表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

アイスコーヒーの結末

作者: 棺

豆乳入りのアイスコーヒーを頼んだ。

冷えたグラスの中には、柔らかな茶色の液体が注がれ、大きさの違う氷が幾つも浮いていた。

愛想の良いお姉さんが、赤いストローとアイスコーヒーを乗せて、トレイを差し出す。それを受け取って、店内でも比較的隅の席へ移動する。

椅子に座り、取り敢えずストローをグラスにさす。

中の氷がガラガラと音を立てて泳ぎ、やがて静かになった。


嫌なことがあった。

それは、恐らく他人からすればどうということもない些細なことで、一般的な悩みとしてもあまり重大な部類には属さないものだった。

それでも自分にとっては重要で、ただの憂鬱として処理できる程簡単なことではなかった。

とにかく嫌だった。逃げ出してしまいたかった。

そんな自分に腹が立ち、その度に降り積もる嫌悪感と罪悪感で押し潰されそうになった。

ただ、ただ苦しかった。

死ねるなら、どんなに良かったか。


グラスの中に漂う氷は、ストローにぶつかる度に沈んでは浮かび上がり、少しずつ溶けながらも未だその数を減らすことなく、ひたすら液体を冷やし続けていた。

ストローを摘まんで垂直に突き刺す。

氷は沈み、また浮かぶ。

一口飲む毎に嵩は減り、徐々に氷山はその頭を外気に晒した。


例えば、どんなに嫌なことがあっても、それを見ないように、気づかないようにしていたら、こんなに苦しむこともないのだろうか。

なかったことに出来ていたら、何かが変わっていたのだろうか。

ぼんやりした白濁の海に沈めて、多少変色して汚れようとも、それがいつか溶けてなくなるまで隠していれば、気づかない内になかったことにはならないだろうか。


ついに液体は底を尽き、氷山はその姿を現した。


嗚呼、僕は知っている。

どんなに隠していようとも、それがそこにあることを、そしてそれがそこにあったことを、僕は知っている。

どれだけ溶かしても、どれだけ沈めても、なかったことにはならない。

現実とは、事実とはそういうものだ。


氷が音を立てて揺れる。


早く消えてしまえばいい。


そう願う程、世界は急速に冷えていく。


僕に出来るのは、たった二つだけ。


氷が溶けるのを待つか。


いっそグラスを割ってしまうか。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