対等な立場
授業中、気づいたことがある。
人見『ZZZ...』
ゆっさ、ゆっさ
麻里『人見、昼前の授業くらいは起きてようよ。午後は屋上行こう。』
席の近い人見と藤浪の距離が縮まり出した。不良だけにわかるフィーリングがあるのかな。羨ましい・・・羨ましい・・・羨ましい・・・羨ましらせ・・・羨ましらせ・・・羨ましらせ・・・。
戸田『白瀬!!』
私『は、はい!!』
戸田『俺、ナメられやすいみたいなんだ・・・・お前くらいはしっかりしてくれよ・・・。』
公子『しっかりしなきゃいけないのは先生でしょ。教科書の内容を黒板に写して、それをまたノートに写させるなんて意味あると思ってんの。』
私にとっては黒板の文字をノートに写す必要がなくなるから、ありがたいんだけど・・・公子の毒づきに戸田先生はたじたじしていた。そりゃ、人見たちにイビキもかかれるよ。
チャイムが虚しく響く。戸田先生は逃げて・・・いや、職員室へと帰っていった。
私『コロッケちょうだい。』
公子『今日はやだ。玉子焼きあげるよ、はい、お口あーん。』
ぱくっ・・・うまっ!!
私『なんかさ、藤浪さんと人見くん、最近、休み時間ずっと一緒にいるみたいだよね。』
公子『きっと、今頃屋上にいるよ。ほら、あーん。』
ぱくっ・・・これまた、うまっ!!
私『覗いてみようか。』
公子『いいね、スリルがあって面白そう!!でも、見つかったら・・・。』
公子は指をピストルを作り、こめかみに当てる真似をした。
私『そうか・・・見つかったらマズいもんね・・・にゃんにゃんしてたりして。』
公子『それはないね。藤浪さん、到達まで長そうだもん。でも、覗きたいよね。』
到達・・・?
人見『ぐわっ!!』
麻里『毎日、毎日、しつこいんだよ!!これ以上の関係になったら、私は浮気女になっちゃう!!』
室伏『でも、俺たちと気が合うことがわかったから、最近つるみだしたんだろ?』
麻里『つるみだしたからといって、すぐに出来ると思うなよ!!このスケベどもが!!』
人見『なあ、ヒロってヤツを跪かせたら、俺に乗り換えてくれるか?』
室伏『おっ、いいね。俺も参戦する。』
麻里『・・・死んじゃうよ。二人とも骨折してるんだから死んじゃうって。』
人見『タイマンでやり合うとは言ってないぞ。』
室伏『寝込みを襲うとかな。』
麻里『そんなシャバいやり方をしちゃったら、後日仲間を連れて、あんたらを再起不能にするよ。私も見捨てるから。』
人見『あ、どこに行くんだよ。』
麻里『もう、家に帰る。バイバイ。』
麻里は屋上から出ていった。運悪く、お弁当を食べ終わった私たちは屋上へと続く階段を上っている途中だった。目的は盗み聞き。
麻里『・・・今、屋上には行かない方がいいよ。馬鹿二人が昼寝するみたいだから。』
・・・・・・
公子『馬鹿二人って、あの二人かな。』
私『だろうね。』
馬鹿二人も下りてきた。
室伏『ん?お前ら、何してんだよ。』
私『食後の休息・・・かな。』
人見『もしかして、昼寝すんの?』
公子『女の子は屋上で昼寝なんかしないよ。太陽をより近くで浴びたいだけ。それより、藤浪さんを追いかけなくていいの?』
人見『そういえば、そうだった!!』
室伏『俺たち、午後はいないから飯塚によろしく。じゃ。』
公子『はいは〜い(笑)』
タタタッ
私『・・・ねえ、公子。』
公子『なに。』
私『室伏くんの『じゃ』って言ったときのポーズと声と顔に微笑みがこぼれちゃった?』
公子『違うよ。あの二人がいないだけでも授業が円滑に進むと思うと(笑)』
変態だ・・・公子は変態だ・・・。
せっかくだから屋上に出てみた。風が気持ちいい。
公子『おばさんの再婚話は進展してる?』
