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006

 バキッ! という大きな音で私は目を覚ました。家がぐらぐらと揺れている。なに! 地震? 私は慌てて飛び起きる。でも起きたころには揺れは収まっていた。

 いったいなんなの。それにここは……。

 そうだった。私はツリーハウスにいるんだっけ。お母さんもお父さんも弟もいない、見知らぬ家。それどころか私は、摩訶不思議な世界に迷い込んでいるのだった。一晩眠ってすこし冷静になった。私、どうしてこんなところにいるんだろう。帰らなくっちゃ!

「クァー! クァー!」

 ん? 何の音? いや、これは鳴き声だ。

「クァー! クァー! クァー!」

 鳴き声だけじゃない、羽をバタつかせる音も聞こえる。

「クァー! クァ……クアアア!」

 玄関のほうからだ!

 私はフリフリのパジャマのまま玄関のドアを開けた。黒い羽があたりに飛び散っている。鳴き声の正体、それはどうやらカラスらしい。らしいっていうのはどういうことかっていうと、そのカラスは家の木の壁に突き刺さっていて首から上がまったく見えないから、カラスとは断定できないからだ。でも鳴き声といい、黒い羽といい、特徴は完全にカラスだよね。それから、このカラスは埋もれかけた首から何かを下げている。よく見るとカバンだった。カバンを下げたカラスが、壁に突き刺さってもがいている。

「クァ、クァ、クァー!」

 いけない、助けなくっちゃ!

 私はじたばたしているカラスの両足を握ると、ゆっくりと引っ張った。

「んー!」

 寝起きで力が出ない。それにカラスはどんな力で突っ込んだのか、そうとう中までめり込んでいる。木の壁がバラバラにならずにひびだけで済んでいるのが不思議なほどだ。そのひびだって、かなりの範囲に広がっているんだけどね。

「んー! ダメ、抜けない。どうしよう」

 私は引っ張るのをやめて考えた。力は出そうと思えばもっと出せる。目が覚めてくればなおさらだ。だけど、これ以上力を込めたらカラスさんの首が折れそうで怖い。こういうときはレスキュー隊にでも頼むのが一番だ。

「お嬢さん、もしかしてアリサさんクァ?」

 埋もれたカラスが突然しゃべった。

「うん。そうだけど? それよりもしゃべれたのね! 大丈夫? 痛くない?」

「大丈夫ダァ。お嬢さんにお届けものダァ。その前に、早くここクァら出してれ」

「でも、どうやって」

「さっきみたいに引っ張ってクァれればいい。そら、もう一度!」

「わ、分かった」

 私はもう一度カラスさんの足をつかむと、ゆっくりと引っ張った。でもやっぱりびくともしない。

「やっぱり無理だよ。ねえ、首痛くないの?」

 私は心配で言った。

「クァれくらいなんともねえ。そら、もっと強く引っ張ってくれ」

「でも……」

「いいクァら引っ張るんだ!」

 私はさっきよりも強く引っ張った。

「もっと強く!」

 私はさらに強く引っ張った。

「まだまだ、お前の力はそんなものクァ?」

 私はあらん限りの力で引っ張った。

「あと少しだ。ここで限界を超えてみろ!」

 そして私はいままでに出したこともない力を発揮した。

 そのときだ。

 バキッ!

 その音を聞いて私はカラスの首が折れたのかと思った。いや、もげたのかと思った。カラスの足を持ったままの私は、突然カブが抜けて倒れてしまうかのように、勢いよく後ろにバランスを崩した。でもカブ抜きと違うとこがある。カブ抜きは後ろにバランスを崩してもせいぜい畑に尻餅をつくか倒れ込むかくらいだろう。だけどここはツリーハウス。私は玄関前の足場から足を踏み外して、そのまま下へ落っこちちゃった。

「え……えええええ!」

 私はそれを理解するのにすこし時間がかかった。ほんのすこしね。さすがにこれは死ぬだろうから、よしこれから走馬灯とやらを見るとしよう、と思ったそのとのときだ。腕がグンと引っ張られて、私の落下スピードが一気に落ちた。

「クァァ。おかげさまで助クァりました。でももうちっと後先考えて引っ張ってくれよな」

 上を見上げるとカラスさんが一生懸命は羽をはばたかせていた。ワラをもすがる思いで無意識に握りしめていたカラスさんの足にぶら下がり、私はゆっくりと下降していた。

「カラスさん! はぁぁ、良かった」

 私は自分が助かったことと、カラスさんの頭がちゃんと胴体とくっついていることに安堵した。

「もうダメかと思ったよ。ほんとに」

 ゆっくりと地面に降りたあと、ツリーハウスの玄関前に戻るとカラスさんの突き刺さっていた木の壁がバキバキに折れて崩れていた。さっきのバキッていう音は木の板が折れる音だったのね。

「クァー。またやっちまった。お嬢さん、悪いけどケータイ貸してくれる? 修理を呼ぶクァらさ」

「いいけど、繋がるの?」

「大丈夫ダァ。そいじゃクァりるよ。ありがとう」

 私の手からスマホを受け取ったカラスさんは器用に画面を操作すると通話を始めた。

「もしもーし。いつもの、よろしクァ。場所はねー。214の0094。それじゃ」

 通話を終えるとカラスさんはスマホを私に返しながら言った。

「すまないね。すぐに直しに来るから。何しろ俺は超特急便だから、なかなか止まれないのよね。あ、そうだ。お嬢さん、君に手紙だよ」

 そう言ってカラスさんは首から下げたカバンから封筒を取り出した。

「手紙?」

 私は手紙を受け取ると宛先を見た。確かに綾野アリサ様へと書いてある。差出人は、紅茶の国の王女より?

「確クァにお嬢さんに届けましたよ」

 とカラスさんは言った。

「クァラス郵便をご利用の際は黒い羽が目印のクァラスポストにご投函ください。また、超特急便をご利用の場合は呼び出しの笛を! 弾丸レイヴンが一直線にあなた様の元までやって参りますよぉ。それでは!」

 そう言い終えるとクァラスさん、もとい、カラスさんは羽をはばたかせて宙に舞った。と、次の瞬間、周囲に目も開けられないほどの強風を発生させて、超スピードで一瞬にして飛び去っていった。それはさながら空を切り裂く弾丸のよう。私が目を開けたときにはもう黒い点となっていて、雲を突き抜けたところで見えなくなった。

「こわっ。もしかしてあのスピードでうちに突っ込んできたのかな……だとしたら家が揺れたのだってうなずける」

 それから私はツリーハウスに入った。せっかくだから、カラスさんが開けたもうひとつの出入口を使ってね。だって貴重な体験でしょう?

 中に入ると私は近くにあったイスに座った。そしてさきほどカラスさんにもらった封筒を開けた。

 ロウで固められた封筒を初めて開ける私はそれだけでもドキドキした。そのうえ差出人は紅茶の国の王女様。王女様がいったい私になんのようなのかしら。

 封筒の中身は、お茶会への招待状だった。

「うーん。なんだかそれっぽくなってきた」

 気がついたら私は、この世界を楽しんでいた。

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