ヒロの背中
漫画の持ち込みの罰で放課後、校庭を10周走るハメになった。とは言っても、女子は半周で1周ということで4周半で済んだ。
私『はあ、はあ、はあ。』
公子『はい、お水。』
私『10周・・・走ってたら・・・記憶が・・・飛んでたよ・・・。』
公子『運動不足なのよ(笑)一緒にテニス部に入ろうよ。』
私『テニス部に入っても運動神経が鈍いから球拾いで終わっちゃうもん。』
公子『私はテニス部を見学したいの。今日は校庭で野球やってるけれど、正直、坊主頭は・・・ね。』
公子は疲れている私の腕を取り、テニスコートへと駆けて行った。テニス部に入りたいのかな?
カキーン・・・
私『卓球じゃダメなの?』
公子『なんか地味じゃない。』
私『確かに地味だけど、室内だからテニスより気持ちが楽だよ。』
避けろーっ!!
私『えっ?』
バタッ・・・
公子『色葉!?』
新島『ごめん、うちの4番のホームランが直撃したみたいだ。』
公子『色葉!!ねぇ、色葉!!』
新島『マズいなあ、俺が保健室に運ぶよ。』
公子『お願いします。』
私は気を失った。頭に何かが直撃したんだ。おでこに感触が戻ってきた。
私『ん・・・ちょ、ちょっと、何してるんですか!?』
新島『あ、ご、ごめん。頭にボールが当たったみたいだから、おでこを冷やしてたんだ。』
私『先生は?』
新島『不在だったから、俺が手当てしてるんだよ。』
私『でも、あんな所まで球を飛ばせるなんて、すごいですね。』
新島『あれ、俺が打ったんじゃないよ。俺、3年生になっても球拾いだからな・・・。』
ガラガラガラ・・・
高見『あら、あなたたち、何してるの?』
私『私が負傷して、先輩に手当てをして貰ってたんです。』
高見『そう・・・新島くん、彼女をお家に送ってあげて。』
新島『先生、俺、まだ部活があるんだけど。』
高見『練習試合にも出してもらえないんでしょ。彼女、頭を負傷しているみたいだから、付き添ってあげて。』
頭が腫れてるだけだから、歩けるんだけどなあ・・・私は新島先輩に家まで送ってもらう事になった。付き添いとはいえ男の人と二人きりで歩くのは初めてだ。
私『私、運動神経が悪くて鈍いから避けられなかったんです。ごめんなさい。』
新島『野球部に所属してるけど、俺も運動神経悪いよ。』
私『そうは見えないけどなぁ。』
新島『君も運動出来るように見えるよ。』
私『あっ、私、白瀬って言います。ポニーテールがそう見せてるのかな。』
家の近くにきた。そういえば・・・
私『あっ、すいません、先輩。もう家が見えてきたので、ここらへんで・・・。』
新島『わかった。じゃあ、お大事に。また明日。』
あーあ、母さんがいない日だったら良かったのに。
ガチャ・・・
私『ただいまー。』
母『おかえり。早かったじゃない、部活は決まった?』
私『まだ。公子はテニス部に入るみたいだけど、運動部はお金がかかるでしょ?だから、悩んでるの。』
母『そんなこと気にしなくていいのに・・・くんくん・・・色葉、汗臭いわよ?』
私『えっ、くんくん・・・そう?』
新島先輩と歩いたから?それだけで汗臭くなる?母さんの危険予知が敏感すぎるんじゃないの?
