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Takt  作者: 快流緋水
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視線

 窓の外を見ると,いつの間にか夕暮れになっていた。


 夢現な表情を浮かべる彼女の髪を撫で,ふと気になっていたことを口にした。

 なぜ力を見破ったのかと。

 彼女は笑った。

「見れば分かりますよ。普通の人とは全然違う雰囲気を醸し出しているじゃないですか。」

「だが,それだけじゃどういう力なのかは分からないだろ?」

彼女は髪の先をいじる。

「そうだけど。あとは勘ってとこですね。」

「そうか。」

こざっぱりと言う彼女に,これ以上は突っ込んで聞けなさそうであった。

「そう言えば,まだ名前を聞いていなかったな。」

玻紅璃はくり。」

どういう字を書くのかと聞くと,ピアノを弾くわりには小さい手を広げ,そこに指で書いて見せた。

「珍しい字だな。」

「貴方の名前はなんていうんですか?」

掠夜は玻紅璃の小さな手に書いて見せる。

「人のことは言えないと思いますが?」

「まぁな。」

そう言い,また彼女の髪を撫でる。気持ち良さそうに目を閉じる玻紅璃にキスをしようかと思ったら,邪魔が入った。

「来たか。」

そう言い,服装を整える掠夜。

「この間新しい人が入って,今日紹介して貰うことになっていたんだ。玻紅璃も紹介するからおいで。」

「同じように,力を持つ人たちが来たってことですか?」

「ああ。」

玻紅璃はだるそうに起き上がり,服を着る。

「そういえば,掠夜っていくつですか?」

「26歳。」

「若いんですね。この前テレビで海外演奏のを見たから,結構上かと思ってました。」

眉をひそめて玻紅璃を見る。

「老けて見えるとでも言いたいのか?」

あからさまに不機嫌な声なので,玻紅璃は思わず笑う。

「そんなことないですよ。」

「そう言う玻紅璃はいくつ?」

「22歳です。」

「幼く見える。」

「若く見えるとでも言ってくださいー。」

あからさまに拗ねた声なので,掠夜は仕方ないようにため息をつき,それから彼女の頭を撫でた。

「可愛いってことだよ。おいで。さ,行こうか。」

上手く流されたような思いがしたが,玻紅璃は素直について行った。


 応接間にはまだ誰もいなく,その中をワインボトルとグラス,カナッペなどが乗ったお皿,日本酒と杯などが空を滑るように進み,テーブルに収まった。

「すごーい。これも掠夜の力なんですか?」

「まぁね。何を飲む?」

ソファーに座りながら問われ,思わず笑みを漏らす玻紅璃。

「なんだかホストクラブに来ちゃった感じですね。行ったことはないんですけれど。」

掠夜は軽く笑う。

「玻紅璃が行ったら丸裸で帰されそうだな。」

「失礼ね。」

「で,何を飲む?」

拗ねやすい彼女に笑いつつ再度尋ねる。

「日本酒で。その中のだったら美濃天狗がいいです。」

「へぇ。若いのに日本酒か。」

「私っておじ様うけがいいんです。だから,お付き合いで飲むとなると大体ビールか日本酒。だから,私も好きになっちゃったんですよ。」

「あら,私と一緒におじ様うけがいい子なの。」

突然聞こえた声にびくっとしてドアを見る玻紅璃。一方掠夜は気にすることなく玻紅璃に日本酒を渡し,声の主・玲を見る。

「いらっしゃい,待っていたよ。」

「可愛い子と一緒なのね。醒は?」

「まだ。どうぞ,新しい方。」

玲の後ろにいる男性に席を勧める。

「葵です。初めまして。」

硬そうに挨拶をしてソファーに座る。その横に玲が座り,早速自分で美濃天狗を注ぐ。

「掠夜だ。よろしく。」

グラスを渡し,真っ赤なワインを注ぐ。

「チェリストだったね,確か。今度アートホールで演奏会があったんじゃなかったかな?」

「ええ。」

ワインに口を付けながら周りを窺う。

「珍しいかい?」

「当たり前じゃない。初めて来た所ですもの。」

「ところで,葵の本質はなんだ?」

―――持つ力はなんだ?

ごくりと喉を鳴らす葵。陰の入った声に少し緊張する。それを見取った玲は葵の肩を軽く叩く。

「掠夜はいつもこうなのよ。気にしない方がいいわ。それに,同じ匂いでしょ。少しは安心なさい。」

同じ陰を持つ匂い。安心する匂いでもある。

 葵はまだこの雰囲気に呑まれている様子ではあったが,自分の力とやり方を話した。それを聞いて掠夜は軽くうなずき,彼を入れたことを満足しているようであった。

 玲は自分の杯に美濃天狗を注ぎ,次に玻紅璃の杯にも注いだ。初めて会う人にお酒をついで貰って恐縮している玻紅璃を,玲は大人の笑みで見ていた。

「そんなに硬くならなくてもよろしくてよ。私は玲。貴女は?」

妖艶に微笑む彼女に一瞬目を奪われるが,玻紅璃はにっこり笑って返した。

「玻紅璃です。ヴァイオリンの調子はいかがですか?」

玲の表情が一気に驚きに変わる。

「今日は持って来てないのに,よくヴァイオリニストと分かったわね。私は掠夜や醒,葵と違って,たいして表舞台には立っていないのよ。ホテルのバックミュージックとか結婚式とかで弾いているくらいなんだけど。どこかでお会いしたのかしら?」

「いいえ。なんとなく分かったんです。」

朗らかに言う彼女の横で,掠夜は軽く笑う。

「たいした勘だな。お見事。」

頭を撫でられ,嬉しそうに彼を見る玻紅璃。それを見て,玲はクスリと笑った。

「掠夜の意外な面を見た気がするわ。」

「そうか?まぁ,獲物と思っていたのに,獲物にされたから,玻紅璃は特別なんだろうな。」

「玻紅璃さんを獲物にしようと思っていたんですか?」

葵が驚いて声を上げる。そんな彼に掠夜は冷ややかに笑う。

「簡単についてきたからね。」

「へぇ。詳しく話してくださらない?」

掠夜と玻紅璃は視線で会話するが,玲の強い視線に阻まれて,折れる形となった。

「まぁいいか。」

そう呟き,掠夜は玻紅璃と会ったところから話し始めた。

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