十ニ
◇◆
【徳川家康】は恐怖に震えていた。
丑三つ時火の放たれた城を囲むもののけの群れ。
次々と妖怪たちに殺される兵士たち……
(私もこれまでか……)
いよいよもって家康は自害を決意する。
……だがその時、妖気が消えた。
「なんだ? お主は!?おぉ!!」
家康の前に現れたるは刀を持った年の頃三十程の赤髪の男……鬼骨丸であった。
「さっさと行くぞ。あらかた片付けた」
「鬼骨丸……そうか……また私の命を救ってくれたのだな? 褒美をとらす。なんでも言え」
「……今かよ。……そうだな」
男は口を開いた。
「……お主の息子にか? 息子がいたのか? わかった。私の財産を与えよう……」
「早く逃げるぞ」
家康の死の数年前の話とされている。
◇
(くだらない……)
俺は教科書を読んでいた。
家康暗殺を目論んだ妖怪使いと家康を救った男…… 鬼骨丸……いくら文献が残されていたとはいえ……これはファンタジー過ぎるだろう。
「しかも家康はその男の息子に財産を譲ると約束した? じゃああれか? 徳川埋蔵金はその男の為に遺された? おいおい……」
俺は教科書をダンボールに詰め込んで身支度を終えた。
ユキのために手にいれた色エンピツを除いて……
俺の出した結論……村を出ること……。
唯一の脱出方法の列車の運転士ケータロウにも賄賂のヨーカンを渡し(100本)、抜かりはない。
まぁ、これはある人からの入れ知恵なのだが……
「編入試験までの数日……悔いのないよう精一杯生きよう……」
勝手なことを言っているのはわかっている。
でも俺にもやっと……やっとお父さんお母さんと呼べる人が出来たのだ。
それに……ここで死ぬわけにはいかない。
俺は数日前にかかってきた『テルミ』と名乗る男との電話での会話を思い出した。
◇◆
(……)
(どちら様ですか?)
(海君かな?)
(はい?)
妖艶な……男とも女ともとれる声だった。
(やっと君とコンタクトをとることが出来た……奴等のガードは思った以上に固くてね。君が出てくれてよかった……周りに誰もいないかい? 友達からの電話を装って落ち着いて聞いてくれ……その村は危険だ。君は洗脳されている。このままでは君は殺される……逃げるんだ)
(はぁ?)
切ってやろうかと思ったが男の声は切迫感があり、なにより惹き付けられるようなものがあった。
(実はその村は……×××)
(う……嘘でしょ?)
◇
テルミによると篭目村は総理大臣の王によって作られた洗脳施設……不思議を信じぬ王に都合の悪い思考の者が送り込まれ洗脳のプロによって性格を変えられる……思い当たるふしはある。
ダイダラボッチに学校の早すぎる対応におかしなことだらけのこの村……事実俺は洗脳により性格を変えられてしまった……
「『国立』ってそういうことか……しかし」
俺はいまだに不思議など信じてはいない……このままでは消されるってわけだな。
「なんで俺だ? ユキやかぐやさん。管理人さんも全て洗脳のプロ? わけわからねぇ……」
この村には国……「王」の息がかかったものしか足を踏み入れられぬらしく、テルミは救出に来れぬらしい。
「助かるには隙をつき、俺から脱出するしかない」
半信半疑のまま俺はテルミの言うようにケータロウを買収することにした。
……結果は大成功。
彼は列車の運転を快諾してくれた。
……やっぱりわけわからん。
あのアホの子のケータロウが国に雇われた洗脳のプロとは思えない……俺は誰を信じればいいんだ?
テルミを信じたい『僕』と村のみんなを信じたい『俺』……
「全員が洗脳のプロでなく子供たちや一部の大人が俺と同じこの村に送り込まれた?……考えるのはよそう。答えを知る為には一度この村を出なければ。とりあえず編入試験までは洗脳されたフリでもしておこう」
相手はプロ……信じたフリなど通用しないかもしれない……って俺はやっぱりテルミを信じてるのか……