15話 精霊とは ~神狼から精霊使いたちへ~
王城の中には、魔物と戦うために研究や訓練を行う設備がいくつも備えられている。
今、レイとマリナがいる城外の広場もその一つである。
彼らの目の前には、今朝方にアルフレッドより通知された、神狼様から精霊使いたちへ訓練を行ってもらえるとの内容を受け、警備などの持ち場を離れることができない者以外の王城に使える精霊使いたちが集まっていた。
元々はおよそ200名の精霊使いが王城にいたが、先の騒乱の原因でもある前国王に加担し、レイにことごとく倒されて投獄された精霊使いたちがいないため、この場には100名ほどが集結したのみとなっていた。
その場の精霊使いたちの全容を見渡したマリナが、哀しくも毅然とした姿勢を見せるよう振る舞っていた。
そんな中、精霊使いたちの先頭にいた、老齢でありながらも身体も鍛え上げられあご髭を蓄えた男が一歩前に出ると、レイとマリナへ口上を述べた。
「神狼様におかれましては、お初にお目にかかります。
わたくし、王城所属精霊使団の団長を務めております、ケインズと申します。
この度は、我々精霊使団へのご指導ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願いいたします。」
ケインズがレイへと感謝の意を示し、深くお辞儀をすると、彼の後ろに並ぶ精霊使いたちも綺麗にレイへと頭を下げた。
さすがに王宮に使えているだけあって、人族の精鋭が揃っており、彼らの意識の高さを伺わせていた。
「みなさん、頭を上げてください。
こちらこそ、よろしくね。」
レイの言葉を受け、全員が揃って頭を上げた。
次に、ケインズは体をレイの横にいるマリナの方へと向けた。
「そして、マリナ姫様。
恐縮ではございますがこの場をお借りして、お祝いとお礼を申し上げさせていただきたい。
神狼様と出会われ、精霊と契約することができたと。そしてまた、先日の大量の魔物襲来の際には、そのお力で国を救っていただいたと聞いております。
あらためて一同より、最大の感謝とお祝いを申し上げます!」
再度のケインズの言葉を受け、全員が一斉にマリナへとお辞儀をした。
レイと出会うまで、精霊と契約できなかったマリナは、ケインズをはじめ彼ら精霊使団との相談を何度も何度も行っていた。
マリナの苦悩と、その人柄を知っていた彼らはマリナたちの活躍の話を聞いた時、喜びをあらわにしていたのだ。
親交も深く、親身に相談に乗ることも多かったケインズなどは、普段は見せない大量の涙を浮かべ、周囲の者たちを驚かせていたほどだ。
そんな彼らの突然の言葉を聞いたマリナは、目に薄っすらと涙を浮かべながら
「みんな、ありがとう!
レイ様のおかげで、わたくしも精霊と契約を果たすことができました。
今日は、みんなと一緒にレイ様に教えをいただきますので、よろしくお願いしますね!」
マリナの言葉に、大きく顔を頷かせる一同であった。
そんな様子を見たレイからは、
「それでは、早速だけど始めましょう。
時間があまりないので、少ししかアドバイスをしてあげれないけれど、みんなと精霊の力がより発揮できればと思います。
まず初めに、誰かに精霊と精霊術の簡単な認識を説明して欲しいのですが?」
レイの言葉に、ケインズの横にいた副隊長らしき男が手を挙げ、レイの問いに答えた。
1つ、精霊の属性について。
精霊の主たる属性には七大属性とその特徴を表す色がある。
炎属性(赤)・水属性(青)・土属性(橙)・雷属性(黄)・風属性(緑)
光属性(白)・闇属性(黒)
この世に存在する精霊は必ずいずれかの属性を持つものである。
2つ、精霊のランクについて。
精霊の強さはその精霊力の強さによりランク付けされている。
その精霊力は精霊リングで測定することによりptとして表され、より強大な力を持つ精霊ほど大きな値を示す。
下級精霊・・・精霊力1,000pt以下
中級精霊・・・精霊力1,000pt~7,500pt
上級精霊・・・精霊力7,500pt~10,000pt
超級精霊・・・精霊力10,000pt~ (人族でも数名しかいない)
帝級精霊・・・精霊力100,000pt~ (各国に1体のみと云われている)
このランクについては、先日のマリナとの契約精霊であるヒカリの登場により、未知の神級精霊が加わったことになる。
3つ、精霊との契約について。
