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カンノコ篭目村綺譚。  作者: ヒロモト
皆福神社ご参拝日和。
1/23

プロローグ


 ……くだらない。



 僕、『広井海』のクラスの連中は本当に馬鹿でくだらない奴らばかりだと思う。


「この漫画おもしろいでしょ?」


「知ってる〜〜! デビルハンター・オーシャンが超カッコいいやつね!!」



「なぁなぁ。不思議なものを信じない奴や、国にとって邪魔な奴はある施設にぶちこまれて、洗脳されるらしいぞ〜〜。ブルブル……」


「さすがにそりゃねーだろ!」


「この町の立ち入り禁止の場所あるべ?」


「あるな」


「その山と海のちょうど中心の場所にお宝が埋められてるらしいぞ」


「マジか!? それどこ情報だよ?」


「残念。うちの親父情報です」 「いや! あてになんねわ〜〜! でもお宝堀り当てたらいい女とエッチし放題だよな?」


「お前さぁ〜〜金でセックスして気持ちいいか?」


「やることは同じゃん? こー……穴と棒でスコスコスコスコ……」


「確かに! つーかやめろやその指の動き! リアルすぎるわ!」


「ウケるべ?」

「くやっしいけど! 正直ウケます! だっはっはっ!!」



 (くだらない……)


 僕は教科書類をカバンにつめて、席を立った。

 これ以上こんな場所にいたら僕の崇高なる脳がストライキを起こす。

 せっかくの放課後、有効に使わなければ。



「海」


「うん?」

 話しかけてきたのは『泉谷』…… なんだっけ? どうでもいいや、馬鹿の名前なんて。

 この泉谷はクラスメイト全員を名前で呼ぶ不愉快なスポーツ馬鹿な男だった。

 そのくせやたら女子からモテるので僕はこの男が嫌いだった。

 ……決して嫉妬ではない。


「どうしたの?」


「海に相談があるんだ。きいてくれるかな?」


「……僕はこれから図書館で勉強したいんだ。手短に」


「わかってる実はな……」





 足立の悩みは恋の悩み……俗物らしい低脳な悩みだった。

 コイツら馬鹿な発情期のガキはどれも本で読んだような悩みを相談してくる。

 だから僕は本に書いてあった模範解答を教えてやる。

 コイツらは救いの神でも見つけたかのような目で僕を見る。 お決まりのルートだ。

 本当に仕方のない……なぜコイツら本を読まないのだろうか? まさか文字を読めないのか? 活字を見ると脳が拒否反応を起こすのか? 学べよ馬鹿。


「泉谷君の素直な気持ちをぶつけてみればいいと思う」


「そうか? だ……大丈夫かな?」


「大丈夫じゃないかもしれない。失敗するかもしれない。でも人生は2択で構成されているんだよ。出来るか出来ないか? 正しいか悪いか? 好きか嫌いか? 僕たちはその都度答えを導きだし、人生を歩んでいくしかないんだ。これは歴史的事実なんだよ泉谷君」


「うん〜……なるほどなぁ……さすが海だ」

(なるほどってことがあるかよ。お前ごときが僕の言ったことを理解できると思うなよ?)


 まぁ適当なことを言っただけなので僕にもわからないのだけど。


「よし! 決めたぞ! 海、俺は今日、今から告白するぞ」


「えっ? いきなり?」


 泉谷は1度も立ち止まらないパワー系の馬鹿のようだ。


「頼む海。付き合ってくれ」


「え? え? ちょっと待ってよぉ……泉谷君? 泉谷君?」


 泉谷は僕の腕を掴んで引っ張った。

 ……正直骨が折れると思った。


「あつみ!! ちょっといいかな!! 話があるんだ!!」


「わたし? どうしたの? 泉谷君?」


……



……



……


「嘘みたい……私、ずっとずっと泉谷君が好きで……ごめんなさい。うれしくて……涙が出てきちゃった……」


「ほら……」


「ありがと……」


(泉谷……パワー系馬鹿のくせにハンカチは常備しているのか)


 泉谷が征矢あつみさんにハンカチを差し出した。

 告白は成功。ラブシーンは結構だが、僕はもう行っていいのだろうか? 

