八
その後の僕の一週間の生活はなんともつまらないものだった。
朝は管理人さんとご飯を食べ、(管理人さんは色々と聞いてくるが僕はほとんど無視した)学校ヘ行き、(一人で)出席をとられた後は図書室で勉強をし、(一人で)ときどき絵を見せにくるユキを適当に褒め、(しかしユキは昼間何をしているのだろうか?)夜は龍球で一時間ほど皿洗いをし、(役立たずなので)晩ご飯を食べ、部屋に戻って勉強するという毎日を送った。
「ふぅ……そろそろ休憩……」
今日も図書室で勉強……十二時の鐘が鳴ったので僕はカバンから弁当を取り出した。
「さ・て・と……おや?」
たまたま外を見ると、グラウンドを走り、しげみに消えていく幼女……ユキが目に入った。
「こまったな」
幼女が一人しげみに消える……そんなものを見かけてしまったら大人として追いかけない訳にはいかない。
「まぁ興味本意だけどね」
僕は弁当をカバンに戻し、下駄箱へと向かった。
◇
(へぇ……)
しげみを越え、何分か歩くと、よく掃除のされた神社があった。
(なんというか……音が少ないな……清々しいというか)
鳥の声と木が揺れる音しか聴こえない……僕は神も仏も信じないがこの場所には何か神聖なものを感じた。
「だーれだ?」
「きゃあぁ!」
目隠しをされ、急に真っ暗になったので僕は思わず声をあげてしまった。
「はっはっは……本当に「きゃあ」っていうんだね」
「ね? ユキ言ったでしょ?」
「なにを……誰?」
袴を着た男(?)とユキだった。
……
……
◇
「驚かして悪かったよ」
「もういいです……」
この神社の神主。ツグミと名乗る男から……(女?) お茶を受け取った。
ツグミさんは細い目と長い黒髪の男(女?)で……正直性別は不明だ。
背は背の低い男とも背の高い女ともいえる165センチ前後、声は高くも低くもない。
性別を聞くのも失礼かと思い、僕はなんともモヤモヤした気分だった。
「そうか……君がねぇ……広井君ねぇ……海君って呼んでもいーい?」
「……どうぞ」
女の人だと信じ、名前を呼ぶことを許した。
「ユキを追いかけてきたのかい?」
「あっ、はい……心配だったので」
(本当は興味本意だけどね……)
「優しいねぇ……私惚れちゃうかも……」
「えっ!?」
一人称は『私』……これまたややこしい。
僕は顔をひきつらせるしかなかった。
「ハッハッハッ! 冗談だよぅ! そんなにビビらないでよ! 私、そんなに尻軽じゃないよ?」
「はぁ……」
「『こいつ女か男かどっちなんだよ……』」
「え……」
(心を読まれた?)
「クックックッ……みんなそう思うんだよねぇ……また驚いちゃって……かーわーいーい♪ さっきの撤回して惚れちゃおっかなぁ……」
「いやいやいや……」
「知ってる? お尻って一度経験すると病みつきになるらしいよ……」
「なんの話ですか!?
」
(また男とも女ともとれるようなセリフを!)
「ツグミ。その辺にしときなさい」
「徳さんか……はーい。つまんないの」
『タヌキ親父』という名がピッタリのずんぐりむっくりな体つきをしたちょび髭の男がツグミさんを止めてくれた。
(助かった……ん? 徳さん? どこかで聞いたこと……あぁ……初日に管理人さんが言ってた……)
「すみませんね。ツグミは若い子をからかうのが好きで……」
「徳さん! それじゃ私が年寄りみたい」
「事実いい年だろう」
「ひどい!」
(いい年なのか……付き合ってられないな……)
「あの〜〜……それでは僕は学校に帰りますんで……」
「えっ!?もう帰るの!?ツグミ寂しい!」
「こら。海君が困っているだろう」
「冗談だよ徳さん。じゃあね海君」
「さようなら」
「次会ったら私が正しいご参拝の仕方を手取り足取りワンツーパンチ……いやマンツーマンで教えてあげるね」
そのギャグは流行っているのか?
「結構です。僕は神も仏も信じませんし、参拝なんてものは心の弱い馬鹿がすることだと思ってるんで……」
「おぅ……か……神主の前でそう言うこと言うかなぁ……この『皆福神社』はね? 不思議が現れ不思議が還る場所なんだ。心を込めて祈ればきっとここではない別の世界へ想いが届く。どうだい? 一度参拝していかないかい? 君には想いを届けたい人はいないの? 亡くなった人や妖怪もここに還れば神になるんだよ」
「結構です!」
これ以上聞いてられない。
「それでは」
「あっ……海君……」
……
……
◇
「彼はまるで不思議を信じていないねぇ……」
「そのようだ」
「根が深いねぇ……」
「洗脳しがいがある……」
「お前な……」
「てへっ♪」
……
……
……
◇
(もし想いが伝わるなら……やっぱりお父さんとお母さんかなぁ……馬鹿! 僕はなにを下らないことを……)
「えーい! 落ち着け広井海! なにを心を乱されているんだ!」