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003

 ちょっと待ってね頭が混乱してきた。いや、口の悪いうさぎに出会ったときから、頭は充分に混乱していたんだろうけど、すくなくとも地面に足がついているという状況のいま、改めて自分がどれだけわけの分からない目にあっているのかが分かった。

 私は下校途中にうさぎに出会った。そして次の瞬間には穴に落っこちていた。その穴の中を何メートル、いや、何キロメートルも落下した後、穴を抜けた私は青空の中へと放り出された。眼下には奇妙な大陸。それから私はうさぎの後ろ足をつかみ、青空を見事に滑空し、キョトロとかいう猫みたいな謎の巨大生物のトランポリンのみたいなまんまるお腹に着陸し、いま、無事に謎の大地に降り立っているのだった。

 しゃべるうさぎに謎の巨大生物。町の地下数キロメートルにある新大陸……。この十数分の間に私は世紀の大発見をいくつしたのだろう。

 地下のはずなのに上には青空が広がっている。太陽のような星が浮かんでいて、私たちを照らしている。でも明らかにおかしい。昼間の月がみっつある。それも巨大なやつが。もしかして、ここは地球じゃないのかも……。

 二羽のうさぎは雑談を続けている。そのうちの一羽がタバコを吸い始めた。小さな前足を器用に使ってタバコを持っている様は、予想に反して似合っていた。タバコを吸っていたのは口調からして口の悪いうさぎのほうだ。

「さて、アリス。そろそろ行くぜ」

 タバコを携帯灰皿に入れてうさぎが言った。口は悪くてもそこはしっかりしているのね、と私は思った。

 それにしても、だ。

「行くってどこへ? それに」

 それに。

「なんでさっきから私のことアリスって呼ぶの? 私はアリスじゃない」

 それを聞いた二羽のうさぎは目を丸くした。いや、たぶん気のせい。元から丸い。でも驚いたのは確かなようだった。

「は? アリスじゃない? 何言ってんだお前」

「何言っているのはこっちのセリフだよ。うちに帰るところだったのにいきなりこんな事になって。意味分かんない。あなたたち、何者なの? なんでうさぎがしゃべってるのよ!」

 言っているうちにちょっと泣きたくなってきた。うちに帰りたい。部活で疲れた足をいますぐ休めたい。本当だったら今頃、ソファでのんびりくつろいでいるはずなのに。

「お、落ち着いてください」

 片方のうさぎがうろたえつつもやさしく言った。

「気分を害してしまわれては困ります。とにかく落ち着いて。ね?」

 私は大丈夫であることを示すためにゆっくりとうなずいた。

 それを見て、もう片方のうさぎが言った。

「それで、お前がアリスじゃねえってのは本当なのか?」

「本当よ。私の名前は綾野有紗。アリスじゃなくてアリサ」

 それから私はハッと思いついて背中の学生カバンから学生証を取り出した。

「ほら証明書! これで分かったでしょう?」

 うさぎは私の手から学生証をひったくるとじろじろと眺めた。それから私は思った。このうさぎ、字は読めるのかな。

「確かにアリスじゃねえ、アリサだ」

「なんですと!」

 もう一羽も学生証を見た。それから、

「ラヴィ。あなた連れて来る子を間違えたのではありませんか?」

「そんなわけあるか。ちゃんと世界の予告通りの時間と場所のアリスだ。間違いない」

「ではこれは……」

「ああ。ラパンカタル、開催だ!」

 うさぎは叫ぶとぴょんぴょんと跳ね始めた。

「ラパンカタル、開催だ!」

 隣のうさぎも、ぴょんぴょんと跳ね始めた。

「ラパンカタル、開催だ!」

 突然、茂みからもう一羽、いまいる二羽とまったく同じ姿のうさぎがぴょんぴょん跳ねながらやって来た。

「ラパンカタル、開催だ!」

 空からもう一羽、飛んできた。着地してから跳ね始めた。

「ラパンカタル、開催だ!」

 もう一羽。

「ラパンカタル、開催だ!」

 さらに一羽。

「ラパンカタル、開催だ!」

 モア。

「ラパンカタル、開催だ!」

「ラパンカタル、開催だ!」

「ラパンカタル、開催だ!」

「ラパンカタル、開催だ!」

「ラパンカタル、開催だ!」

「もう、いったい何羽いるのよ!」

 気がつけば私の周囲はもふもふ天国になっていた。ぴょんぴょんと飛び跳ねる数千羽のうさぎの「ラパンカタル、開催だ!」の大合唱。

 そのあまりのもふもふに、思わず私はくしゃみをした。


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