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Takt  作者: 快流緋水
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欠けた環

 今夜は侑の送別会。早めに醒の家に来た玻紅璃は食事の支度をしていた。

テーブルの上にはサーモンとたこのカルパッチョサラダとチーズの盛り合わせ,カナッペ,そして食器類が並べられていた。

メインディッシュは,今オーブンから出した子羊の背肉のグリル焼きだ。

子羊肉特有の香りと香草の香りが食欲をわかせる。

香ばしいお肉を大きなお皿にのせ,周りにプチトマトやブロッコリーなどを添える。

『出来上がり。』

中々な見栄えに満足して言い,このお皿もテーブルにのせた。

ちょうどそのとき玄関のドアが開けられた。

入ってきたのは飲み物を買出しに行っていた醒だ。

玻紅璃は慌てて玄関まで迎えに出る。

『お帰りなさい。』

こういう習慣がない醒は少し驚いた表情を浮かべたが,すぐに軽く微笑んだ。

『ただいま。』

『持ちますね。』

『いや,大丈夫だよ。』

醒はそれだけ言い,空いている手で玻紅璃の頭を撫でた。

『可愛いな。結婚を勧める理由が分かる気がしたよ。』

撫でられた方はなんだか照れくさくて微笑んでうなずくだけであった。

『お,結構出来ているじゃないか。』

テーブルに視線がいった醒が嬉しそうに声を上げた。

自分の家でほとんど食事をしないだけに,テーブルに豪勢な料理がのっていること自体が新鮮なのだろう。

『あとはデザートです。足りるでしょうか?』

『大丈夫だろ。デザートは何?』

そう言いながら冷蔵庫を開けた醒の目の前に,デザートはあった。

『ムースか。』

パステルピンクとホワイトの2段のムースケーキであった。

『ストロベリーレアチーズムースです。』

『器用だな。』

『いやあの…すみません,それは粉を溶かして作るって言う簡単なのです。』

『そんな風に見えないから大丈夫だよ。』

ピンポーン。

インターホンがなり,電話についているディスプレイには3人の姿が映っていた。

玲,葵,侑だ。

『来たか。』

キーをフリーにし,3人を招く。

玻紅璃が玄関にスリッパを揃えて置き,すぐにここの玄関が開かれた。

『来たわよー。』

『いらっしゃい。』

玻紅璃の後ろに立つ醒が言い,玻紅璃はスリッパを勧めている。

それを見て,まず玲が笑い出した。

『なんか新婚の家に来ちゃったみたいじゃない。』

玲のこのセリフにはみんなが笑った。

『年の差夫婦って言われるんだろうな。』

醒が苦笑しながら言い,3人を中に通す。

正面の広い窓からは夕焼けが見え,じきに綺麗な夜景と変わるだろう。

『掠夜さんはまだなんですか?』

すでに来ているだろうと思っていただけに,玲と侑も驚いた顔をしている。

玻紅璃は複雑な表情を浮かべ,醒は肩を小さくすくめた。

『そのうちくるだろ。時間が惜しいから始めよう。』

家主であり,年長者である醒からのことだから反論は出ず,それぞれグラスに好きな飲み物を注いだ。

『侑の前途を祝して。乾杯。』

軽く掲げ,4人もそれに続く。

 あとはいつも通り,獲物の話からスタートし,留学についての話にどんどん進んでいった。

その間にも掠夜が来ることはなく,連絡すら掛かってくる気配すらない。

玻紅璃は気になって携帯電話をチラッと見てしまうが,すぐに視線を逸らして話に溶け込んでいった。

 このまま泊まっていきたいくらい話し込んでいたが,そうもいかないのでいつもよりも早目に終え,駅まで3人を見送った。

玻紅璃は醒の家に戻り,後片付けをすることになっていたからだ。

『悪いな。』

醒は普段していないので手を出さず,邪魔にならないよう,ソファーに座っていた。

『いいんですよ,私も勝手にあれこれ使わせてもらいましたから。』

食器の片付けも済み,流しの中を洗えば完了だ。

『そういえば掠夜は来なかったな。』

『そうですね。日にち間違えていたりして。』

前日に会い,今日のことを話しているだけにそれはあり得ないと思いつつも,口にした。

当然聞いている醒もそんなことはあり得ないと思っていた。

『はい,終わりました。』

『ありがとう,お疲れさん。』

ほっとひと息,と思って玻紅璃は醒の横に座るが,弾かれたように立ち上がった。

『どうした?』

『終電,まだ間に合います!?』

時計を見れば0時半過ぎ。醒は時刻表を取り出して慣れない様子で見る。

『しまった。もうないや。』

気が抜けた玻紅璃はソファーに座り込む。

『タクシー拾って帰るからいいです。』

醒はあまりにしょんぼりした姿に

『だったら泊まっていくか?』

と言った。そして,言ってから慌て始めた。

『いや,意味はないが。』

あまり見ない醒の様子に玻紅璃はくすっと笑った。

『じゃあお言葉に甘えて。』

『そうか。じゃあ飲み直すか?』

『そうですね。』

玻紅璃はワイングラスを,醒はお気に入りのワインを取って来て,今度は静かなグラスを交わした。

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