十六
「馬鹿が!!……ぐっ!!」
「ひぃっ!!」
轟音が響く。
赤髪の男は巨人の振り落とされた一撃を刀でもって受け止めた。
「なぜお前がここにいる!?ツグミは何を……おっ……!?」
「ここまでだよ!! 兄様!!いや……鬼骨丸ぅ!!!! 行けぇ!!潰しちまえぇ!!」
赤髪……いや、鬼骨丸と呼ばれた男は膝をつき、テルミが巨人に鬼骨丸を踏み潰すよう指示を出した…… 巨人はその通りに動く……俺はテルミが巨人を操っている事を理解した。
「広井君!! 私は下柳という者だ!! 君の味方だ!! 早くこちらへ!! ダイダラボッチに潰されるぞ!!」
線の細い男……下柳。
情報量が多すぎて脳がパンクしそうだ。
ダイダラボッチって……あのダイダラボッチかぁ?
「テルミ!! 広井君まで潰しては駄目だ!!……あぁっ!?」
「潰せぇ!! あっ……広井君は殺しちゃダメだったけ……まぁいいでしょ死んでも」
テルミの指示に従ったダイダラボッチが足を落とす……
「海君!!」
「海!!」
「アニキィ!!」
死ぬ間際のスローモーションというものらしい。
俺を追いかけてきたのであろうツグミさんにかぐやさん。チュウ太郎の姿をハッキリととらえることが出来た。
近づく足の裏、叫ぶみんな、そして……赤髪をなびかせ歯を食いしばり何やら呟く鬼骨丸……1、5秒で俺は色々なものを目に焼き付けた
。
「不気の太刀……」
多分鬼骨丸はそう呟いた。
◇◆
「おいお〜い……マジで化けもんかよ兄様ぁ……」
テルミの顔色が悪い。
……無理もない。鬼骨丸は一瞬の一太刀でダイダラボッチの胴体を二つに切り落としたのだった。
「……海に手を……出すな」
だが体力の消耗は激しいらしい。
鬼骨丸の息は荒い。
「兄様忘れたかい?まだこっちにゃ数百の鬼がいるんだぜ? お前ら行けぇ!! あいつら全員ぶち殺せ!!」
「おいテルミ!! 広井君は……」
「うるせぇぞジジィ!! 俺の標的は兄様だ!!『徳川の財産』に踊らされた傀儡は黙ってなぁ!!」
「そそそ……そんな……」
『アァ……ウゥ……』
『ウ……ァ』
不気味な鬼達(?)がにじりよる……どうやらピンチはまだ終わっていないらしい。
「海君!! こっち!!」
「何やってんのよあんたわぁ!?」
「鬼骨丸様の邪魔しちゃ駄目でヤンス!!」
ツグミさんに引っ張られ、下がらされた。
「鬼骨丸? 洗脳? 篭目村? 徳川の財産? ダイダラボッチ? あぁ……」
誰か説明してくれ。
「海!!」
「ハイッ!!」
鬼骨丸が俺の名を呼ぶ……情けないかな背筋をピンと伸ばし返事をしてしまった。
「落ち着け。コイツら全員たたっ切ったら全部説明する。下がってろ」
「ハイッ!!」
誰をどう信じていいかはわからない……だが俺はこの男が敵ではないと感じた。俺らしくないが……第六感だと思った。
「兄様!! 死にかけのくせに『全員たたっ切る』!?笑わせないでよ!!」
「テルミ。愛をなめるなよ?」
鬼骨丸は刀で円を描き構えた。
「……行けぇ!! 鬼ども!!」
「いいぜ。こいっ!! 一度に来るのか? 面倒でなくていい。全員まとめて……」
鍔がカチンと鳴った。
「……かかってこいや!!!!」
鬼達と鬼骨丸……力の差は歴然だった。