9話 光霊姫 ~神狼の認めた者~
現在、マリナ達を囲むように騎士や使用人などが集まり、マリナと神級精霊との契約に対する祝福で謁見の間は異様な盛り上がりをみせていた。
そんな渦中のマリナはというと、神級精霊のヒカリを宝物を抱くように腕の中で優しく包み込み、レイや両親に万弁の笑みを向け続けていた。
「今までに見たことのない驚愕の光景であった・・・。
しかし、未だにわからないな・・・。
なぜ、神級精霊様との契約が可能であったマリナが、これまでどの精霊とも契約することができず、精霊リングも何の反応も示さなかったのであろうか?」
アルフレッドの発した疑問は、まわりに居た者たちもずっと不思議に思っていたことであったため、自然とその答えを持つであろう銀髪の美少年に視線を集めていた。
「そうだね・・・。手短に話そうか。
まず、マリナが本来もっている精霊力は、人族を含め通常の生命がもつそれを遥かに超えているんだよ。
神級に満たない精霊がそんなマリナと契約するなんて、そもそも僕が守護するこの世界の理が許さないよ・・・。」
彼の言葉に皆固唾を飲んで聞き入っていた。
「それにエレメンタルリング?、といったかな。
僕が見聞きした全てのことから考えて話しをさせてもらうけど、多分そんなものでマリナの精霊力を測りきることはできないだろうね。
でも、今のマリナが試しに指輪に精霊力を流したら面白いことになるかもね。」
レイの言葉を聞いたマリナは、身分を示す目的としてしか使用していなかった自分の右手の薬指の精霊リングに僅かに精霊力を流してみた。
神級精霊と契約し、本来の力を除々に発揮できるようになっている彼女にとっての僅かは帝級精霊の契約者を凌駕していることを知っているのは、現在神狼たるレイのみである。
故に、マリナの精霊リングが激しく発光したのち、その宝石が粉々に砕けるという結果を予想できた者は誰ひとりいなかった。
「きゃっ!」っと可愛らしい悲鳴を上げたマリナ。
周囲の者たちも精霊リングが砕けるという異常な現象を目の当たりにして、驚きを隠せないでいた。
そんな中でマリナの右手を優しく持ち上げ、指から壊れた精霊リングを外したレイはいたずらが成功した子どものような顔でマリナ達に向け、話し始めた。
「ごめんね、マリナ。
今の君の精霊力に耐えることのできるものなんて、そうそう無いよ。
それこそ僕がつくってあげる物くらいだね。
あとは、数瞬しかなかったけど光の筋が無かったのに気付いた人はいた?
下級精霊が5本で、そこから第一位の帝級精霊で1本になるんだよね・・・。
じゃあ、第零位 神級精霊は0本で正解だろ?」
マリナを含め彼の話をまじまじ聞いている者たちは、さらに驚愕の表情を浮かべていた。
レイの話す内容は常識から考えれば到底信じらないことばかりであったが、それでも納得してしまうとほどの力が神狼の放つ言葉一つ一つに込められていた。
そして、表情を引き締めたレイはマリナと彼女の両親を視界に収めるかたちでこの説明を締めくくった。
「マリナ自身を含め、人族全員がマリナの価値を軽視し過ぎている。
僕の認めた女性の価値がそんなものであるはずがない。
マリナ・・・君は人族の誰よりも光輝くことのできる光霊姫なのだから。」
神狼から告げられた、神託ともとれる言葉を受けた人々は前国王であったアルフレッドでさえ自然とその頭を垂れるのであった。
レイの正面で立ちつくしていたマリナは、腕の中で不思議そうに顔をきょろきょろとさせていた子狐をそっと抱きしめ、レイに熱い視線を向け続けていた。
それはまるで、自分が寄り添うべき主を見つけたかのように。
「レイ様っ!!
わたくしはお父様とお母様、そしてわたくしの側で支えてくれていたみんなが愛していたこの国を守りたいのですっ!!
どうかっ・・・どうかこれからもずっと、わたくしの側で道をお示し下さいっ!!」
想いのたけを神狼に告げたマリナは、その場で膝を折り彼へ懇願の意を露わにした。
レイはそんな彼女の元へ歩みより、清らかさに満ちたローブが汚れてしまうのを気にすることなく両膝をつき、マリナと同じ目線で彼女に話しかけた。
「顔を上げて、マリナ。
精霊姫の願いを聞くのも神狼の役目だから安心して。
それに、君は僕の隣に立ってもらわないと、僕の方も困ってしまうよ・・・。」
そう言うレイの顔を見ると、犬耳をさきほども垂れさせ困り顔となった表情をしており、マリナは思わず抱きしめたくなるような衝動にかられていた。
再びマリナの手をとり、立ちあがったレイはふいに戦闘時で半分近く割れてしまった窓の方を向いてマリナにしか聞こえない声で呟いた。
「・・・そろそろかな・・・・。」
彼の呟きに顔を傾げたマリナであったが、数瞬後、外から聞こえてきた魔物の襲来を知らせる警鐘の音に皆一様に驚きを露わにしていた。
そんな中で、レイはマリナへ顔を戻し彼女の心配を払わせるため、ひどく落ち着いて優しさを込めた声で彼女へと言葉を向けた。
「さぁ、君の愛する国を守るよ。行こう、僕の光霊姫。」
レイの言葉に少しの間呆けていたマリナであったが、レイと繋いだ手に力を込め決意を表する。
「はいっ、レイ様っ!!!」
マリナとレイを暖かい眼差しで見守っていた彼女の父と母は、これまでの人生で一番輝いている娘の笑顔を見て、ただ静かに悦びに浸っているのであった。