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Takt  作者: 快流緋水
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Step

 掠夜は醒と玲を誘ってレストランに来た。先に2人は来ていて,既にワインを飲んでいた。

『待たせたな。』

そう言って座ると,ウェイターが来て掠夜にもワインを注ぎ,それからメニューを差し出した。

『2人は?』

『まだ決めていなくてよ。』

『そ。』

掠夜はウェイターと話しながらコースを決め,それからワインを掲げてから飲んだ。

『決めたのは醒か?』

『あら,残念でした。私よ。』

珍しく掠夜がミスったことに,玲は気をよくしてコロコロと笑う。個室だから気にしなくて良いが,それにしても愉快そうだ。反面,掠夜は少しムスッとしたが肩をすくめて流した。

『玲が選ぶにしては良いな。』

『あんたはそういう生意気な口しか利けないのかしらね。玻紅璃とはどうなのよ?』

ワイングラスを置き,不思議そうに玲を見る。

『なんで?』

『好きな女性には違うんじゃないの〜?』

掠夜は気にする様子もなく,軽く息を吐いた。

『女ってそう思うのか?俺は関係ないと思うけどね。』

『さらに憎たらしい答えだこと。』

10倍返しをしようと口を開いたが,あいにくオードブルが運ばれてきたので玲はおとなしくした。それを見て醒はクスリと笑む。

 掠夜が選んだレストラン。コースのどの品も隙がなく,掠夜らしい。

美味なる食事とワインを楽しみ,デザートを出されたときにようやく本題を出した。

都にあった力が芽生えてきて,自覚してきていることを。

『都に力が出た?』

『本当なの?』

2人とも懐疑的であった。特に醒は都を知っているだけに,信じがたいようだ。

『確かに力はありそうな感じだが,自覚しているのか?』

『それっぽい様子はあったよ。ま,これからどう使っていくかが楽しみだけど。』

洋ナシのムースにヴァニラアイスを乗せて口に運びながら,玲は冷たく掠夜を見た。

『その子に会ったことがないからハッキリとは分からないけど,想像で言わせてもらえれば,使い方を教えてあげた方が楽なんじゃない?』

『調教か。』

玲は露骨に嫌な顔をする。

『醒が言うとエロい。』

思わずコーヒーを噴出しそうになる。

『お前の頭の中はどうなってるんだか。』

『だって。』

『その辺にしとけよ,玲。で,使い方を教えるって?』

玲は残りを平らげ,コーヒーを飲んで息をつく。

『だから,ほら,名前はなんだっけ?』

『都だ。』

『そうじゃなくて,前に邪魔して来た人。』

『あーなんだったかな?』

醒は空を仰ぐ。

『俺も忘れたね。』

掠夜もあっさりと言う。玲は2人の様子に思わず笑みを漏らすが,その点には触れずに話を戻した。

『とりあえず,前に邪魔して来た人がいたでしょ。その人のようにはなって欲しくないわけよ。』

『つまり,俺たちのように染めろってことか。』

玲はまたしても露骨に嫌な顔をするが,今回は口にせず諦めたようにうなずいた。

『なるほど。で,どうする?』

『どうするって,掠夜がするのが1番じゃなくて?』

掠夜は乗り気ではなく,視線を夜景へ変える。

『嫌だね。』

2人はあっけにとられたように掠夜を見る。こうまで拒否する彼も珍しく,また,あまりにもそっけない。

元々掠夜は他人に執着をしないが,こうまでも寄せ付けないのも珍しい。

『けど,1番都がなついているのは掠夜だろ?』

『でもやりたくないね。』

醒と玲は顔を見合わせ,首を傾げる。ここまで拒否されたのなら,もう無理である。

『じゃあ教えるのは止めましょ。その子がどう考えるか見ていればいいんだし。』

『そうだな。俺たちに合わなけりゃぁ,消せばいいだけだ。』

『ああ,それでいいよ。』

お互いに押し付けない,と言うのは分かっているが,今回は2人が譲歩する形で方針が決まった。


玻紅璃は洋服を出しながら,悩んでいた。掠夜からレストランでの食事に招待されたが,改まった席で会うのはこれが初めてなのだ。外で2人が会うのも初めて。いつもと違うだけで,緊張が違う。また,渦を巻いていた心境も続いていたので気持ちが落ち着かなかったのだ。しかし,自分たちの関係を思えば相応ではない心境なだけに,玻紅璃はそれをきっぱりと捨て,招かれようと思っていた。と言っても,慣れない場で会うのはドキドキする。

 クローゼットから洋服を出してはため息を付く。

『これじゃあカジュアルすぎるしなぁ。』

クローゼットをひっくり返すかのように探すのだがなかなか良いのは出ず,ため息とともに片付ける。

『買いに行くって言うのもなぁ。あ,そうだ。』

葵のコンサートへ行くときに来た黒のワンピースを出す。特に飾りがあるわけではないのだが,アクセサリーで雰囲気が変わるワンピースなのだ。

『コレなら。』

身体に当て,鏡をのぞいてみる。これならレストランへ行っても違和感はないだろう。それからジュエリーケースを開き,大き目のイミテーションが付いたネックレスとあわせる。

『あと指輪をしていけばいいかな。』

時々ご褒美と称して買う指輪を見て,お気に入りのをチョイスする。あまりちゃっちい物を付けるとお子様に思えるので,ランクとしては上の方のをチョイスした。

 思い起こせば掠夜との関係は曖昧のまま。ジュエリーなど貰ったことは1度もない。欲しいと思ったこともない。ただなんとなく一緒にいるだけであった。だが,今はなんとなく欲しいような気持ちであった。玻紅璃はジュエリーケースを見ながらおねだりをしようか迷っていた。


 葵は花束を持って綾子の病室に入った。あの事があっただけに近寄らない方が良いのだが,さすがに関係者ということで行かないわけにもいかなかった。また,本当ならば同じ楽団のメンバーと行く予定だったのだが,急遽1人で行くこととなってしまった。

 綾子がどうしてこうなってしまったのかを知っているだけに,行くことが憂鬱だ。

 病室の前に行くと,中からは機械音しか聞こえなかった。家族がいると思っていただけに安心し,念のためにノックをして入ろうとドアノブに手をかけた。すると,かけた瞬間に中から開かれ,面食らってしまった。

『あ。ごめんなさい。』

中から若い女性が出てきて,丁寧に頭を下げて出て行ってしまった。慌てて去る女性の後姿を見て,首を傾げる。

『誰だ?』

と,詮索してみるが分かるわけもなく。葵は何事もなかったように病室に入った。

 だが,それで気付いてしまった。

 微かに漂う黒い靄。

 あの女性がここで何をしていたのかは分からないが,黒い力を使っていたのはハッキリと分かる。

『今の女性……。』


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