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カンノコ篭目村綺譚。  作者: ヒロモト
皆福神社ご参拝日和。
3/23

(旅情もへったくれもないな)


 汽車が発車してすぐにトンネルに入り、それからずっと真っ暗である。


(汽車って案外つまらないものだな…… それに……)


僕は隣に座る管理人さんをチラリと見た。


「……なんじゃ?」


「……なんでもありません」

 僕は人付き合いは苦手な方で、初対面の人と話すのは得意じゃない。

 だがまさか1時間近くだんまりを貫かれるとは思わなかった。


(うちとけようとは思わないのか? 僕もうちとけるつもりはないけど……ずっと無言はキツイよ……ふぁ……)


電車の音、揺れ、真っ暗な景色、無言の車内……僕は疲れからかウトウトとし、ついには寝てしまった。


 初対面の人の前で寝るとは…… 僕らしくもなかった。


「……」





……久しぶりにお父さんとお母さんの夢を見た。

僕は砂浜でお母さんと一緒に砂山を作って遊んでいた。

お父さんはブルーシートの上にあぐらをかき、ニコニコと僕を見ている。

僕が手を振るとお父さんも手を振り替えしてくれた。


(海は砂のお山を作るのがとっても上手ね)


(うん! お父さーん! お山つくったぁ! みてぇ!)


(見てるぞ海! 海はスゴいなぁ! 天才だなぁ!)


 それはとてもとても幸せな記憶……。 でも。もしかしたら僕が作り出した偽りの記憶なのかもしれない。 いや、きっとそうなのだろう。

 両親を恋しく思うあまりの悲しい妄想……

 夢の中の僕はオムツを着けていた。


(おしっこしたい……オムツだし…… このまましちゃおっか?)……そう思ったところで目を覚ました。





「ついたぞ起きろ」


「はい? あぁ……僕寝てましたか?」


「寝てたな、グッスリと気持ちよく。いくぞ」


僕は運転席でヨーカン(五本目)を食べるケー太郎に軽く挨拶し、汽車から降りた。


 (うわぁ……)


 ホームからのぞく篭目村の第一印象は…… 『明るい』だった。

それも都会のような明るさではなく、どこか暖かい……。

 なんだろうか? 絵本の中の世界の様な幻想的な町並み……違う村か。

「この村では電気は貴重じゃからな」


「えっ?」


管理人さんは僕の心を読んだように……そして僕に話しかけてるとも一人言ともとれるトーンでボソボソと語った。


「量が限られとるからな、俺たちも普段はちょうちん使って…… 今日は月明りで大丈夫じゃ。

一旦通りに出て寮に向かうぞ。ついてこい」


「……」


月明かりを頼りに村を歩くのか…… どうにも原始的でなんだかゲンナリだ。


「あっ…… 海の匂いがしますね」


なんだか懐かしい匂い…… 僕は本当に海に行ったことがあるのだろうか?


「おう。この村には海があるぞ? お前海好きじゃろ?」


「えぇっと……」


名前が海だからって決めつけるなよ。 なんとも言えない。

僕の名前は「海」だから好きと言えば好きな気がするが、『海』という名前の由来は多分『海のように大きな男になれ』だろう。

そう考えると生まれながらにして越えなければ(もしくはイーブンにならなくては)いけない存在なわけで、疎ましくもある…… けど……僕にとって海は妄想の中お父さんとお母さんの唯一の楽しい思い出にたずさわる場所なわけで……ようするに……


「海は好きですね」


「そうか」


  悩んだあげくそう答えると管理人さんは少し嬉しそうに微笑んだ。

 自分の住んでいる場所を誉められたようで嬉しかったのだろう。


(あっ……)


「えと……管理人さん。ちょっとトイレ……」


「小?」


「はい」


「じゃあその辺の草かげでしちまえ」


「え?」


もちろん立ちションは軽犯罪であり、お巡りさんに見つかったら処罰の対象になり、将来偉大なる権力者になる僕はそんな汚点を残すわけにはいかなくて…… あまりに恥ずかしいのでそんなことを考えながら用を足した。

……月の光が明るかった。





「今日も飲むぞ!」


「飲んだら歌うぞ!」


「歌うなら踊れ!」


「踊れや笑え! 笑いは福幸呼び寄せる!」


(う……うるさいなぁ)


村まで下りてくるとすっかり出来上がった大人たちが宴会をしていた。


 どこからか聴こえる祭り囃子(ばやし)、縁側で三味線をひく和服の女性、密集する瓦葺き屋根の住居、住居のような店…… ところどころに置かれた行灯の光が優しかった。


(木造の建物ばかりなのに大丈夫なのかな? あっ、これは石畳ってやつかな? なんだか京都みたいだなぁ…… 僕は修学旅行欠席したけど……いちいちネガティブになるのはよそう…)