私『知らない。なるべく触れないようにしてるから。』
公子『もし本当に再婚しちゃったら、新しいお父さんと仲良く出来るかな。』
私『仲良くねえ・・・どうだろう・・・母さんの見ていない所で、虐められたらどうしよう・・・とか、思っちゃうから、考えたくないんだよ!!』
公子『ははは(笑)』
私『笑い事じゃないっ!!』
公子『もし何かあって、助けを求めるのなら私の家だからね。その前におばさんが再婚するかどうかわからないけど。』
私『・・・今日、母さんに聞いてみる。』
学校が終わって帰宅しても、母さんはいない。寂しいという感情は今さらない。私は母さんの帰りを待った。
ガチャ・・・
母『ただいま。女の子だけなんだから鍵は掛けといてって、いつも言ってるじゃない。』
私『炊事や洗濯を押し付けられてるから鍵のことなんて忘れちゃうの。ところで再婚の話は・・・?』
母『・・・。』
私『わかった。触れない。』
自分の部屋に戻ろうとしたとき母に呼び止められた。
母『私みたいに失敗しないように生きてね。』
私『生きてねって・・・大袈裟なこと言わないでよ。あ、そうそう、今度の授業参観は休み取らなくていいよ。』
バンッ
授業参観に来て欲しくないのは、意地悪なんかじゃなくて、私の本意。勉強が得意でない私にとっては申し訳ない気持ちで頭がこんがらがってしまうのだ。
私『失敗しないように・・・なんだ、まるで自分は何も悪くないような言い方。あんな母親になんかなるもんか。』
あんな母親になんかなるもんか!!
麻里『連れてきたよ。』
坂上『・・・。』
バチバチ・・・バチバチ・・・
人見『・・・。』
麻里『ねえ、ヒロも人見もわかってるよね?絶対に殺し合いはやめてよ。私がやめてって言ったら・・・。』
坂上『タイマン張りたいのは二人じゃなかったのか。』
人見『あいつ、びびっちまってよ。今、この場で麻里を奪い取れるのは俺一人だ。』
坂上『なあ、麻里。やっぱり殺し合いになりそうだ。』
坂上は人見の髪を掴んで自分の顔を近づけた。人見はその顔に唾を吐いた。
麻里『あ・・・ま、まだゴングは・・・。』
坂上『テメェ!!』
人見『ぐっ・・・。』
麻里『・・・。』
人見は坂上に殴られ続けた。まるでサンドバッグのように殴られ続けた。夜の公園に響くのは鈍い音ばかり。
ドスッ・・・ドスッ・・・
坂上『どうしたよ・・・最初の威勢の良さはどうしたんだ・・・。』
ドスッ・・・ドスッ・・・
月に照らされると、人見の顔が歪んでいくのがわかった。
麻里『人見・・・?』
坂上『おらっ!!』
人見『あっ・・・やっべ・・・い・・・ま・・・の・・・は・・・。』
麻里『・・・人見・・・人見!!』
坂上『・・・。』
ブロロロロ・・・
麻里『あ、ヒロ、待って!!』
坂上『処理しとけ。』
ブロロロロ・・・
麻里『処理しとけって・・・嘘でしょ・・・ねえ、人見!!人見ったら!!』
人見『・・・あんまり叫ぶと警察呼ばれるだろ。』
麻里『生きてるの・・・?』
人見『・・・そんな簡単に死んでたまるかよ・・・マジでマズくなったときは死んだふりして凌ごうと思ってたんだよ(笑)あー、あれにタイマンは無理だな・・・俺、シャべえ(笑)』
麻里『・・・本当・・・シャバ過ぎだよ・・・。』
人見『泣いてんの?』
麻里『泣いてない・・・泣いてなんかないよ・・・。』
人見『俺、また怪我しちまったみたいだから看病してくんない?また、腕を骨折してんだよ(笑)』
麻里『・・・。』
人見『ん?』
麻里『なんか対等な立場の関係の方が楽しいかも・・・。』
対等な立場。シーソーゲームのようにお互いの力関係が入れ替わることが容易な関係。平行に保つことは難しいから、それが対等な立場という関係なのだ。