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神狼と精霊姫による聖なる世界への~  作者: ヤマト撫子
第1章 光霊姫の章
3/18

1話 神域の五感 ~神狼のはじまり~ 

 今、神狼の目の前に巨大な神霊樹が佇んでいた。

 しかし、その神霊樹には本来、魔物から種族を守護する加護をもっていたのだが、彼の目の前にある神霊樹にその輝きはなく、ただの巨大な樹(・・・・)としてあるのみであった。



 神狼が最初に訪れたのは、人族が治める「アルカディア王国」。

 代々、心やさしく平和を愛する王族が統治していた国であるが、最近になり突如、王族が交代となった事件が起きたようである。

 それから、幾ばくもせぬ内に神霊樹の加護が消えてしまい、魔物までもがこの国に攻め入るようになっていた。

 幸いアルカディア王国は高く頑丈な城壁に囲まれており、優秀な精霊使いも多くいるため、現在においては国に大きな被害が出ている場所は見られないが、それも時間の問題であろう。



 神狼は神霊樹を通して掴んでいたおおよその事情を確認しながら、神霊樹の太い枝の上からアルカディア王国を見下ろしていた(・・・・・・・)

 地上100mを超えるその場所では風が荒々しく吹いており、彼の白銀の長髪は、神聖な様子を醸し出しながら美しくなびいている。

 神狼の顔は険しいものとなっており、神域の五感(・・・・・)で感じ取れるものに神経を研ぎ澄ませていた。



(これは・・・。想像以上にひどい・・・。)



 彼の五感は、この世に生きるすべての生物より優れており、常軌を逸している。

 その耳は、遥か彼方の物音や気配を感じ取る。

 その眼は、生物の有する精霊力の才を色や輝きの大きさとして感じ取る。

 その鼻は、嗅覚に優れているのはもちろんのこと、極めつけは生物の善悪を感じ取ことができる。



(昔は、もっと良いにおいのする種族(・・・・・・・・・・)だった。それに、皆もっと笑っていたよね・・・。)



 この(・・)アルカディア王国において、身分の差は当たり前のものであり、貧民街や奴隷商館が城下町に見られていた。一方で、王族や貴族が住んでいるであろう城とその周辺はきらびやかな様子が見て取れた。

 そんな国を見て、神狼たる彼が遠く離れた神霊樹からでさえも、悪臭(・・)を感じ取るのは当然のことであろう。


 しかし、間もなく彼の顔には悦びの笑みが浮かびあがった。

 その全てを魅了する笑顔に興奮するように、彼のまわりを鮮やかな光の奔流たちが騒いでいた。


「こら、おまえたち。くすぐったいよ。

 そうだね、この国の中にいないかもしれないと少し心配してたんだけど、よかった。

 ほら、あの城の中だよ。」



 光たちは落ち着きを取り戻し、神狼は国の中心にある城に目を向けた。



「他のものとは比べ物にならない精霊力の輝きを感じる。

 それに微かにだけど、とても良いにおい(・・・・・)がするよ。

 うん、あれはきっと優しい主だと思うよ。」



 彼は慈しみの込めた笑顔を浮かべ、美しい長髪の下に隠れていたフードで頭を覆い隠した。

 そして、枝の上を樹の中心部へ向け歩いてゆき、逞しく太い神霊樹の幹にそっと優しく触れた。



(もう少しの辛抱だ・・・。待っててね・・・。)



 主ともいえる神狼の言葉に反応するように、神霊樹の葉や枝が揺れる程の強い風が吹いた。

 その葉が舞い上がった一瞬の後には、枝の上に彼の姿はなくなっていた・・・。


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