鬼骨丸(一)
(死んじまえよ……なぁ?)
時は鬼骨丸が徳川家康を助けた数日後。
「黙っていろ」
とある山奥の廃寺で座禅を組む鬼骨丸の耳元で低級妖怪が囁く。
(感情を捨てるため……執着をなくすため座禅を組んでどれほどになる?……糞と小便にまみれて俺は何をやってんだ?)
『死ねってなぁ……その方が鬼骨丸。お前のため……』
『ピッ』という鋭い音が鳴り、妖怪は真っ二つになり消えた。
「俺もまだまだだ」
(禅なんぞ組んでもなんにもならん)
鬼骨丸は山を下りることにした。
◇
「織田、豊臣、徳川……充分だろう? こら。なにを一人で話してる?」
鬼骨丸は一人言を呟く自分を情けなく思い、顔をわずかに赤らめた。
(山籠り……寂しかったのか? 俺は?)
ますます照れる。
(感情と執着をなくすため山にこもったと云うのに情けない……おや? 尻だ)
視界に男の汚い尻が見えた。
尻は前後に激しく動く……
(侍か? 気が狂ったか?こんな場所で……あぁそうか)
納得した。
男の身体の下には女がいる。
(ははぁ。はぁはぁ……二人は繋がっとるな? うむ頑張れ。よしそこだ。あっ!下手くそ!!)
鬼骨丸は久々に人に会えたのが嬉しかったので暫く見学させて貰うことにした。
(おっ?)
鬼骨丸は普段から物音をたてず行動する。
気配も完全に消すことが出来るので気づかれるもんかと思ったが女と目があった。
目が合ってしまっては鬼骨丸といえども誤魔化しようがない。
『もう少しお待ちください』
女の口がそう動いた。
(この女……身体を売っているのか? 『もう少し待て』?俺を客だと思っているのか?失敬な)
性欲はすでに支配したものと自負する鬼骨丸は多少苛立った。
「あああ!!!!駄目だ!!駄目だ!!駄目だ!!俺は駄目だ!!」
「このままではいけませぬ。腹の上にお願い致します」
いよいよ男は果てるらしい。
汚い尻がさらに激しく前後する。
「ならぬ!! 貴様ごとき女が男に指図するなどと……アガッ?」
鬼骨丸は男の左のこめかみを小指で突いた。
裸の男はガクリと頭を落とし、気絶した。
「子が出来たらどうする」
鬼骨丸は男の首をつかみ女から引き剥がし、野に転がした。
「はぁ……危なかった。子に浴びせられるところでした。お客さん。ありがとうございます」
女は乳房も隠さず頭を下げた。
(くえぬ女だ……)
「なんだ? もう腹に子がいるのか?」
「へぇ……多分ですが。私には子が四人おりますが大体十人前ほどの子種で子を宿します。大分抱かれましたのでそろそろいるはずです」
女は優しく自分の腹を撫でた。
「……そいつが目覚める前に早く消えろ」
「さようですな。それではお客さんとは私の家でいたしましょう」
「うん? いたす?……いやまて。私は客では」
「さぁさ行きましょう。お客さんとなら私も具合よくなれる気がします。私の勘はよくあたります」
「待て待て待て……なんだなんだなんだ? とりあえずなにか着ろ」
初めて会った全裸の女に手を引かれる自分……そして……
(……えれぇことになってんな)
屹立し、固く熱を持った鬼骨丸自身……
(何も抑えられねぇな俺は……)
「……山籠りのせいだ」
自分に言い訳をした。