 場違いだと思うし、他人の幸せを見せつけられるのは胸くそが悪かった。


「やっぱり海の伝説は本物だな」


「伝説? 伝説って?」


「あのな……」


 僕には伝説があった(一部の間で)

……『広井海に恋のお手伝いをしてもらうと恋が成就する』……と。

 もちろん僕はそんなことは信じてはいないし、幼稚なオカルト絡みの話に巻き込まれるのは迷惑だった。

 だがまぁ…… 感謝されるのは悪い気がしない。

 僕は感謝されるのが好きだ。

 そこには明らかな上下関係が生まれているから小さな優越感を得られる……が、困ったことに胸くその悪いカップル成立の瞬間を見せられることで、そんな優越感は簡単に消え去ってしまうのだが。



「しかしお前ってイイやつだよな!」


 新たに誕生したバカップルがなにやら僕に話しかけているようだ。

仕方ない。適当に話を合わせよう。


「本当にそうだと思う! 広井君って実は女の子から人気あるよ!」


「ふぅん……そうなんだ……えっ!?」



 聞き捨てならない。


 「おいっ! いきなり海と浮気しないでくれよ!」

 「しないよ? ひっどぉ〜〜い! 私が好きなのは泉谷君だけだもん!」


「おぉ……そうか? へへへっ……悪いな海」


(なにが『悪いな』だよ。それよりも僕が人気があるって本当か?)


「海もさ。好きな子いるなら告白したらどうだ?」


「そうだよ! それいい! そしたらダブルデートしようね!」


「うん。それはいいな。海……お前はスゲェいい男だよ。大丈夫、俺が保証する」


「私も保証しちゃう!」


 豚の餌にもならない馬鹿の保証は置いといて……だ。

 確かに僕はスリムで将来有望な男である。


 顔だって悪くはない。

 腕力は無いがしょせん腕力は知力の代用品……いくら体を鍛えようが、腕力が社会に必要とされることはないだろう。

 いや、されてはいけない。僕たちは悲惨な戦争をわすれてはいけないのである。腕力は争いしか生まない。

 ブスや馬鹿がくっつくのは何度も見てきた。

 彼らに出来て僕にできないはずがない。よく考えたら腹が立つじゃないか。

 男女交際に関しては彼らは僕の先をいっているのだ。成績では僕の足元にも及ばないくせに……だ。

(告白するか? だけど……まだあと少し……自信が欲しいな……)



……




……




「足立くんが私のことを好きじゃなくても私はずっと足立くんが好き……これからも足立くんのことを好きでいてもいい?」


「君は僕にはもったいないよ。きっと素敵な相手が見つかるさ」


 やっと泉谷から解放されたと思ったら今度はクラス一のモテ男『足立』が女をフっているシーンを目撃してしまった。

 僕は顔がよくてさらに成績も学年一位である足立も嫌いだった。

……決して嫉妬ではない。


「足立くんのバカ! 足立くんより素敵な人なんているわけ……いるわけないじゃない!!」「待ってよ君!! あれ? 海君じゃないか」


 見つかってしまった……彼もまた僕を馴れ馴れしく名前で呼ぶ。


「……足立くん。余裕だね。勉強もせずに女にかまけて。それともそれが学年一位の余裕なのかな?」


 もう一度言うが、僕は決して彼に嫉妬などしていない。


「まいったな。この事は秘密にしておいてくれないかな? 彼女に悪いからさ」


 どこまでも紳士な男だと思った。

 だが僕は彼の秘密知っている。

 学年一モテる彼が超貧乏人だということを。それを知ったのは偶然だったのだが僕はいつかこれを使って彼に脅しでもかけようと思っていた。


「足立くん。次のテストは僕が一番になる。これは宣戦布告だ。二位になって怒ったり、泣いたりしないでくれよ? 見苦しいものは見たくないからね」


「えっ? なんで? 僕は海君の友達だから海君が一番になったら嬉しいよ?」


 足立はキョトンとした顔でサラリと言った。


「うっ……」


 そう言われるとなんだか僕がすごく性格の悪い男みたいじゃないか。


「……僕は君のように容姿が整ってないから……勉強では絶対に君に勝ちたいんだよ君に僕の気持ちは分からないんだ」


「えっ? なにいってるの? 海君はカッコいいよ?」


「へ?」


 聞き捨てならない。

カッコいい男にカッコいいと言われる……悪い気はしない。


「自信持ちなよ。海君に足りないのはあとは自信だけだよ?」


「それは……本気で言っているの?」


「もちろん! 海君が本気を出したら学校にファンクラブが出来ちゃうんじゃないかな? 僕が保証するよ。おっとこんな時間だ。僕はタイムセールス……いや、用事があるから帰るよ」


