episode1 『Beginning of end』
ファルゼバルト魔法軍養成学校。
そこには一人の落ちこぼれの青年がいた。
「っつあぁぁぁ……死ぬかと思った……」
青年の名前は『ユースティース=ラインシュヴェルト』。
今日の演習も凄まじい早さでボコボコにされた挙句、トドメに電撃魔法をモロにくらって気絶。成績はオール1。本来なら退学になって当然なのだが、彼には特別な理由により退学にならず済んでいる。
その理由は彼が、『勇者の末裔』だからだ。
☆☆☆
魔王が世界を統一して早3年。
世界は魔王軍に支配され、あちらこちらで人間の死体が転がっている。
これまでも何度か魔王が世界を統一したことはあったが、ここまでひどくはなかった。
今回の魔王は人間を滅ぼす気だろう。
「……どうしたもんかな…」
いくら勇者の末裔とはいえ、一般人にボコボコにされるほど弱い。おまけに魔力は皆無。絶望的だ。
「なんで魔力が皆無なんだ…?一般人でも少しはあるっていうのに……」
いまやこの世界では魔力は必須。電気を使うにも、水道を使うにも魔力は必要だ。
「魔力さえあれば強くなれんのかな……」
ふとそんな事を呟いたとき、
「なーに暗い顔してんのよ!!」
背後からすごい勢いで叩かれた。
「い、いってぇ!なにすんだ!レイ!」
背中を叩いた少女の名前は『レイ=カスタニエ』。成績トップの才女だ。ちなみにユースを演習でボコボコにしたのも彼女である。
「幼なじみが沈んだ顔してたら叩いてあげるのが私の役目よ!」
無い胸を張るレイ。その顔は自信に満ち溢れてる。お前のせいでもあるんだぞ。
「魔力込めて殴ることねぇだろ!普通なら吹き飛んでんぞ!」
「ユースはいくら殴ってもダメージ薄いでしょ!文句言わない!」
「文句じゃねぇし!」
このやりとりも日常茶飯事。6歳位の頃から変わらない。
ふいにレイが悲しそうな顔で、
「それにユース友達いないんだから…」
なんて言う。本気で心配しているようだ。
そんな心優しい言葉にユースは、
「余計なおせっかいだボケ!帰れ!」
「家となりじゃん」
「じゃあ先いけ!」
「やだー」
傍からみたら誰もが『バカップル』と呼ぶだろう。
「にしても、レイは強いね。なんで?」
「なんでって言われても…強いから?」
「自信満々にそう答えられるレイが羨ましい」
「そうかな?」
強い人ほど謙遜するというが、ここまで来ると謙遜する必要もないのだろう。
そんなくだらないことを考えながら二人、帰り道を歩いていた。
☆☆☆
家に着くと、いつもついているはずの電気がついていない。
「あれ…?ユースの父さんいないのかな…」
「いや、この時間帯ならいる筈なんだけど…」
ドアノブに手を掛ける。
瞬間。
漂う不吉な風。
「っ!!」
急いでドアをあけ、リビングへ走り出すユース。
「ちょっとユース!?」
「レイはここで待ってて!」
中に入ると血の匂いが充満していた。
「まさか…オヤジ!!」
リビングには人影が見つからなかった。
二回へ駆け上がる。そして、
「オヤジの部屋……ここだけ血の匂いが濃い…」
嫌な予感が増していく。本能が引き止める。開けるな、開けたらお前は絶望する、開けるな、開けるな……
「くっ……オヤジ!!」
ドアを蹴破り、中に入る。そこには…
「……ッ………」
部屋が真っ赤になるほどの血、そして、
「オヤジ……」
「よお……糞ガキ……何か用か…?」
左半身が吹き飛んだまま壁に寄りかかる父親の姿だった。