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奇談

僕の日常

作者: たぷ

 朝、目が覚めたとき、今日が普通ではない一日になりそうな予感を感じることが、時たまある。

 それが何か特別な能力なのか、ただの気の迷いなのかといったら、十人中九人は『気の迷い』だと言うだろう。おおかたの人間は世の中にある『特別な力』というものを信じておらず、たとえ信じていたとしても、身近にそんな人間がいるのだと考えることは、まずしない。

 だから、ひとまず否定する。『気の迷い』だとか『勘違い』だとか言って、オカシナことを言う知り合いを、普通の日常に組み込もうとする。進んで変人と付き合おうとする人は、たぶん数少ない。

 そして実際、過ごしてみれば、その一日はたいがいいつもと変わらない一日だったりする。

 未確認非行物体が家に墜落してくることもなく。家族の誰かが呪われたりすることもなく。突然、謎の女がやってきて『あなたの許婚なの』なんて、甘い声で囁いてくれることもない。

 だけど。だけど本当に、その一日は普通の日だったのか。

 例えば、空を飛んでいる未確認飛行物体を、それと知らずに眺めていたなんてことは?

 草むしりをしていた庭で、ふと足に触れたものが風や気のせいなどではなく、ツチノコだったりしたら?

 夜、髪を洗っているときに背中に視線を感じ、ふと目を上げる。でも鏡には自分しか映っていない。そしてまた目をつむるのだが、そのとき本当に、恨めしやな霊が立っていたとしたら?

 それは実は『普通じゃない』一日だったことに、なるのではないだろうか。

 つまるところ、と僕は冴えない寝起きの顔を水洗いしながら、考える。

 つまるところ、何を見てどう理解するかによって、『普通』か『普通じゃない』かの分かれ目になるんじゃないだろうか。

 しかし、その境目は実に曖昧でだらしがないのだ。一方では『普通じゃない』ことこそが『普通』になるのかもしれない。

 では、これはどう理解するべきだろう。僕の見ている鏡に映っている人間の顔は。

 僕はこんなにやつれて、ボサボサの髪をしているだろうか。僕が顔を撫で、髪をいじると、鏡の中のそいつも同じ動きをする。寝ぼけた顔で。

「あ、何だあれ?」

 僕はふと鏡の中のある一点を指差した。

 すると、そいつが指差したほうをくるりと振り向いた。それから再び僕のほうへ向くと、引っかかったことを楽しむように、にやりと笑った。

 今日も僕は『普通』の日常に過ごすはめになるようだ。


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