十四
……その日、ユキが倒れた。
俺はすぐにユキのいる皆福神社……ツグミさんのもとに向かった。
医者が言うには体にどこにも問題はなく、寝ているしかないらしい。
俺はユキに謝った。
そしてユキの為に買っておいた(?)色鉛筆をプレゼントした。
ユキは喜んでくれた……だけどユキはどんどん弱っていった。
……バチが当たったんだと思った。
しかも俺ではなくユキに……
自分が辛いより辛い。
……こんな気持ちは初めてだった。
◆
わらわらと群がる鬼たちに身長20メートルは越えそうな巨大な男……ダイダラボッチ。
その足下には総理大臣側近の下柳と……妖怪使いの『テルミ』
「でかいな……」
「大きさだけではありません。以前のモノより格段に強い。それに……鬼も数十ぴき用意しました。これで彼を救えます」
「そ……そうか。テルミ。全てお前に任せる。必ず広井君を救ってくれ」
「もちろんです下柳さま……必ずや広井海を……」
◇
「本当に怒ってないの?」
「怒ってない。俺が悪かったよ」
何度目の会話かわからない。
ユキは何度も怒っていないか効き、俺は何度も怒っていないといった。
俺は何をしていたんだろう?
ユキが俺を陥れようなんてするはずがない。
この感情すら洗脳によるものだとしても構うもんか。
「今年の冬は楽しかった。みんなが優しかったし海は私の絵をわかってくれた」
「うん。春はもっと面白いよ。暖かくなるし桜が咲く」
「桜かぁ……一度はみたいな。セミも紅葉もみたい」
俺はユキの書いた絵を思い出した。
セミに紅葉に桜……
「ユキは冬の絵は書かないのか?雪とか氷とか……」
「冬はね」
「うん?」
「冬はいいの。冬は『存在』できるから私は冬以外を見たことがない」
「何をいっているんだ?」
今日のユキはなんだか大人っぽい。
まるで自分の死を予感しているようで俺はなんだかいたたまれなかった。
「ユキ。元気になって春も夏も秋も次の冬もみんなで一緒に遊ぼう」
おいおい……俺はこの村に居座るつもりか?
「無理だよ。私は消える」
「……だからやめろってそういうの」
ユキは目を閉じて消え入りそうな声でいった。
「暖かくなったね」
『季節も海も』
そう付け足されたユキの言葉に俺は涙を流しそうになった。
◇
(あぁ来るな……)
鬼骨丸は敵の襲来を背中で感じた。
「今日が俺の命日か……というのはおかしいな」
振り返る。寮が見える。
鬼骨丸は最期に広井海の部屋を訪れるべきかと思ったが止めた。
「……最期なのに会わないんだ?」
ツグミである。
「なんだいたのか? 会わん。これからも元気に生きていてくれればよい。心残りになる。今日でみんな終わりだツグミ。海を頼む」
何もない空間から二太刀が現れ鬼骨丸はそれを握った。
「でかいな……ダイダラボッチか? アイツは骨がおれた。それに鬼が多い。これは本格的に俺は終わりだ……だがなんということはない。愛のためだ」
「鬼骨丸」
「うん?」
「私はあんたに惚れてたよ」
「しっちょったわ」
鬼骨丸は破顔した。ツグミは『あぁこの笑顔にやられたんだ。この笑顔には勝てないな』と脱力した。
「海を頼む」
「ん。鬼骨丸」
「なんだ?」
「また会おう」
「テメェで『鏡』に飛び込むってか?」
鬼骨丸は笑う。
「悪くないかも」
「しっかりしろよ。頼んだぞ」
あぁそうだ。この笑顔はいい。
怒りや悲しみを超越し、笑うことを選んだ男の顔だとツグミは瞳を閉じて噛みしめた。
「……」
再び目を開けると鬼骨丸はいない。
「粋だねぇ……」
ツグミは少しだけ泣いた。