episode9『another』
「す、すげぇ……」
校長の放った光は空を抉り、地を抉り、敵を抉った。
俺の漏らしたつぶやきにブラウが答える。
「それはそうだ。初代魔力貯蔵量魔王レベルだからな。……ん?あれは……魔法軍か!?援軍を呼んでくれるとは……校長だろうか……」
「………」
「ん?どうした、レイ?」
「あ、ああいや、なんでもないの!なんでも……」
「………なぁ。レイ。お前さっきからなんかおかしくねぇか?」
「え?いや……そんなことないと思うけど…」
「……まあいいけど。」
魔法軍の数はおよそ2000。全軍隊の半分くらいだろうか。
「でもまあ、これだけいれば敵も………なっ」
不意にユースが先ほど校長が抉った大地の方をみて、口を開けたまま固まった。
「どうしたユースティース………なっ」
同じく固まるブラウ。
理由は簡単だ。
「なんだあの魔物の量は……!?」
魔物の大群が押し寄せてきたからである。
その数およそ30000以上。
「いくらなんでもあの量は……魔王軍が総攻撃仕掛けてきやがったってか……」
「……おい。ユースティース。」
「なんですか…?」
「お前を魔王城まで運ぶ。お前は魔王本体を潰して戦を止めろ。」
「は!?な、何言ってんだよ!」
ユースはついこの間まで落ちこぼれだった。なので魔力の使い方もほとんど練習してないのである。
「お前は勇者の末裔だろ!なんとかしてみせろ!」
「なんとかって………あ」
不意に過去にアークからもらった剣のことを思い出した。
「ちょ、ちょっと待っててくれ!」
「!?ど、どうした!?逃げるのか!?」
「違う!あれなら…あれがあればなんとかなるかもしれない!」
「な、なんだというんだ……」
走って家に戻るユース。その背中を見つめながら、こっそりとレイは呟いた。
「……私が……あの人を倒さなきゃ行けないのに……」
そして、
「お、おい!?レイ=カスタニエ!!何処へ行く!?そっちは敵陣ど真ん中だぞ!?」
「………」
魔力を使い、すごい速さで敵陣へ向かっていくレイ。
「いったい………どうなっているんだ……」
一人取り残されたブラウはぽつりと嘆いた。
☆☆☆
「あった!この剣なら……」
家に戻り、立てかけてあった剣を手にとった。
この剣は、握ると所有者の魔力を吸っていくらしい。今もぐんぐん吸われている。
「吸収することができるなら……放出も出来るはず!」
我ながら自分にぴったりの剣だと思うユースであった。
そして急いで戻ろうとしたユースの視界に入ってきたものは……
☆☆☆
「先生!!すみません!おそくなりました!」
急いで戻ると、ブラウは既に魔物と戦っていた。
「遅い!早くしろ!」
「はい!」
ユースは幼い頃、父の教えで剣技を習っていた。父曰く、『魔力がないなら素手で戦え』らしい。
「まぁ、全然ダメだったけど……」
しかし、少しくらいは役に立つだろう。
ユースはダメ元で剣に魔力を送ってみた。
「いくぞ……『譲渡』!!」
今更だが、魔力とは、ゼロにさえならなければ、使ってもいずれ回復するものである。しかし、回復のためにはかなりの時間、労力を必要とする。
だが、ユースの場合、魔力貯蔵量は魔王レベル。つまりほとんど尽きることはないのだ。
「っ……こんだけやれば……」
そこでブラウが恐る恐るといったように聞いてきた。
「お、おい……ユースティース…貴様、その剣をどこで……」
「え、この間人からもらっただけですけど………」
「誰からだ!!」
次は怒鳴り散らすように聞いてくる。
「え、アーク=ベルクムントって人ですけど……」
「アーク……ベルクムント……だと!?」
「え?なにか知ってるんですか?」
「知ってるも何もお前………」
一拍おいて、問いただすようにその内容を告げる。
「お前の家系、つまり『ラインシュヴェルト』と対をなすもうひとつの勇者の血筋、『ベルクムント』の先代勇者だ。三年前から行方不明になっていたはずの人物なんだ……」