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Takt  作者: 快流緋水
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つかの間の休息

 葵は携帯電話を持って何度も廊下を行き来していた。

 昨日の出来事を相談すべきか迷っていたのだ。あの時は確かに感じたが,時間がたつと本当だったかどうか不安になる。嫌な相手に会いに行くから,無意識に保護する意味で黒い力を使っていたのかもしれない。それで過剰反応をしていたのかもしれない。

『何しているんだ,葵?』

はっと顔を上げると,今回コンサートで一緒に演奏することとなった尺八奏者の西沢と目が合った。代々尺八奏者の西沢家の血を引くだけあって,葵と同じくらいの年齢なのに素晴らしいテクニシャン。おまけにイケメンということで,話題の人でもあった。

『あ,電話しようか迷っていて。』

誰に,とは言わないが本当の事を言った。それ以外だと変に怪しまれては困るからだ。

『へぇ。彼女?』

『違いますよ。彼女なんていませんし。』

西沢は目を大きくした。

『この間ヴァイオリンを持った人と歩いていたじゃん。』

おそらく,玲のことであろう。ため息が漏れる。

『違います。よく言われますけど,そんなんじゃないですから。』

『へぇ。』

『そういう西沢さんはいるんですか?』

これだけの容姿と経歴を持つ人だ。いないはずはない。まして,何人もいるのでは?と思う人が多数いるだろう。だが,以外にも苦笑をもらすだけであった。

『消えちゃってね。』

『消えた?』

いる,いないのどちらでもない回答に,葵は首をかしげる。西沢はそんな様子を気にすることなく,話を進めた。

『元々彼女って訳じゃないけれど,オレとしては彼女にしようかと思っていて。けど,いなくなっちゃってね。』

人の詮索は好きではないが,西沢の様子があまりにも寂しげなので葵は質問をした。

『友達なんですか?』

『いや。お見合いで知り合ったんだ。ほら,うちって代々こんなんだから相手もそれなりじゃないといけないんだよ。』

旧家には旧家のしきたり通りしなければならないところがある。そこが窮屈なのだが,意外にも西沢は外見に反してそれを受け入れているようだ。

『お見合いで知り合ったのに,いなくなったって?』

『んー,オレもよく分かんないんだ。しかも,今も家には帰ってないらしいよ。てことで,この話はおじゃんになったけど。』

西沢の話を聞けば聞くほど,醒から聞いた都とかぶってくる気がする葵であった。ただ,顔を知らないので聞きようがなかった。また,これ以上細かく聞くのは気が引く。

 葵は柔らかく笑み,西沢の肩を叩いた。

『もっと良い女性から声がかかりますよ。』

『お前もよく言うよなぁ。ま,今度お前のあの彼女を紹介しろよ。』

面食らう。

『だから,彼女じゃないですよー。』

『へいへい。休憩終わったから行くぞー。』


玻紅璃は窓辺に寄って眼下に広がる夜景を見た。煌く光が互いを反射させているかのようにきらきらとしていて美しい。光輝く摩天楼。テレビで見るのとは全く違う。お互いに反射しあっているような煌き。

『綺麗。』

『夜景がね。』

玻紅璃がちょっだけムッとして振り返ると,掠夜は涼しく笑っていた。

『嘘。玻紅璃が綺麗だよ。』

『あ,そういうわけじゃ……。』

容姿に自信をもっているわけではないが,言われれば心に引っかかる。しかし,こう返されてしまうとドキドキしてしまう。

 掠夜はスパークリングワインを出して細身のグラスに注ぎ,玻紅璃に手渡した。お互いにグラスを掲げ,のどに流す。小さな泡がちょっと刺激的。

『美味しい。』

掠夜は笑みを漏らす。

『本当にお酒に強いな。』

玻紅璃は思わず照れる。どちらかと言えば強いのだが,他人から言われるとなんだか恥ずかしいのだ。

『ワイン2本も空けているのに,まだ酔わないからな。』

『2本って,掠夜と一緒に飲んだのよ。掠夜だって強いじゃない。』

掠夜はグラスを一気にあけ,玻紅璃の肩を抱く。

『見かけだけ。』

『本当に?』

玻紅璃が意味を込めて見上げると,さすがにため息をついた。

『ばれたか。』

玻紅璃はにっこり笑む。

『付き合い長いから分かるわよ。それで?』

今度は真剣な眼差しを向ける。

『今日こういう風にしたのは訳があるんでしょ?』

『なにも。』

それだけ言った。玻紅璃は何かあると,ある意味覚悟をしていてのだが,こう切り替えされてしまうとポカンとして何も言い返せなかった。その様子を見て,クスリと笑む。

『飽きないね,玻紅璃は。』

『おもちゃじゃないんですけど?』

拗ねながらソファーに座り,こちらもワインを飲み干す。ピリピリとした刺激がのどを滑り,気持ちとは裏腹にそれが心地良かった。それが分かったのか,掠夜も隣に座り,玻紅璃の頭を撫でた。

『都のことを言おうかと思ったけれど,もうどうでもいいや。』

『掠夜?』

『俺とだけいればいいんだよ。』

まさに愛の告白のような。しかし,今まで一緒にいたから分かる。コレは告白なんかなんかじゃない。じゃれ合いのひとつ。

『さ,話はもうおしまい。』

そう言うなり,掠夜は玻紅璃に覆いかぶさった。


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