コーヒーを飲むと……。
今作はコメディー作品です。けれど、ここまでジャンル設定とキーワード設定に困った小説(?)もありません。どれにすればいいんだ。
コーヒーが大好きな人がコーヒーへの愛を語っているだけですが、くすりとも笑ってもらえると嬉しいです。
皆さんは、何か「これは大好きでやめられない!」みたいなものや行動はあるだろうか。
わたしの場合、それが『コーヒーを飲む』という行動に値する。
独特のあの味はやはりやめられない。やめられないとまらないー♪だ。
しかし、それに【代償】がついているとしたら、あなたは本当にそれを大好きだと断言できるのか。
わたしは大好きだと断言できる。その理由をこれからお話しよう。
(あ、あとこの一文が書き終わればコーヒーが飲める!)
連休中であるわたしは、一日勉強に勤しんでいた。時刻は午後五時。そろそろ【良い時間】だ。
さらさらっと苦手気味な英語の宿題を終わらせ、筆圧が強い所為ですぐに痛む右手をぐーぱーぐーぱーする。
「おわった」
少しだけ椅子の上で背伸びをしてから、ゆっくりと立ち上がる。いつかの日に買ってもらった勉強椅子は結構な座り心地で、勉強中に居眠りしてしまうこともあるほど(多分、この椅子だけが原因じゃないけれど)。
「コーヒー……だ!」
自分で決めたノルマを達成して、快感と多少の疲れを体に感じながらドアノブを回した。階段を壁に手をつきながら、のろのろと下りていく。一階に辿り着くと、愛犬が寝ぼけた様子でしっぽを振りながらやってきてくれた。どうやら寝ていたようだ。
「ほんとにかまっちょだね」
必死の構ってアピールに応えてあげながら、わたしは目的地であるキッチンへと足を向ける。キッチンがごちゃごちゃすると片付けの何かが終わりだとか言うけれど(うろ覚え)、我が家の場合は
リビング=どこに何があるかわからない
洗面所=あったはずのブラシない
お父さんの部屋=まず、両手を広げると何かが落ちてくる
みたいな感じで、唯一片付いているのがわたしの部屋だったりする。まあ、本が多過ぎてすっきりはしていないけれど。
それはキッチンも例外ではない。
「コーヒーの粉どこだ?」
お母さんがコーヒーを毎日飲んでいるはずなのに、コーヒーの粉を入れたビンが見つからないとは思わなかった。
しばらくして、何故かビニール袋が重なっていたビンを見つけた。ちゃんとしようよお母さん。
(コーヒーコーヒー♪)
少し大きめのグラスを取り出し、カレーを食べるときに使うようなスプーンでコーヒーの粉を入れる。足で愛犬を撫でながら牛乳を少しだけ注いでから、ストローでぐるぐると掻き混ぜる。 砂糖も牛乳も足して、全体の味をととのえていく。
濃かった茶色の液体が牛乳を交える度に色を変えていく様子はなんとも面白い。
少し変わっているのかもしれないけれど、わたしの場合、コーヒーを
コーヒーの粉+冷たい牛乳+砂糖
で生成する。そう、お湯を使わない。もとより水を使わないのだ。
お母さんからそのコーヒーの作り方を伝授された為、最近まで全部が全部、冷たい牛乳を使うのかと思っていた。その所為か、外のコーヒーはなんだか牛乳が足りなくて飲めない。薄くて苦く感じる。
好みの味になったら、擦り寄ってくる愛犬を足で押しのけて冷蔵庫から氷を取り出した。何故か氷は五個と決めている。何故だろう。
溢れそうになった茶色い液体を少しだけ飲んでみる。氷が溶けるとまた違う。なんだかこういうときに、一人きりなのにフライングしているような感覚にならないだろうか。あれ、わたしだけかな。
散らかりまくっているリビングを横目で見ながら、コーヒーを溢さないように慎重に階段を登る。
部屋に辿り着くと、いつものひきこもりの癖で後ろ手にドアを閉める。
(ふははは、これでわたしはこの部屋に一人だああああ!)
