇上に上がる。優しそうな近所のお爺ちゃんみたいな雰囲気だ。
「皆さん、朝からご苦労様。早速ですが今日と明日2日間の宿泊研修を有意義なものにしてほしいです。特に2日目には、クラス対抗の模擬戦があります。ここでの成績は後々の授業や行事にも影響してきます。まだ入学してから1週間という短い期間ですが、己の力を伸ばし、クラス全員で協力してこの2日間頑張ってくださいね。以上です」
そう言って教頭は壇上から降りていった。その後施設利用についての注意事項やこの後の行動について話を聞き開会式は終了した。再この後はこのままの体形で能力についての講義を昼まで行うらしい。
しばらく隣の席の大雅と喋りながらダラダラとしながら時間が過ぎるのを待っていると、1人の講師らしき男性が壇上に上がった。
「えー、皆さん静かにしてください。私は今からの講義を担当する山本です。今日は皆さんに能力の始まりから使い方まであらゆることを知ってもらいます。では最初に能力の始まりですが、能力は現在から約500年前に初めて現れたと言われています。始めは能力者は少なかったですが、だんだんと人数は多くなり今では全人口の3割を能力者が締めています。しかしーーーーー」
山本と名乗った男の声が大ホールに響く。比較的殆どの生徒が真剣に聞いているが、中には隣の席の生徒と話す者や眠そうにしている生徒がちらほらいる。横の席の大雅は後者なようで、時折頭がカクンと揺れている。
和久は特に話を聞く必要はないのでぼーっとしていた。すると何故だか注意して聞いていたわけでもないのに山本という男のある話が耳に入ってきた。
「ーーーーー能力には生まれつき強さの違いはありますが、それはその後の生活で変えることができます。能力は身体能力と同じように使えば使うほど強くなるのです」
(なんだっけ、これ。いつだか誰かにこんなこと言われたような…)
『…能力ってさ、使えば使うほど強くなるんだって。ほんと嫌になっちゃうよな』
ああ、そうだ。もう殆ど忘れてしまっていたような記憶だ。いや忘れようとして忘れていた記憶といったほうが正しいだろうか。幼い少年の声が脳裏に響く。
『皮肉なもんだよな。能力なんてなくなればいいのに。そのうち人間は能力を支配するんじゃなくて、能力に支配されてしまうと思うよ』