十一
お久しぶりです
◆
「広井海の洗脳は進んでいるのか? 下柳?」
「はい……順調です」
「そうか。高い金払って『プロの洗脳師たち』を雇ったんだ。もとを取らないとな……時間か……いってくる」
「いってらっしゃいませ……」
(早く……早く広井君を救わねば……あの村は……)
……
◇
「ん? 相変わらず無茶苦茶言ってるなこの人は……」
テレビに映るのはこの国の総理大臣『王』……王権制度を推奨する驚異の支持率一%男だ。
(だから使ってないし払いますしキャンキャン言わんでください)
(なんですかその態度は!? あなたが使い込んだ額は数十億にのぼるのですよ? それは我々国民の血税なのをわかっているのですか!?)
(騒がしい人ですな……あなたの大切な人がどうなってもしりませんぞ?)
(う……私は脅しには屈しません!)
(忠告ですよ……)
これである。
総理大臣の王はこの世にはこびる妖怪たちのフィクサーと呼ばれており、事実彼に牙を剥いた者は謎の死を遂げ、誰も逆らえずにいた。
「くだらないな。さっさと辞めさせてしまえばいいんだ。さて……今日は『新・徳川家康』の授業だ……憂鬱だなぁ……」
俺の大嫌いな新・徳川家康の授業……受験のために覚えたが、あまりにもくだらない内容……
「まぁ仕方がないわな。いってきます!」
リリリリリ……
「はや?」
いきなり公衆電話が鳴り出した。
「公衆電話って鳴るのか? どうしよう……俺が出るべきか……」
リリリリリ……
「管理人さんは外か……よし!」
ガチャ……
「はいもしもし?」
『……』
「もしもーし?」
『海?』
「そうですが?」
『何だか声の感じが変わったな』
聞き覚えのある声……
「もしかして……斎藤さん?」
俺の育ての親……
『そうだ……』
「……どうしました?」
『そうやってお前に敬語を使わしてしまって……悪かったと思っているよ』
「別にいいですよ……他人なわけですし」
『あのな? 海?』
「はい」
『いなくなると大切さがわかるというか……お前がいないと私たち夫婦は心に穴が空いたようなんだ……』
「なんですか急に……」
でも正直嬉しかった。
『それでな? 少し照れ臭いのだが……』
「はい」
『……帰ってこないか?』
「えっ!?」
『正子も賛成してくれている。私の知り合いに正道高校の関係者がいてな。そこにお前を編入させてもいいと言ってくれてるんだ』
「えぇ!? 正道高校に!?」
正道高校は俺が恋ごがれた、とてつもなく金がかかる真のエリートしか通えない全国一の進学校である。
『もう話はつけてある。後は形だけの面接試験をやればお前は正道高校の生徒だ』
「ほ……本当ですか? 斎藤さん?」
『海……照れ臭くて言えなかったが……これからは私たちのことを『父さん』『母さん』と呼んでくれていいんだぞ?』
「えっ……」
『照れるな照れるな……それじゃあ日程を決めようか……×××……』
「……」
斎藤さんの言うことがまったく頭に入ってこない…… 憧れの正道高校……そして何よりも欲していた『愛』が今、手に入ろうとしている……
(篭目村の皆は好きだ……好きだけど……)
「どうしよう……」
◇◆
異形の者……刀を握り、ダラリと脱力する男の身の丈の倍はありそうな黄土色の鬼達が男に一斉に襲いかかった。
「ぬんっ!! すわっ!!」
……全て一太刀である。
男は次々と鬼達の頭と胴体を切り落としていく。
「かあぁぁっ!! ぬぅっ!?」
男の刀が最後の鬼の胴体にめり込み身体の半分を残し止まった。
「すぅ……」
男は息を吸い、肺一杯に空気を溜め込んだ。
鬼が男の頭を握りつぶそうと男の頭に触れた
……瞬間!
「かあぁぁっ!!」
歯を食い縛り、握り、払った。
鬼の胴体は真っ二つになり地面に落ち消えた。
「はぁ……ふぅ……」
胡座をかいて懐から御守りを取り出した。
(『福』よ……そろそろ会えるかもな……)
福とは男が愛した女の名である。
(次の次……いやぁ次だな俺は負ける)
男は何百人と人を斬り、何千もの魔を斬ったがゆえにそう悟った。
「楽しかったな……」
誰に聴かせるわけでもなく呟いた。
(不思議なもんだ。愛ってのは……知らぬうちに心に巣食い俺を何度も動かす。まったくどうにもな……殺意や怒りは抑えられても愛する気持ちを抑えることは出来ぬ……人の心を捨てるため山に籠った俺がどうしたことだ? ましてやアイツは……俺とは……)
男……『鬼骨丸』は目を閉じた。
(ありゃあ豊臣? 違う徳川家康か? そうだ……家康の……)
鬼骨丸は久しく放っておいた過去の記憶に触れることにした。
◇
(俺の心配事は生徒たちには関係ない……しっかりしろ! よし!)
歴史の授業。俺は心のなかで気合いをいれた。
「え〜……今日の授業は真・徳川家康の……はぁ」
「……」
かぐやさんは堂々と机に道具をぶちまけ漫画を描いていた……この人書く方も好きなんだ……いいや。何を言っても聞かないだろうし。
「えと……最近見つかった文献から江戸時代。『魔狩り師』と呼ばれる幽霊、鬼、異形の者と闘い平和を守っていた人達がいたと証明されました」
くだらない……
「時の将軍たちは魔狩り師の力で国を動かしたと言われておりとくに徳川家康は魔狩り師である……誰だっけ?」
ド忘れ、こんなこともある。
「鬼骨丸」
「あぁそうだった」
『鬼骨丸』と呟いたかぐやさんは原稿から目を離さず漫画を書き続ける。
(あのキャラ……鬼骨丸に似てるな)
鬼骨丸は現在オタク女子の間で沖田総司と並ぶほどの人気を持つ。
※腐女子のなかでは鬼骨丸×家康のボーイズラブ同人は鉄板……だとさ……
鬼骨丸の肖像は残されていないが『赤髪の長身ハンサム』という認識らしい。
イケメン死ね。
「え〜……それで家康は鬼骨丸に……」
鬼骨丸などいない。
これじゃ歴史じゃなくてファンタジーだ。