契約者する側の人族も生まれ持った精霊力を持ち、日々の鍛錬によりその量を増すことができるが、そこには個人差が大きい。
世に存在する数多の精霊の中で、従えることのできる精霊と契約をすることで契約者もその力を得ることができる。
4つ、精霊術について。
契約した精霊の持つ属性と、精霊力に応じて様々な精霊術を行使しすることで力を得て魔物などと戦うことができる。
その強さは階位で表され、上位なるほど使用できる者が少なく、より強力な精霊術となる。
第七階位・・・初級レベル
第六階位
第五階位・・・中級レベル
第四階位
第三階位・・・上級レベル
第二階位・・・超越者レベル。超級精霊以上との契約が必要。
第一階位・・・人外のレベル。帝級精霊との契約が必要。
この階位においても、先日の魔物の大群を一掃したマリナの第零階位光術【神聖光】により、その先の可能性を示されたことになる。
以上のことから、襲い掛かる強力な魔物に対抗するため、こちらも精霊力を増して強力な精霊を使役することで、我々の暮らしを守ることができるのであると。
説明を終えた副隊長は、言葉を締めくくるとケインズに目配せを行い、他の者と同様に神狼様の言葉を待った。
副隊長の話しを聞いている間、レイは表情こそ変えていなかったが、その手が少し強く握られていたことに、すぐ横にいたマリナだけが気付いていた。
「ありがとう・・・。よくわかったよ。
この国を、仲間を、そして家族を守るためにみんなが多くの努力をしてきたことも。
でも、一部の認識が大きく間違っているよ・・・。」
レイの哀しみを含んだ言葉を聞き、説明を行った副隊長は緊張で汗を流し始め、ケインズを含むすべての精霊使いたちが体を強張らせ、息をのんだ。
「すべての種族にとって、契約前の精霊はただ空中を彷徨っていて、ひどく曖昧な存在に感じられるだろう。
でも、契約をすると君たちの傍に、その姿を現して一緒に戦ってくれるよね?
精霊たちにも、君たちと同様にちゃんと意思があるんだ。」
レイの言葉に、一同が驚きをあらわにした。
しかし、マリナはレイの言葉にしっくりと思いあたる節があった。何を隠そう、彼女の足元に寄り添っていた契約精霊のヒカリである。
マリナ自身、今まではどの精霊とも契約できず、曖昧な考えでしかなかったが、常に顕現している神級精霊のヒカリを見ていると、この子はこんなにも感情豊かに自分に寄り添ってくれていることに気付く。
「精霊たちも優しい子や気の強い子、臆病な子など様々なんだ。
そして、その意思を持って自分に相応しい契約者を彼らも選ぶんだよ。
そこには精霊力の近いということもあるが、似た相性であるというのも含まれるんだ。」
神狼様の言葉を一言一句逃すまいと、全員の表情がさらに真剣なものとなる。
「自分の契約精霊と、もう一度真摯に向き合ってみて欲しい。
契約精霊がより心を開けば、より上位の階位の精霊術だって簡単に教えてくれるし、許してくれる。
マリナもあの時、神級光精霊を心の底から信じたから第零階位が使えたんだから。」
いつの間にか、みんなの全員の前で精霊使いの新たな可能性を体現していたマリナは驚きに顔を染め、あらためて足元で自分に視線を向けるヒカリに目を向けた。
その場の全員も先の奇跡のような光術を思い浮かべるとともに、マリナと神級光精霊に視線を向けていた。
「契約を結ぶだけじゃない。
心も結んで、精霊たちと大事な人のために戦うんだ。」
マリナは、足元のヒカリを大事に胸元に抱え上げながら、あの時のレイの言葉を思い出していた。
『僕とヒカリを信じて欲しい』
レイのあの言葉は、こういう意味だったのかと思いを馳せるマリナ。
そして、そんなマリナと彼女の胸元で無邪気にマリナへ体を擦りつけている神級光精霊に目を向け、強い気持ちを抱いた表情を見せる一同。
神狼からの言葉は、マリナを含め、その場にいる精霊使いたちの心に響き渡ったのであった。
いかがでしたでしょうか?
全国的に悪天候で大変な思いをされている方もいらっしゃると思いますが、この作品を楽しみに頑張る気持ちが少しでも湧いてくれたら嬉しいです!
次回は、精霊術よりも武に力を入れる騎士たちとの絡みです。
また、この作品を気に入っていただけましたら、今後の活動のやる気にも繋がりますので、
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次回は、1月16日配信予定です。
どうぞお楽しみにしてもらえたら嬉しいです!