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Takt  作者: 快流緋水
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BLACK

 侑は都の事件があってから数日後,ウィーンへと飛び立った。

 その彼からは,2週間に1度くらいのペースでメールが仲間に届けられている。もちろん内容は,黒い力について。日本よりも音楽教育が進んでいるだけあって,黒い力の予備軍と思われる人は多数いるそうだ。だが,その人たちは純粋に音楽を求めているから,発展しなさそうだとも。

 だからといって,侑は遊んでいるわけではない。実力が勝負の世界だ。世界的に有名な掠夜や醒,葵のようになるためには,まだまだ技術を身につけないといけない。

 それが黒い力の増幅にも繋がる。


 葵は2度と来たくはないと思っていたが,都のことがあったので,再び綾子の病室を訪れた。考えてみれば,近所の記憶を作為したけれど,肝心の彼女の記憶はまったく触れなかった。掠夜が振るった力で終わりにしていたのだ。それが盲点だった。綾子が忘れていていれば,刺されることはなかった。

 だが,今言っても詮のないことである。

 葵はチェロを奏で,自分たちと関わったことだけでなく,あらゆる記憶を吸い取っていった。抜かりないように。

 そういう用心深さを持ちつつも,力を使うことはやめなかった。

 吸い取ったときのあの快感は,止められない。もちろん,吸い取ったものの魅力も,見ずにはいられない。


 玲は相変わらずで,たまに葵と飲みに行き,醒にお金をもらって楽しんでいた。おじ様受けも良いままだが,自分と同年代の寄り添える人をきちんと掴まえていた。もちろん,黒い力は秘密だが,

 また,仕事上は問題ないのだが,再び師に付いて音楽を学び始めた。落とした女性の記憶を変えたはずが,都には事の真相がばれていた。そのことが,都に通用しなかったことが,相当悔しかったのだ。

 ヴァイオリンの腕もどんどん上達し,それに比例していくように力も増幅していった。前と同じように,弾いているときは目を背けたくなるほどの冷酷さがあるが,それはキレの良さでもあった。

 それを感じて満足していた。


 醒は変わらずコンサートの日々を過ごしていた。たまに母校に呼ばれて特別講師として教えてもいたが,やはりコンサートホールで歌っている方が多かった。その場所は多岐に渡り,年に半分は海外で過ごしている。残り半分は日本で過ごし,ごくたまに玻紅璃の伴奏で歌うこともあった。

 年齢を重ねるごとに声にも色が重なり,元々有名ではあったが,確実に声楽家としての地位を確立していった。

 もちろん,力を使うことに厭うことはない。良さそうな獲物を引っ掛け,頂くものだけ頂いて去る。痕跡などは一切残さず,ただそこには鮮やかな狩りをしたという,醒の記憶だけしか残らない。

 手際は以前よりもスマートだ。


 玻紅璃は仕事をしつつ,たまに病院やコミュニティーセンターなどで伴奏や演奏を行っていた。

 掠夜に教わっていることもあり,また勘が鋭いこともあり,黒い力は弱まることを知らずに強くなっていった。もちろん,隠すことも上手くなっている。見た目と裏切るこの黒い力に,玻紅璃は自信を持って操っていた。

 掠夜との関係も変わらずに続いていた。だが,その状態でも玻紅璃はとある男性と結婚に踏み切っていた。もちろん旦那には,力も掠夜のことも秘密である。

 それが色を重ね,力の増幅にも繋がっていた。勘の鋭さと黒い力で狩るときのあの高揚感は,何度味わってもいいものであった。

 今は自分の子どもに力が遺伝するのか,興味津々である。


 掠夜は相変わらず天才的な指揮を披露していた。指揮者としては若いが,評価は上がる一方である。メディアに取り上げられることも多く,海外公演も増え,醒と同じように年の半分は海外にいた。

 黒い力は場所を問わず使い,跡を濁さずにいる。そのやり方は,蠱惑たっぷりで抗えない。誰もが掠夜に陥落していた。

 その完璧さが掠夜である。

 コンサートだけではなく,獲物を弄んで力を増やしていった。

 また,玻紅璃の結婚には心底驚いていたが…驚いた様子は表に出さないが…この距離で満足していた。

 仲間であることは変わりないのだ。



 今まで邪魔する人がいても,語らうときが減っても,仲間は途切れなかった。むしろ集まる一方で,毎回獲物の話が楽しくてしょうがない。

もちろん黒い力が芽生えてきそうな人のチェックも怠らない。情報交換もし,良ければ引き入れる。

 だが,残念ながら…幸運ながら?…仲間になれそうな人もいなく,強い力を持った人もいなかった。

 自分たちは急に芽生えたこの力に対して,優越感に浸っていた。

 一般常識から照らし合わせれば,最も忌むべきものなのだが,この仲間の間には爽やかさしかない。そのギャップを面白く思いつつ,使い続ける。自分を保つためにも,楽しみを得るためにも。




 『次は誰にしよう?』

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