「あぁ……」


(タイムセールス頑張れよ……うん)


 僕のなかに確かな自信が生まれた……確信ってやつだ。


「あの二人が保証してくれたんだから……よし!僕は決めたぞ! 男女交際を……する!!」






 ……そして次の日。僕は地獄をみた。


「ごめんなさい…… 私、広井君とはお付き合いできません」


あぁ……僕はどうかしていた。

 あんな馬鹿二人の言ったことを真に受けて……

(なにが『保証する』だ。どうしてくれるんだよ?

一年以内なら僕の傷付いた心を無料でカウンセリングでもしてくれるのか? 馬鹿! 馬鹿に僕の心が癒せるわけないじゃないか! 君たちの保証なんて今後いっさい受け取らないからな)


「違うのよ? 広井君のことは好きなの…… だけど駄目なの。好きのジャンルが違うと言うかなんというか……ごめんなさい……」


「うんうん…… わかるよ。わかるから謝らないで……」


 わかるわけなかった。


(好きなのに付き合えない? 好きだから付き合うんじゃないのか?

 馬鹿なくせに小難しい言い回ししようとするなよ)


「だから…… 本当にごめんなさい…… これからも仲のよいクラスメイトでいてね?」


「もちろんだよ。僕の方こそごめんね」


(なんで僕はフラれたのに謝っているんだろう……悪い夢かな? コレは……)


「じゃあ…… 私……いくから」


「うん」


彼女は一度も振り替えることなく走り去った。

 僕には全く未練がないかの様に……


「あっ……」


 彼女が走り去ったあと、冷静になって考えた僕はとんでもないミスを犯したことに気づいた。


(僕としたことが…… なんてつまらないミスを……)


 僕のミス…… それはクラスメイトに告白して失敗すると気まずいこと。

 そしてこの高校はなぜか3年間クラス替えがないこと……。



「……僕はもう馬鹿とは関わるものか」


僕は馬鹿を理解できない。

 馬鹿だって僕を理解できやしない…… いや、理解されてたまるか。


「寒い……はやく春にならないかな……」


 高校生活二年目が終わりに近づく季節は春……

には少しだけ遠い2月のある日…… ガッツリフラれた僕に冷たい風が容赦なく吹き付けた。



……



……



……



 とある高級マンションで……


「ではどうすると?」「増税か借金をすればよい」


「また? 国民の反感を買いますよ」


「わかっている。冗談だ。あの『宝』をいただくとしよう」


「あの宝? あの宝をですか!? でもあれは……」


「お前の言いたいことはわかっている。だが大丈夫。あと一月やそこらだよ」


「『王様』言いにくいのですが……ゴショゴショゴショ……」


 王と呼ばれた男の顔が青ざめる。


「な……なにぃ! それはならん! あれは……あれは国の宝だ! 財産だ! そんなことは絶対に許されん!」


「ですが……」


「ふざけるな! 何百年待ったと思って……そうだ! 『施設』にぶちこんでしまえばよい! そいつの名は?」




「広井……『広井海』です。17才の高校生」


「広井海か……しかし表だって誘拐というわけにはいかんな……どうしたものか……おぉそうだ! 学校を破壊すればいい! ダイダラボッチがいただろう? そして転校という名目で施設に……村に送ってしまえ」


「が……学校破壊ですか? 王様は本当に無茶苦茶をおっしゃる……

彼が洗脳されなかった場合どうするのです?」


「『下柳』……それを私に言わせるのか? 国の為に広井君には犠牲になってもらうしかなかろう?」


「そんな……王様……」

「別にはじめから事故に見せかけて殺すことだってでき……おっと口が滑った。あくまで犠牲、犠牲だよ……物騒でいかんなぁ。高校生を殺すなんて話。どこで聴かれているかわからんからな。昔から言うだろ? 壁に耳あり障子にメアリー……な・ん・て・な!! ガッハッハッ!!」


「はぁ……」


「下柳。さっそくプランを練るとしよう……奴らをよべ」


「はい……」


(この人のやり方は間違っている。私はどうすればいい? このままでは罪のない高校生の命が……。



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