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りはびりがてらに。
「ここはどこ……?」
少女はつぶやき、周りを見回す。
どこかの王宮のよう、と少女は思う。きらびやかな装飾、よくわからない絵画。
そして、自分を見つめる、怪しげなローブを纏った人、人、人……。
「何? ここはどこなの?」
状況が理解できず、同じことをつぶやく。
たくさんの怪しげな人々。だが、その中に唯一、少女から見てちゃんとした服を着た、『カッコいい』人がいた。少女はその人は王子にちがいない、と思った。
「ここは、どこですか……? それに、あなたはいったい……」
意を決して、話しかけてみた。黙っていても埒があかないと思ったのだろう。
「ようこそ、我がレセプティ王国へ。私の名はエリオス。エリオス・オル・レセプティ。この国の第二王子だ。そして、隣はユリア。ユリア・レセプティ。第一王女だ」
エリオスの隣には、確かに少女がいた。
ピンク色のふわふわした髪、透き通るような肌、何もかも見透かされそうな銀色の瞳。可愛らしい、お人形のよう。
「きれい……」
少女は思わずそうつぶやいていた。
「ありがとうございます」
ユリアは微笑んだ。
「ですが、聖女様の方がわたくしより、もっときれいですのよ」
「聖女……?」
聞きなれない言葉が、耳についた。
「そうです。チキュウという世界から、貴女様を召喚したのは、滅びかけのこの世界を救っていただくため。わたくしどもの身勝手な考えですが、この世界のためには仕方なかったのです。そして、あちらの世界では、貴女様も命を落としていた、あるいは、向こうの世界から逃げ出したいと思っていたはずです」
どういうことなのか、少女には全くわからない。だが、地球から逃げたい、いや、死にたい、と考えていたのは確かだ。
事故で両親を亡くし、自身も大怪我をし、足を失った。
引き取られた叔父の家では、蔑まれるような目で見られ、学校には年の離れた同級生。
居場所がなく、いっそのこと死んでしまおうかと思っていた。
「……お願いです。貴女様のお力を、お貸しくださいませ」
その言葉が合図であったかのように、その場にいた者らが一斉に跪いた。
「ま、待ってください。そのそも、滅びかけの世界って、どういうことですか?」
「申し訳ございません。ご説明させていただくのを、失念しておりました。……お兄様」
ユリアは恥ずかしげに目を伏せる。
「あぁ……。まず、この国には魔王という、魔族たちを統べる王がいた。その魔王自体は、各国が協力し、倒すことができたのだが……」
エリオスは悔しそうに、顔を歪めた。
「とどめを刺すときだった。魔王の持つ大きな瘴気が、最後の力を振り絞るように、この世界に撒き散らかされた。瘴気に触れたものは病にかかり、最後には死す……。もちろん、瘴気がある場所では生きることはできない。そして、その瘴気は広がりつつある」
「もう、生きられる場所は限られているのです。魔法師団や協会が協力して結界を張り、瘴気が入らないようにしてはいるのですが、そう長くはもちません。協会の教祖をしても、瘴気は浄化できませんでした。わたくしたちは、最後の手段として、封印されていた聖女召喚の儀を行ったのです」
少女は、一瞬だけ悩んだ。
「……わかりました。でも、もっと多くのことを教えてください。瘴気、とはなんなのか、それを私は浄化できるのか、あと、この世界のこととかも」
「もちろんですわ、聖女様」
「立って話すのもよくないだろう。部屋に案内する。……魔術師団は、手筈通りに」
三人は、落ち着いて話ができるところに移動することにした。