episode10『Invitation』
ペンダントの光が差す方へ走るユース。
「あの森を抜けたところに魔王城があるのか………」
ブラウの話によると、今ユースが腰に掛けている剣は勇者の剣……らしい。確かに見た目は派手だが、魔力の吸収、放出という能力からしてあまり勇者の剣っぽくはない。
「それにしても、この剣をくれたアークさんがまさか先代勇者だったとは…でも行方不明だったんだよな……?どういうことだ?」
三年間行方不明だった人がなぜ今更、しかもユースの前に現れたのだろうか。
「……ん?」
そんなことを考えているうちに森を抜けたようだ。そして、
「これが……魔王城……」
そこには立派……とまでは言わないが、それなりの建物があった。しかし、
「これじゃ城というより館だな……」
そう。城とは呼べない。二流貴族の館程度だろう。
「なんか……威厳ねぇなぁ」
そんな感想をこぼした矢先、
『お待ちしておりました。あなたが勇者『ユースティース=ラインシュヴェルト』様ですね?』
どこからか声が響いた。
「えっ、いや、まあ、勇者の末裔ってだけで勇者じゃないけど……っていうか誰だ!?どこにいる!?」
先に勇者であることの訂正から入るユースであった。
そして今だ正体を表さず響き続ける謎の声。
『私のことは気にしないでください。とりあえず中へどうぞ。』
まさか魔王城(館)に招待されることになるとは、考えもしなかった……
「え、えぇぇ……じゃあ、お邪魔します……」
本当にこんなところに魔王がいるのだろうか。今にも学校のクラスメイトにじゃーん!ドッキリ大成功!とか言われそうだ……なんて馬鹿なことを考え………
「まあいいか。」
そして考える事を放棄した。
☆☆☆
「なっ………」
中に入って言葉を失った。
「どう考えても外側と内側じゃ面積違いすぎるだろ………」
外から見た魔王城の恐らく10倍以上の面積がある。
「それは魔力によって空間を歪ませてるからですよ」
先ほどの謎の声が響いた。
しかし真後ろから。
慌てて振り向くユース。
そこには燕尾服を着た一人の白髪混じりの男が立っていた。
「はじめまして。魔王様の配下の1人。『クライム』と申します。」
50代後半くらいの見た目をしたその男は至って普通の人間にしか見えないが、今、『魔王様の配下』と言った。つまり、
「やっぱここ魔王城なのか……」
「ええ………おや?そちらのペンダントはどこで?」
ペンダントに見覚えでもあるのか、のぞき込むように見てくるクライム。
「あ、ああ、これはこの間人からもらって……どうやらこれからでる光、魔王城をさしてるようで……」
「そりゃそうですよ。それ魔王様の物ですし。」
「は!?」
「魔王様はよく迷子になられるのでこのペンダントに魔王城を示すよう能力を付与させました。まあ、一年でなくしたようですが。」
さらっと重要なことを喋るクライム。
「つか、魔王が迷子って……」
「ホント困りますよね……ついこの間も……あ、それはそうと、魔王様がお呼びです。ついてきてください。」
「えっ、ちょ、えぇ!?」
急に話を変えられた上に魔王がユースを呼んでるときた。
「な、なにがどうなって……」
「着きました。こちらです。どうぞ。」
歩き始めて30秒くらいで魔王がいるという部屋に到着したようだ。……近すぎないだろうか。
ユースは恐る恐る扉をあけた。そこには………
「だからぁ!!ルイスを殺したのは俺じゃないっていってんだろ!嬢ちゃん!」
「嘘を言わないで!姉さんを殺したのは魔王であるあなた以外ありえないの!!」
魔王と殴り合いをしながら口論している幼なじみがそこにいた。
「レイ!?」
「え、な、ユース!?」
「おや、先客が……」
「なんでレイがこんなところに……」
「それはこっちのセリフよ!」
「……おーい………夫婦喧嘩は家でしてくれないか…?」
『誰が夫婦だ!!』
とっさにそう答えてしまうユースとレイ。
そして始めてユースは魔王の顔を見た。
「な、あんた、アークさん!?」
「よう。ユース。」
そこにいたのはこの間人に飯をたかった男がいた。
「なんでこんなところに………」
「決まってんだろ?俺が魔王だからだ。」
「…………そんなあっさり……」
薄々感づいてはいた。三年前、魔王軍が攻めてきた時に行方不明、そして新しい魔王が世界を統一。そしてアークからもらったこのペンダント。この男には不可解な点が多過ぎた。
「今日はお前ら二人に話がある。聞いてくれ。」
魔王のその言葉に二人は口をそろえて言った。
「嫌よ!」
「わかった。」
訂正。全く揃わなかった。
「よし、じゃあ聞いてくれ。実はーーー」
「イヤって言ったでしょ!死になさい!」
レイの攻撃をいなしながらも話を続ける魔王。
「お前ら、俺たちの仲間になる気はないか?」
『……は?仲間?』
次こそふたりは口を揃えて聞き返した。
「あぁ。お前たちには一年後、世界を手に入れるときに仲間として戦って欲しい。」
魔王が勇者を仲間として勧誘することは度々あるらしいが、まさか自分が勧誘されるとは思っていなかったユースであった。