十五
「海」
ユキがしっかりとした口調で俺の名を呼んだ。
「どうした……おいっ!?」
ユキのからだが透けている。
「春が来るよ」
「なんだよこれ!? ユキ!! なんだよこれ!?」
「学校は楽しかった。遊ぶのも楽しかった。海とあえてよかった。みんな大好き。海も大好き」
ユキが……消えていく。
「おいっ!! わからねぇ!! わからねぇけど……いくな!! いかないでくれよ!なんだよこれぇ!! いくなよユキぃ!!」
「ユキは冬なんだよ。冬にしかいられない。ユキは冬しか知らないの。次はどこにいくのだろう? また優しい人に出会えるといいな」
「ユキは冬の間だけ存在できる冬の子……次はどこにいくのだろうね? もう二度と会えないかもしれない。お別れをいいなさい」
「時間切れかの……」
ツグミさんとトクさんだった。
「なんだよ!? なに冷静になってんだよ!? ユキが消えるんだぞ!?」
「海くん……妖怪も霊も鬼も妖精も……不思議はあるんだよ。それを信じてあげてね」
「はぁ!? 不思議なんて……」
ないと言いたいがこの状況は……不思議でしか説明できないか……
「ついておいで」
ツグミさんはユキを抱き上げた。
◇
「あれ? みんな?」
篭目村の皆が集まっていた。
かぐやさんにチュウ太郎。タツエさんにハイパーの店長。
「どうして……?」
「いいからおいで」
ツグミさんは皆福神社の奥へと僕を向かわせた。
◇
「……鏡?」
鏡である。
鏡なのに……表面が水溜まりのようにゆらゆらと凪ぎいていた。
「これは『導キ鏡』この世のものでない者を次なる場所へ導く。下手な消えかたをすると魔の国や闇の墓場へと連れていかれるからね。これが私の仕事。『案内人』のね」
「……」
反論したい……下手な設定の芝居はやめろと反論したいがツグミさんは怖いくらい真剣で美しく、鏡の前は息をのむほど神々しい空気をまとっていた。
「次なる場所へ。正しき場所へ。我はこの者を送る。鏡よ導きたまえ……」
ツグミさんは座して手を合わせ呪文らしきものを唱えた。
「海」
「な……なんだユキ?」
「どこかでまた会いたいな。大好き」
「ユ……」
ユキはキラキラと光る光の欠片となり鏡の中へと消えた。
「×××……○○○……ふぅ……」
ツグミさんは立ち上がった。
儀式が終わったのだと思った。
……そして俺はもうユキに会えぬのだと悟った。
「きっ……しょう!!」
◇
「訳わかんねぇ……なにがなにで誰が誰なんだよおぉ!!」
『全て説明する。こっちにおいで。あっ!? コラッ!!』
ツグミさんを振り切って俺は走っていた。
「ありゃあなんだ? イリュージョンか? 洗脳? ユキは? 案内人?」
とにかく一人になって考えたかった。
『馬鹿だ馬鹿だ』といつも他人に言っていた自分がこんなに馬鹿だとは思わなかった。
「!?」
林から出て学校に出た。
「……頼むからこれ以上俺を混乱させないでくれ」
真っ暗な空……巨人と闘う紅蓮の髪の男……
「海君!? こっちへ来るんだ!! 私はテルミだ!! 君を助けに来た!!」
「え!?」
「なんでここにいやがんだ馬鹿!! 逃げろ!!」
「えぇっ!?」
……どうすればいいかわからなかった。
あの人……あの人は……