……とりあえず、お気に入りの椅子に腰を掛けてコーヒーを飲む。さっきも飲んだはずのそれは、落ち着いて飲むとあまーい味が口の中いっぱいに広がり、香りが鼻から抜けていく。この瞬間だけで、勉強での疲れはどこかへ行ってしまうのだ。
牛乳たっぷり、砂糖たっぷりのコーヒーは前に友人が試し飲みした際に
「え、なにこれ。砂糖水が茶色いだけみたい」
などといわれてしまったけれど、わたしにとっては立派なコーヒーだ。たとえ、コーヒーの粉と牛乳の比率がおかしかったとしても、わたしがコーヒーといえばコーヒーとなるのである。どうだこの理論。
グラスを勉強机の上に置き、シャーペンを再装備! とはいえ、さっきまでとは装備が格段に違うのだよ! このコーヒーの良い香りに包まれてハイテンションなわたしは誰にもとめられないぜ!
(やっぱり、コーヒーはやめられない。たとえ、代償が必要だとしても)
《十五分経過》
ふははは。やはりきたか【代償】!
「うっ。ごほっごほっ」
吐き気がして、思わず席をしてしまう。喉からコーヒーの味がして、それをまた飲み込む。
頭が痛い。しかしながら、勉強をだらだらしていたときのような眠気はどこかへ行った。
《三十分経過》
「うっ」
追い討ちをかけるように吐き気がまた、わたしを襲う。
あ、あれ? 手が震えてきた。うおおおお! 沈まれわたしの右手!!
頭も、左手で支えなければしんどくなってきた。何かに周期的に殴られているような感覚がある。
《一時間経過》
今までの症状に加えて、お腹も痛くなってきた。くるるる、と下痢のときのようにお腹が音を上げている。
しかもなんか寒い? いや暑い? うわ、変な汗かいてきた。くっ、これが寒気ってやつか!?
ふふふ。これを耐えて入るからこそ、眠気に耐えられるのよ。ふふふふ……。
ここまできたらわかっていただけるであろうか。
そう、わたしはコーヒー好きでありながら、体はコーヒーは拒否しているという残念体質なのである。
しかしわたしはコーヒーの美味しさに感服してからというもの、月一でコーヒーを懲りずに飲んでいる。
それはきっと、猫アレルギーだけれど猫が大好きで猫カフェとか行って無理をし、目が赤くなっているけれど満足気な顔をしている人と同じ原理なのだろう。
苦しむことがわかっていても大好きだからやめられない。
だからこそ、コーヒーを口にしてから二時間経って椅子に座っているのがしんどくなるのが常なのにも関わらず、わたしはコーヒーを飲み続けるのだ――。
テンションがおかしくなるけど。
「ごはんー」
下の階からわたしを呼ぶお母さんの声がした。わたしは返事をして、ゆっくりと階段を下りていく。すると、わたしがリクエストした通りのメニューが食卓に並んでいた。
そう。
午後五時、という時間を選んだのは我が家の夕ご飯は大体七時から始まり、そこで少し吐き気を抑えられるからなのだ。なんて策士なのっ!
いつもながら、食欲は全く沸かないけれど、食べなければ吐き気は抑えられない。無理やり夕ご飯を詰め込み、また自分の部屋に引きこもる。
これが、コーヒーを飲んだ日のお決まりだ。
《翌朝》
「頭痛い……」
寝不足のときのようなだるさが体にある。これが最悪な朝ってやつかな。毎回だけれど。
未だに体調は戻らない。熱があるかのような頭痛に苦しみながらも、昨日、飲むことができたコーヒーの味を思い出す。
あの、まろやかな味と香り。やはり一生わたしは飲み続けるのだろうと思う。
たとえ、体が受け付けていなくても。コーヒーの所為で二、三日体調が悪くなることがわかっていたとしても。
気力で耐え切り、次の体調が万全の日を待ち望む。
こんな体質じゃなかったらいいのに、とは何度も思った。けれど、この【代償】があるからこそ、わたしのコーヒーへの愛はとぎれないのかもしれない。
この小説(?)は実際の作者そのものではありますが、いつもはこんなのじゃありません。
よろしければコーヒーが好きかどうか、自分の大好きなものなどなど、雑談でもなんでもいいので感想を送っていただけると、よろこんで返信いたします!