「おぅ…… コイツが新入りか?」


「そうじゃ、仲良くしてくれ」


 茶碗を手にし、顔を真っ赤にした異常に背の低い男が声をかけてきた。

茶碗の中身は恐らく酒だろう。


「ふん…… まぁいいけどさ、でしゃばるなよ? この村の奴らはお前にいい感情は持たねぇからな……」


「気を付けます」


別によかった。

それはお互い様だし、目立つつもりもない。

学校と寮を往復して、卒業したらこの村ともお別れである。


「海は……ちょっと目立つかもしれんわ。それより徳さんは?」


「徳さん? 裏で天ぷら食っとる。読んでくるか?」


「ええよ。あのタヌキジジイにも困ったもんじゃが……急ぐけぇ。ほいじゃあの」


「あぁ。じゃあな」


管理人さんは何かを含んだ言葉を残して裏路地へ入っていった。


「管理人さん待って。目立つってなんですか? 僕は目立ちたくはないんですが……」



出る杭は打たれる……それはどこの国でも同じだ。

僕は打つ側になりたいのだ。権力の力をもってでしゃばりな弱者をわからせる…… その時まで目立ってはいけないのだ。


「くそっ! 馬鹿が! 歩くのが速いよ!」


 僕は慌てて管理人さんを追い掛け、路地に入った。


……



……



……


「うわぁ……」


裏路地へ入ると、とたんに建築物のランクが下がった。

トタン小屋というか、バラック小屋というかただのほったて小屋というか…… 総じてボロい。

それに薄暗い。


 なんだか幽霊や妖怪が出そうな雰囲気だ……いや、僕はそんなものは信じてはいないのだけど。


「管理人さん……歩くのがはやい……あっ…… いや……きゃあぁぁ!」


暗闇から何かが飛び出し、僕の足にしがみついてきた。


「やかましいの。なんじゃユキじゃ。海、驚きすぎじゃ、よう見ろや」


「はいっ?」


幼女だ…… 真っ白な髪の…… 。

束ねた髪を頭頂部付近で縛っているので、それがゆらゆらと揺れて触角のようだった。

 着ているものは薄手の着物。履き物はわらじ。見ているだけで寒い。


「こ…… こらっ! 驚かしちゃダメだろう! ダメじゃないか!」


「あうっ……」


僕はユキと呼ばれた幼女の髪を掴んで引っ張った。


「こりゃ! 『ダメだろう』はお前じゃ。驚いたからって逆上するなや! 相手は子供じゃろう」

「あっ…… はいっ……」


僕は幼女の髪を離す。 ……顔が真っ赤になった。

悔しいが完全に図星だ。 僕は恥ずかしさのあまりに逆上してこんな小さな子に八つ当たりしてしまったのだ。

改めまして……ここは紳士的にいこう。


「えと…… ごめんね?なにか落としたよ? これは…… スケッチブック?おや? これは……クマさんかな? こっちはリスさん? 君は絵が上手なんだね」


「!?」


「こりゃリス……なのか?」


なぜか幼女は目を見開き、管理人さんは首をかしげた。


「こ……これも…… これもみて……」


幼女は…… くどいな。ユキは耳まで真っ赤にして、鼻息荒くスケッチブックをめくった。

どうして子供って興奮するとフーフーいうんだろうか? 暑苦しい。


「桜だね? これはひまわり。紅葉も上手に書けてるじゃないか」


「ほあーー!」


「『ほあーー』って……君」


ユキはさらに興奮して僕の手を握ってブンブン振る。


「なまえ……なまえおしえて……」


ブンブンブン……


「そんなに振らないで……痛いよ…… 名前? 僕は海だよ。広井海」


「カイかぁ…… また絵を描いたらカイにみせてあげるね」


「えっ? あっ! どこいくんだよ!?」


ユキは夜の町へ…… 村だったな。

村へ消えた。


「なんだったんだ……?」


「はぁ……あれが桜にひまわりに紅葉なぁ…… 俺には全部ぐじゃぐじゃと書きなぐったように見えるんじゃが……よくわかったな?」


「そんなことより管理人さん。いいんですか? あの子、こんな夜中に……」


「大丈夫じゃ、ユキはいつもあぁだし、寒さに強い。ユキだけにな。ユキは村のアイドルじゃ、ユキが腹へってる時にそばにいたやつがユキに飯を食わせて、ユキが眠たいときにそばにいたやつがユキを家に泊める」


(なんて大人たちだよ)


「ほいじゃいくぞ」


(なんだかな……)


 僕は股間の辺りのズボンの生地を触った。

 驚きすぎて漏らしたかもと思ったからだ。


(さっきおしっこしといてよかった……)


「それにしても海」


「はい?」


「男のくせに『きゃあ』はないじゃろ? 『きゃあ』は」


「は……ハハッ……」


 薄ら笑いを浮かべるのがやっとだった。


 わかったよ……このセットもあなたのものだ管理人さん。





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