私『気のせいだよ。汗かいてないもん・・・あ、校庭を走って汗かいたんだ。』
母『ブルマは?』
私『制服のまま走ったの。放課後に・・・あ、遊びだよ、遊び!!』
母『遊びなら良いんだけど。流行ってるからといって、煙草とかで生活指導に引っかからないでよ。』
私『う、うん。』
流行りの漫画の持ち込みで捕まっちゃったんだよ・・・。
私『ちょっと公子に電話していいかな。』
私はダイヤルを回して公子に繋いだ。
公子の母『はい、柳田です。』
私『あ、色葉です。公子は帰っていますか?』
公子の母『ああ、色葉ちゃん。ちょっと待ってね。公子ーっ、色葉ちゃんーっ。』
あれ?帰ってきてるんだ。
公子『なに?』
色葉『テニス部に入るの?』
公子『うん。すぐに決めてきちゃった。色葉はどうする気?やっぱり放送部?』
色葉『わかんない。もしかしたら帰宅部かも。』
公子『テニス部に入ればいいのに。先輩たち優しかったよ。』
私『でも、体が持たないよ・・・。』
公子『スポーツは気持ちだよ。気持ちがしっかりしていれば大丈夫。』
私『そうかもしれないけど・・・わかった、また明日話そう。バイバイ。』
公子『バイバイ。』
ガチャ
どうしようかな・・・帰宅部・・・・どうしようもない不良か臆病者の受け皿だからどうしよう・・・。
ブロロロロ・・・
坂上『また、人増えてないか?』
広利『増えてんだよ。麻里ちゃん、久しぶり。』
麻里『久しぶりー。』
佐々木『日を増すごとにいい女になってくな。広志の先見の明はすげえよ。』
麻里『私が中1のときにスカウトされたんだもん。ヒロはロリコンだよ。』
坂上『俺も中3だったろ。日曜日まで待てなかったのか。』
麻里『寂しかったんだもん。』
佐々木『おっ、来た来た。ロリコンなんて言ったから早速ポリ公が来たみたいだぞ。』
麻里『ねぇヒロ、速度を落として寄せてみてよ。』
坂上『お前は本当にスリルが好きだな。』
麻里『みんな、スリルが好きだから走ってるんでしょ。どうせなら楽しもうよ。』
広利『俺たちが卒業したら、麻里はどうするんだ?』
麻里『え、なんて言った?』
風とサイレンとエンジンの音でよく聞こえない。
蛇行運転をやめて、速やかに止まりなさい。
麻里『ベーッだ!!いっつも、おんなじセリフばっかり。』
坂上『よし、速度を上げて散ろう。』
ヒロは後続に合図を送った。すると皆散り散りになり、パトカーも散りの一つを追い視界から消えてしまった。
坂上『とりあえず、2人とは俺ん家で待ち合わせしてっから。』
麻里『広利と佐々木だね。今日は下の輩とはつるまないの?』
坂上『ああ。メンドくせえだろ?』
麻里『1歳上から麻里さんって言われるのも白々しいしね。』
近くの店で菓子や酒を買って、ヒロの家に着くと、既にバイクが二台あった。
ガチャ・・・
二階から声が聞こえる。私たちは二階の部屋のドアを開けた。
パーンッ!!パーンッ!!パーンッ!!
麻里『うわっ!?なにこれ!?』
響子『高校入学おめでとうってこと(笑)』
和泉『退学するかもしれないけど、ハッピーなことだからね。遅くなってごめん(笑)』
麻里『あ、ありがとうございます・・・。』
広利『謙遜するなよ。広志、ビールは?』
坂上『ああ、ここにある。』
佐々木『なあ、どうだ、高校は。』
麻里『全然、楽しくない。今日は抜き打ち検査で煙草の空箱を没収された。』
響子『得意のガン飛ばしはした?』
麻里『あ、そうだ。ちょっとショックだったことがあったんだけど・・・。』
佐々木『なんだよ。』
麻里『私の睨みって、男には怖くもなんともないの?』
広利『まあ、頑張ってるのが可愛いなって。麻里は顔立ちが良いから余計にな。』
坂上『何かあったのか?』
麻里『いや・・・なんか、馴れ馴れしい男二人組を睨んだら、笑われちゃって・・・。』
和泉『へえー。ヒロに締めてもらいなよ。』
麻里『でも、1年生を締めるヒロって、ダサくないかな。』
佐々木『その俺たちって、俺らみたいな感じ?』
麻里『ちょっと違うんじゃないかな・・・髪はカッコつけてたけど、シャバそうだったし。』
響子『そんな奴らに屈したらダメだよ。』
坂上『月曜に学校に乗り込もうぜ。』
麻里『三台で?』
坂上『俺のバイクにはお前が、広利のバイクには響子が、佐々木のバイクには和泉が乗ってさ。』
響子『なんか卑猥。』
麻里『とりあえず、揉め事はやめてよ。顔を見せるだけだからね。わかってる?』
坂上『わかってるよ。お前にちょっかいをかけたらどうなるか教えるだけだ。スリルが好きなんだろ?』
麻里『(本当にわかってんのかな・・・ただでさえ、好奇な目で見られてるのに・・・。)』