episodeFinal『Every day』
「絶対にイヤ!」
魔王の申し出をきっぱり断るレイ。
「私は魔王には屈しない。絶対に!」
少し残念がるアーク。
「そうか………ユース。君は?」
「…………俺は……」
少し悩むユース。しかし、
「ごめん。俺は勇者の末裔だから。魔王には屈しないよ。」
「…………残念だよ。」
しかし、ユースの言葉には続きがあった。
「だから、俺が魔王になる。」
「なっ……」
「ユース!?何言ってるの!?」
「簡単だよ。正直実力だけで決まるこの世界は嫌いだ。それに従う人間も。でも、消えて欲しくない人もいる。その人達を守るには俺が魔王になって別の意味で世界を支配すればいい。」
今まで力を持たなかったユースは力を持たない者の気持ちがわかる。そして力を手に入れた時の周りの人間の態度の変わりようも。
「そういうわけだ。アークさん。」
「…………」
何かを考え込むアーク。そして、
「わかった。そこまで言うなら………俺も最後くらいは魔王らしく言おう。」
「魔王になりたければまず俺を倒しゴベァァァ!!!??」
アークがセリフを言い終わる前にユースがアークを殴り飛ばした。魔力を込めて。
「今のは俺が散々レイからくらっていたパンチだ。ただ魔力を込めただけのパンチ。それにすら俺は手も足も出なかったんだよ。」
そしてユースはひと呼吸おいて告げる。
「これが弱さだ。」
☆☆☆
ユースが魔王になり、世界に平和が訪れた。
なんてこともなるはずもなく。
「おい!!今日チャオイ村に食料分けてもらいに行った奴誰だ!」
「あ、私です……」
「村人泣かせんな!苦情来るんだよ!」
「わ、私は何も……村の子が勝手に泣き出して……」
この調子である。
「ったく……魔王ってのはこんなに大変なのか……」
玉座に背もたれを預けながら呟く。
「どうだ?俺の辛さわかったろ?」
隣のアークがいやらしい顔で聞いてくる。
「あぁ。だりぃわ。」
ユースがアークを殴り飛ばしたあと、意識が戻ったアークに尋問をした。けして拷問じゃない。
アークが魔王になった理由。それは、初めての彼女が王国騎士に強姦されて殺されたことを認めなかった国を滅ぼすというものだった。
それを聞いたレイは、
「な、それじゃあ……姉さんは……姉さんを殺したのは……」
「あぁ。王国騎士の奴らだ。」
「そんな……ぁ…ぁあ……ああああああああああああアアアアアアアアァァ!!??」
「れ、レイ!?おい!しっかりしろ!レイ!!」
そのまま意識が途切れ、今だ戻らない。
「ところでよぉ、ユース。お前が言ってた守りたい人間って……嬢ちゃんのことだろ?」
「なっ、ちょ、ばっ!そんなわけ!!」
「ハハハ!!照れるな!顔に出てるぞ!」
「ちっ………お前ら!コイツ殺せ!」
『イエッサー!』
「ちょ、やめ、わああァァ!?本気で殺しに来るな!とくにクライム!お前俺の手下だろ!?」
それにクライムは、
「私もやりたくないのですが、魔王様の命令ですので。」
満面の笑みで答えた。
「嘘こけ!顔が笑ってんだよ!!くっ………ふん!じゃあな!しばらく帰ってこないからな!!」
そのまま窓から飛び降り逃げ出すアーク。
「追え!絶対にアーク様を逃がすな!一週間は見つからないぞ!」
そしてクライム、その他手下達、と続き、やがて魔王城にはユース一人になる。
「あいつら………」
ユースは玉座を離れ、レイが眠っている研究室に入った。そして、
「……早く目覚めろよ。そしていつもみたいに殴ってこい。」
そう呟いた。