異世界転生でハーレム生活
父王に挨拶に行くことになって俺は異世界転生したことに気がついた。
異世界だと決めた理由は見たことのない建築様式の場所にいたからだ。
青白い壁や柱には細かい模様が彫り込まれ、とにかく天井が高い。
ズルズルした正装に足を取られることがないのは体が慣れているからだ。
俺の名前は『モリオカマナブ』いや、違う。これは前の俺の名前だ。
今の名は『ゼリア・イーシュン』王の息子の一人だ。
それとすぐ横についている爺。小さな爺さんが「こちらへこちらへ」と言いながら父親の元へと案内する。
「気落ちなさいますな。新しい場所でも若様ならやっていけますからね」
意味が、分からない。
俺は状況を理解できていないのか。
『ゼリア』の記憶はあいまいで非常にまだるっこしい。動きは体が覚えているし、言葉も普通に理解できるのが救いだろう。
前世の記憶が蘇ったがゆえに現世の記憶が追いやられたかのようにも感じられた。
ネット小説でもこういうシーンはあったかもしれない。
まさかと思うけど、転落不遇系からのスタート?
俺の知識なんてタカが知れている。
「ゼリア」
何か、自分自身にチート要素はないのかと考えていると声をかけられた。
白を基調にしたイケメンだった。
「あにうえ」
口から勝手に声が転がり落ちた。
「ほら、しゃんとしろ。父上が気になさらないとは言っても他の者も立ち会うのだからな」
兄はそう言って俺の肩を軽く叩く。
そのあとはしばらくほぼ本能の反射で過ごしたかと思う。
謁見の間は良い香りに包まれた空間。
玉座に座り、いろんなタイプの美女を侍らせている若い男。それが父であり、王だった。
「ゼリア、お前に南の地区を任せる。補佐は付けるからうまくやれ」
ありえないぐらいフランクな王だった。
親子だからって普通けじめはあるんじゃないか?
混乱するまま補佐たちに紹介される。
きた!
補佐はすべて美しく好意的な女性たちだったのだ!
俺は浮かれるまま任地への道を歩む。
ああ、本当に異世界だ。
まるで夢の中にいるよう。
心のどこかで『家』から出されたことを不安がっている。それを掻き消すかのような夢のような光景。
まさか、目が覚める夢なのか?
これはただ、『モリオカマナブ』の見ている夢?
「さぁ、若様、まいりましょう」
笑顔で手を差し伸べてくる彼女らに俺は夢の可能性を振り払った。
いや、夢であっても目覚めないのならば構わない。
目覚めても、戻ってこれるならば構わない。
誘われるままに上へと進む。
ああ、本当に夢のようだ。
女性たちは不思議そうに笑う。あくまで、優し気で受け入れられていると思える笑顔。
あがる?
眼下には白を基調にした美しい街が広がる。
眼下。
直下。
真下である。
「若様?」
硬直した俺にかけられる声。
「また、帰ってこれますわ」
「早く新しいおうちに行こうよ」
「若様のお母様の故郷ですもの。皆、待っておりますよ」
彼女らの服の裾がひらめきが鰭に代わる。
ああ、ここは本当に異世界か夢の中なんだ。
『人魚姫』達はにこにこと俺の手を引く。
南の海はきっときれいな場所な気がする。美しい海で美しい人魚姫に囲まれて過ごす日々。
夢ならば醒めないでほしい。
「ふふ。ヘンなゼリア様」
彼女の目に映る自分の姿。
俺は再び硬直した。
ふゆりと虹色のきらめきと光沢。巻き上がる泡に紛れるような色合い。
俺は、クラゲに転生したのだということに気がついた。
呆然としたままの俺は彼女らに南の地区へと引かれていく。
南の地区は地上の魔法使いが大規模実験をしたとかで荒れていた。……魔法使い滅べ。
業務は、彼女たちが行い、俺の役割は武力制圧だった。
時には話し合いで解決することもあった。
だが、地上の魔法使いは許せないという声が高く、それも仕方ないかなぁと思う。
地上の人はたまに地区を荒らしに来るしな。
普段はそれなりに再生したサンゴの庭を眺めながら統治のための雑務をおこなう彼女たちと戯れて過ごす。
けして邪険にされることはなくただただ甘やかされる。
夢は、醒めない。
南地区は荒れていて食料が不足していた。
再生は間に合う。
俺は最近考える。
『モリオカマナブ』が目覚めたから『ゼリア・イーシュン』の意識はあいまいに頼りなくなったのだと考えたのは間違いで最初からそうなのかもしれないと思う。
彼女たちは俺をゼリアを大切にする。
食料として。
「ゼリア様、大好きですわ」