合格発表
1984年3月、中学3年生の私は友人の公子と一緒に受けた高校の合格発表を見に来ていた。公子は多分、私の学力に合わせて自分の学力より低い偏差値の学校を選んでくれたのだ。だって・・・。
公子『色葉のある・・・?』
自分の番号は後回しで、私の番号を探してくれたりしてるんだもん。
私『あ、あった!!』
公子『やった!!また、一緒だ!!』
私『公子は見つけたの?』
公子『ほら、あそこ!!』
よくよく考えると、難関でもない学校の高校受験で落ちるなんて聞いたことがない。勘違いして欲しくないのは、私が受験したのは底辺高校なんかではなく、偏差値レベルど真ん中の高校で、公子のような真面目だけど、お茶目な生徒もいれば、どうしようもない馬鹿で不良の生徒もいる。そして、私のように毎日をただのんびりと過ごしていたい生徒だっている。
公子『これで肩の荷が下りたね。でも、3年後にはまたやってくるんだよね、この窮屈な感じ。』
私『せっかく合格したんだから、卑屈にならないでよ。』
公子『ごめん。それじゃ、色葉の誕生日プレゼントを買いに行こうか。』
私『待ってました!!佐知子ちゃんと美樹ちゃんを落として、罰ゲームとして誕生日プレゼント品定め、支払いを勝ち取ったんだから、さぞかし、良い物をプレゼントしてくれるはずだよね。』
公子『レコード買ってあげる。』
私『レコード・・・誰の?』
公子『リ〜クエ〜スト』
私『えー。まだシングルしか出してないから、そのバンド選んだんでしょ。どうせならアルバムが欲しいなあ。』
公子『絶対にハマるって!!今年、絶対ブレイクするから損にはならないよ!!』
私『絶対、絶対って・・・私は後追いタイプだって知ってるでしょ。一発屋になったら恥ずかしいじゃない。』
公子『じゃあ、100円玉で買える温もりにしようか。』
私『なにそれ。』
公子『知らないの?じゃあ、買ってあげる。』
公子は自動販売機で缶コーヒーを買ってくれた・・・って。
私『ちょっと待った!!これはプレゼントとして認めないよ!!私が公子にプレゼントした探偵物語の小説以上のものを頼むよ。』
公子『あれは、ザ・後追いだったよね。だから、先を見通してシングルを買ってあげるって言ってるんだよ。』
まあ、買ってくれるって言ってくれてるのを必死で断り続けるのも変だよね。少ないお小遣いを私のために使ってくれるんだ。ハズレでも我慢しよう。私は公子から誕生日プレゼントを貰い、自宅へ帰った。
ガチャ・・・
美知『おかえり。』
私『・・・。』
美知『・・・おかえり。』
私『はいはい、ただいま。』
美知『それ何のレコード?』
私『関係ないでしょ。聴き耳立てないでよ。』
ふー・・・面倒くさい妹だ。私がただいまって言うまで、おかえり!!おかえり!!おかえり!!馬鹿みたい。母さんは8時くらいまで帰って来ない。父さんは多分一生帰って来ない。妹は私が帰って来る前に帰って来てるから、おかえり!!おかえり!!おかえり!!寂しいのはわかるけれど、面倒くさい。
私はレコードに針を落としてみた。
私『ふんふんふ〜んふ〜ん、ふ〜ふふんふん。』
歌って、踊れるのはテレビの影響だろうか。・・・いいじゃない。アルバムが出たら買おうかな。
私『ふんふんふ〜んふ〜ん・・・。』
美知『ふ〜ふふんふん。』
ズコーッ!!
私『き、聴き耳立てられるより、は、恥ずかしいじゃない!!ノックぐらいしてよ!!』
美知『お母さんから電話・・・。』
なんだろう。私は受話器の元へ向かった。
私『なに。』
母『ごめん。今日は帰宅が8時以降になりそうだから、美知にご飯を食べさせてあげて。』
私『やだ。』
母『お姉ちゃんなんだから、それくらいしてあげてよ。それに、きっと役に立つから。』
私『おだてても無駄だよ。聞いて驚け・・・私、高校合格したんだよ!!』
母『受験って言っても、普通の高校じゃない。あそこで落ちるなんてありえないの。』
私『冷た・・・。』
母『あのね、口答えばっかりしてたら・・・。』
私『あーもう。作ればいいんでしょ。お水を沸騰させて、だしを入れて、具材を入れて、お味噌を溶かせばいいんでしょ。』
母『なんだ、覚えてるじゃない。』
私『これくらい、直ぐに頭に入るでしょ。馬鹿じゃないんだから。』
母『馬鹿じゃないなら、いちいち口答えをしないで。』
私『はいはい、お婆ちゃん。切りますよ。』
ガチャ
母『あ・・・私がお婆ちゃんになる為には、色葉が結婚して、子供を産まないといけないのに・・・あの娘が結婚出来るように、私が色々、教えてあげないと。』